第45話 人類の選択
「七大悪魔という危機が現れた今、もはや一刻の猶予もありません」
「あえて言わせていただきますが、デゾンガーン帝国は半壊、カタリナ王国も甚大な被害を受け、ラレッツ連合王国の騎士団も壊滅。我々人類は既に死の淵に立たされております」
「もはや人類が互いに手を取るしか生き残る道はない。ジオ国王、貴方も理解していただけますね?」
ジオは俯いたまま拳を握りしめる。
この戦いによって自慢の騎士団はなす術なく壊滅、幸いにも死者はほとんど出なかったものの、プライドはボロボロに打ち砕かれたであろう。
加えて実質的に国際会議での発言権も大きく失った、もはや黙って認めるほかないのだ。
敵はラレッツ連合王国でも遠く及ばない、人類が協力しない限り滅ぼされるだけである、と。
「しかし、敵はあまりにも強大。果たして我らになす術はあるのでしょうか」
一人の国王がそう言うと、みんな俯いてしまった。
無理もない、この場にいる全ての人間がアスモデウスの魔法を目の当たりにした。
遊び半分で戦いながらあの実力、本気を出せばどうなるか想像もつかない。
そしてあのレベルの敵が七人、ハッキリ言って現時点では少しも勝機が見えない。
「皆さん、諦めてはなりません。私たちにはレオ国王がいます」
絶望に飲み込まれつつある中、そう発言したのはカタリナ王国の国王であった。
「私は二度も彼に救われました、彼ならきっと七大悪魔をも倒してくれるはずです」
「うむ、レオ国王ならば信じられるな」
「これ以上に心強い味方はないでしょう」
ニム王国のヴァークスやリュンヌ王国のロンもそれに賛同する。
「場違いとはわかっているがあえて言わせてもらいます。間違いなくレオ国王が人類最強、彼こそが最後にして最大の希望です」
遂にはアリンまでもがそんなことを言い出した。
最強の軍事大国と言われたラレッツ連合王国の最強の女騎士がそう言ったのだ、説得力はまるで違う。
「いや、そうちょっと待って──」
「そうだ、今回だってレオ国王がいたから魔王軍もアスモデウスも退けたんだ」
「彼はアスモデウスにも負けていない……いや、凌駕していた!人類は勝てる!」
「今こそレオ国王を中心に団結するのだ!」
カタリナ国王が灯した火は瞬く間に燃え広がり、気がつけば会場にコールが響き渡る。
「父上……」
「レオよ、こんなに立派になって……」
ダメだ、父上はまるで役に立たない。
例の如く感涙しているだけである。
「レオさん、微力ながら私もお力添え致します。誰よりも側で貴方を支えます」
「ボクももっともっと強くなります、いつかレオ王子に信頼してもらえるくらいに!」
「初めて出会ったあの日から、私の運命はもう決まっているわ。どこまでもついていくわよ」
「待ってなさい。アナタの隣に立てるのはアタシだけ……すぐに追いついてみせるわ。絶対にアナタ一人に背負わせたりしないから」
シアン、ヴィニア、グレモリー、ユニ。
みんな決意のこもった真っ直ぐな眼差しを向けてくる。
「仲間が必要だろ?アタシも力を貸すよ」
「それは助かるが、本当にいいのか?」
「ああ……ということで、今までお世話になりました。私を見つけていただいたことには本当に感謝しております、では」
「貴様……」
アリンはジオ・ガルシの元へ向かうと、あまりにも簡潔な別れを済ませた。
それに対して何も言い返せないあたり、先の戦いにて心が折られたのだろうか。
少なくともラレッツを全力として数えるのはもう難しいだろう。
「じゃあこれからよろしくな。約束するよ、アイツらの一人はアタシ一人でやってやる」
「期待してるよ。ってか、完全に俺がやる流れになってるな……」
まあやるしかないのはわかっていた。
それにゲームにおいては昔から世界を救うのはどこかの国の王子か王様と相場が決まっている。
描いてみせようじゃないか、人類のために立ち上がり世界を救った王様の英雄譚を。
「みんな、俺に力を貸してくれ」
俺がそう言うと、シアンたちは笑顔で頷く。
「この場にいらっしゃる皆さまも、どうかお願いします。我らが敵はあまりにも大きい、共に手を取るほか助かる道はありません。皆の力を一つにして、必ずや地上の平和を取り戻しましょう!」
「ウォォォッッ!!」
全員が拳を突き上げて雄叫びを上げる。
こうして人類は一つになった、そして七大悪魔との全面戦争に向けて備えを始めるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「改めまして我らが
そして公にはできないが、俺たちの仲間は他にいる。
「これより我ら72の悪魔は貴方様に忠誠を誓い、この身を捧げます」
ジョット王城の玉座に座している俺の前に跪いているのは、魔王バアル。
俺が真の悪魔の王に目覚め指輪の力を扱えるようになったことにより、魔王軍による侵攻は完全に終息した。
とはいえこれまでのこともあり、表立って協力関係を結ぶのは難しい。
なので国際会議とは別日にバアルが一人で内密に城を訪れ、72の悪魔を代表して俺への忠誠を誓っているのだ。
これは信じられる……と思う。
グレモリーとはよく相談したが、彼女も今のバアルたちの言葉に嘘偽りはないと言っていた。
これまでの全てを水に流し、これからは仲良く協力して、というわけではない。
これまで奴らが多くの人を殺してきた事実は消えないし、その逆もまた然り、俺たちも多くの悪魔の命を奪ってきた。
その過去は決して忘れてはならない。
しかし敵の敵は味方だ、今は七大悪魔という共通の強敵を排除するために力を合わせるしかない。
「仲間はどうしているんだ?」
「既に北方の魔王城は放棄、いつでも馳せ参じられるようジョット王国領内の洞窟に姿を隠しております」
「でも指輪の力を呼べば召喚することもできるんだよな?」
「はい、ですが他の方はそうはいきません。また万が一この国が狙われた時のことを考え、我が配下は領内に配置した方がよいかと」
「そうならないように祈りたいけどな」
ともあれまずは最低限の準備は整った。
人類が一つになり、魔王軍もこちら側についた。
あとは純粋な戦力の強化をどこまでできるか。
自惚れるつもりはないが、現時点で奴らとまともに戦えるのは俺だけ。
指輪の力と72の悪魔を合わせても七大悪魔には遠く及ばない、ヴィニアやユニがいかに成長するかがこれからの鍵だ。
そして俺自身も──
「もっと強くならないとな」
まさにレベル上げが必要だ、いつか来たる決戦の時に向けて。
運命のカウントダウンは確実に進んでいるのであった。
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