最終章

第46話 強くなるために

「強くなろう」


「……アタシたちを呼んだと思ったら突然何を言い出すのよ」


 ある晴れた日の午後。

 俺はヴィニア、ユニ、アリン、グレモリーの四人を集めて王国の訓練施設に来ていた。


「言葉の通りだ。今のままじゃ俺たちは七大悪魔に勝てない。そうだろ?グレモリー」


「そうね、現時点では彼らと対等に戦えるのはレオ王子だけ、もちろん一人で全員を相手にすることは不可能。このままでは敗北必至よ」


「戦力の向上は急務、だがハッキリ言って人類の大半は戦力に数えるのは難しい」


 世界最強と謳われたラレッツの騎士団がヴィネの魔法一つであの有様だったのだ、ジョット王国を含め他国の騎士団など話にならないだろう。


 それにアイツらはヴィネ以上の、文字通り規模が違う魔法を使う。

 その気になれば国一つなど簡単に滅ぼせるだろう、力量が遠く及ばない者たちを集めて生んだ数の差などまるで無意味。

 

 勝つためには七大悪魔に匹敵するだけの実力を身につける、それしかない。


「72の悪魔は俺の力である程度強くなれる、全員の力を合わせれば二体くらいは何とかなるか?」


「恐らくは……というよりもやるしかないでしょ?」


「頼む。あとは無茶を承知で三人にはそれぞれ一体ずつ倒せるくらいになってもらいたい」


「……ホントに無茶言うじゃない。わかったわ、やってやるわよ」


「レオ王子の期待に必ず応えて見せます!」


「アタシより遥かに格上の相手か。いいねぇ、楽しくなってきたじゃないか!」


 少しずつ反応は違えど、三人ともやる気になってくれているようだ。

 

「ただその計算だと……まさかレオ王子が」


「ああ、残り二体は俺に任せてくれ」


 七大悪魔と渡り合える力を持った人類は、現時点ではこれ以上は見つかっていない。

 今俺の元に集まってくれた仲間たちがこちらの最大戦力、このパーティで何とかするしかない。


「本当にできるの?いくらアナタでもあの化け物を二体同時に相手するのは至難の業よ」


「今のままじゃ無理だろうな。だからもっと強くなるために、みんなを呼んだんだ」


 泣き言など言ってられない、強くなるしかないのだ。


「時間もどれだけ残されているかわからない。限られた時間で一気に強くなる必要がある、そのために──」


 俺は一つためを作ってから、これからの俺たちの方針を発表する。


「全員、必殺技を身につけるぞ」


 それに対してみんなはポカンと口を開けるだけだった。

 もちろんふざけているわけではない、大真面目だ。


「何言ってるのよ、ゲームじゃあるまいし」


「まあ、そうだけどな」


 元はゲームの世界なんだけどな、とは口が裂けても言えない。

 それにラスボスを遥かに上回る敵が出てきたり、逆にラスボスは仲間になったりと原作とはまるで違うストーリーを描いているので、もはや全く同じとは言えないのかもしれない。


 だが大事なのは、ゲームを基準に考えればヴィニアたちはまだまだ強くなる余地がある、ということである。

 

「でも奴らに通用するような技を持っているってのは大事だろ?」


「レオ王子の言っていることはわかるわ。ただそう簡単に身につくものなのかしら」


「みんなならできる、そう思ったからこそ呼んだんだ。それに少なくとも当てはあるはずだろ?」


 ゲームにおいてそれぞれが成長した後に使えるようになる固有の技、これこそが奥義になりうるはずだ。


「ヴィニアは奥義を、ユニはオリジナルの魔法を、そしてアリンは独自の剣術を。それぞれ極めて欲しい」


「極めろ、か。無茶言ってくれるじゃないか」


「わかってる。だからこれからは実戦あるのみ、だ」


 モンスターとの戦闘が一番経験値を稼ぎやすい、つまり実践に勝る修行はないというわけだ。

 とりわけ相手が強ければ強いほど経験値が得られる、より強くなれるのだ。


 とはいえ残る敵は七大悪魔だけ、当然だがレベル上げのために彼らとの戦闘を行うわけにもいかない。


「ひたすら模擬戦をやる。みんな本気でぶつかり合って、その中で感覚を掴んでくれ」


「わかりました。ボクの奥義、必ず完成させます!」


「レオさん、私もお手伝いします!」


「シアン⁉︎」


 突然シアンが息を切らしながらこちらに駆け寄ってくる。

 今日こっちに来るという話は聞いていなかったのだが。


「どうしたんだ、リュンヌで何かあったのか?」


「いえ、私も世界を救うお手伝いがしたいと父に訴えたんです。そしたら『レオ王子と共に戦ってこい』と送り出してくれました」


「よく許してくれたな」


「レオさんがいるなら大丈夫、とそう言ってました。それと『私の娘をよろしく頼む』だそうです」


 よろしく頼む、という言葉には別の意味も含まれていそうだが気にしないでおこう。

 しかし愛娘の命を預けてくれるほどに信頼されているのだ、裏切るわけにはいかない、より一層気合が入る。


「というか、もしかしてこれからはウチで過ごすのか?」


「はい、ディビド様も快諾してくださりました。どうぞよろしくお願いします」


 俺には話が来てないが……またいいか。

 正直国際会議が終わってからというものの、こっちに手一杯で国のことはほとんど父に任せているからな。

 このまま俺は奴らとの戦いに集中しよう。


「わかった、こちらこそよろしく頼む」


「はい!私もあれから成長して、どんな傷も治せるようになりました。大怪我をしても大丈夫です、だから全力で修行に臨んでください!」


「頼もしいな、じゃあ修行は近接戦闘組と魔法組で分かれてくれ」


「わかりました!」


「それじゃあ早速やるか。レオのメイドの実力、見せてくれよ!」


 やる気十分のヴィニアとアリンは、すぐさま戦いを始める。

 人類最強クラスのあの二人ならば、互いに鎬を削るだけでも見違えるように成長していくはずだ。


「てことは、アタシはアナタと一対一ってわけね」


「そういうことだな」


「今のアタシじゃまだ遠く及ばないわよ」


「らしくないな、それにすぐ追いついてくるさ。未完成の『あの魔法』があれば、な」


「アナタ、どこまで知ってるのよ……」


「知ってるよ、婚約者のことくらい」


「なっ⁉︎」

 

 ユニは顔を真っ赤にして声にならない声を発したあと、ブンブンと頭を振り払い、それから真剣な表情になった。


「……いいわ、アナタに相応しい相手になるためだもの。やってやるわ」


「信じてるぞ、だから全力で来い」


「ええ、行くわよ!」


 ユニの両手に魔力が迸り、色鮮やかな五色の龍が放たれる。


 少しでも強くなるために、この世界を守るために、七大悪魔を倒すために。

 俺たちにとって地獄のような1ヶ月が始まった。

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