第44話 七大悪魔
「わかってたはずやけどやっぱ信じられへんわ。ウチの魔法についていける人がおるんやな」
「俺も驚いてるよ、自分がこんな魔法を使えるなんてな」
一度目の魔法は全くの互角。
しかしお互いに力を解放したとはいえまだ手探りの段階、こんなのは序の口に過ぎない。
「何よこれ、こんな魔力は今まで感じたことない……レオ、アンタまさか……日常レベルでずっと手加減してたっていうの⁉︎」
「手加減してたんじゃない、どんなに頑張っても全力を出せなかったんだ。身体が勝手にブレーキをかけてしまう、だから少なくとも今までの魔法も全力を出しているつもりではあった」
「やから楽に連れていけるなって思ってたんやせど、バアルがいらんことするから大変になってしもたやん……ホンマいい迷惑やわ」
「みんな備えろ、また魔法が来るぞ!」
「レオ王子だけには任せられないわ、ここは私が!」
グレモリーの大鎌はこれまでのものよりもさらに巨大化していた。
刃の部分だけで自分自身よりもずっと大きいれを軽々と振るい、アスモデウスの放った炎を両断する。
「グレモリーちゃんがウチの魔法を防ぐなんて、偉大なる王の力は想像以上に厄介やなぁ。あかんわ、油断しとったらウチがやられてまうかもしらへん」
もちろんその言葉は本気ではない。
アスモデウスは俺が真の王としての力に目覚めたことも、無意識のうちに自分の力をセーブしていたことも知った上で姿を現した。
この状況においてなお勝機があると踏んで、俺たちとの戦いに臨んでいるのだから。
つまり俺たちが有利な状況を作るためには、向こうも予想していなかった更なる一手が必要。
「アリン!」
「わかってるよ、時間稼ぎどうも!」
一度目と違い、魔法を対消滅させずに爆発させたのはこのためだ。
アスモデウスの意識をこちらに集中させ、その間にアリンには準備をしてもらう。
強化魔法の重ねがけを限界まで行い、持てる力の全てを解放してもらうための準備を。
「アンタが何者かは知んねーが、コイツを喰らいな!」
アリンの放つ渾身の一撃は躱されてしまう。
だがその衝撃は地面を叩き割るだけでなく、大地を走り、並び立つ建物を断ち切り、街の外壁までもを砕き割った。
「うっそぉ……」
これはアスモデウスにとって予想外であったらしい、あまりの威力の凄まじさに驚きを露わにする。
というか俺にとっても予想外だ、さっきの決闘が途中で終わってくれて良かったとつくづく思う。
「人間って不思議やわ、種族としては悪魔に劣るはずやのに時々悪魔を超える人がおるもんな」
「アタシのこと舐めてっとその首がとぶぜ!」
「こわっ、じゃあちょっとだけ本気出そかな」
「あれは、召喚魔法か⁉︎」
アスモデウスのしなやかな指が宙空に魔法陣を描いたかと思うと、そこから何かがこちらを睨みつけている。
そして大気をビリビリと震わせながら、地獄の龍が地上に喚び出された。
「さぁ、全部焼き尽くすで」
龍の口から炎が吐き出される。
地獄の炎はほんのひとかけらでも地上を焦土にしてしまうと表現されることもある、生半可な対応では全員丸焦げになるだろう。
俺は氷結呪文で炎ごとこの場にある全てを凍りつかせる。
「何よこれ……これがレオの本気のシガレザード?」
「いや、これは上級呪文“シガレル”だ」
「……アタシ、初めて他人のことを『天才だ』と思ったわ」
「驚いた、ユニがそんな褒めるなんて明日には世界が滅亡するんじゃないか?」
「笑えない冗談言ってるんじゃないわよ!さっさとアンタのその才能で、あんな悪魔ぶっ倒しなさい!」
「婚約者のお望みとあればやるしかないな。仰せのままに」
「オラァッ!」
地獄の龍に跨ったアスモデウス目掛けて飛びかかるアリン。
それに対して槍を手に、アスモデウスは迎撃の構えを見せる、だが──
「なっ、身体が⁉︎」
「パワーでアタシに勝てると思うな!」
アリンの一撃を槍で受けようとしたアスモデウスは、そのパワーに負けて目にも止まらぬ勢いで吹き飛ばされていった。
「今の、レオくんの仕業やね?」
壁に勢いよく打ち付けられたアスモデウスは、瓦礫の山の中から立ち上がりそう言った。
「卑怯だなんて思うなよ、持てる力の全てを使っただけだ」
「そんなことは言わんよ、でも相性は悪いなぁ」
グレモリーは言っていた、アスモデウスは72の悪魔の裏切り者だと。
世界を滅ぼさんとする七大悪魔の一角であると同時に、第32の悪魔でもある。
つまり少なからず偉大なる王の力の支配下に、俺の使役対象になっているのだ。
「やっぱ偉大なる王の力は面倒やわ。わざわざ殺したはずやのに、もっと素質のある人が出てきてまうし、難儀やね」
「やっぱり、貴女が偉大なる王を殺したのね。なんでそんなことを……」
「ずっと納得いかんかってん。ウチより遥かに弱い人がウチらを使役するなんてな。あ、レオくんは違うで?ウチら七大悪魔の王になれる素質もあると思ってるからな」
アリンの一撃はあまり効いていないらしい、耐久力も化け物か。
アスモデウスが俺の祖先の偉大なる王を殺した、とか色々と聞きたい話はあるが、今はそんな場合ではない。
指輪の支配と俺の全力の魔法、この二つで倒し切る。
「勝手なことをするな、アスモデウス」
「げ、見つかってしもた」
魔法を放とうと構えたその時、アスモデウスに匹敵する魔力反応が突然現れた。
空間そのものを割って現れたのは、三対の大翼と湾曲した角を持つ禍々しい存在。
「お前は何者だ!」
「私は七大悪魔が一つにして地獄の支配者、大魔王サタン。其方が偉大なる王の血を継ぐ者……いや、既に彼の者とは比にならぬな。さしずめ『唯一無二の王』と言ったところか」
翼と角を除けば美少年のような容貌をしているその悪魔は、自らを大魔王サタンと名乗った。
コイツこそが俺たちの最大の敵、サタンのせいでバアルたちは地獄から逃げ出し、人類を支配しようとして多くの犠牲を産んだ。
この諸悪の根源を倒さぬ限り、そう遠くないうちに人類は滅亡を迎えることになる。
「なんで来たん、地獄はアンタらだけで十分やろ?」
「そういう問題ではない。だが無理に我らの存在を知らしめ、不用意に人類を恐怖に晒す必要はないはずだ」
「苦しんだり怯えたりせんよう一思いにさっと殺すって?そんなんつまらんやん」
「問答を繰り返すつもりはない。戻るぞ」
「はぁ、レオくんを連れて行きたかってんけどなぁ」
渋々、と言った様子でありながらもアスモデウスはサタンに従い、召喚していた地獄の龍も姿を消す。
「ウチはレオくんのこと諦めへんからな、絶対来てもらうで。じゃあまたな」
「いずれ相見える日を楽しみにしている、唯一無二の王よ」
そして二人はこの世界に歪みを無理やり作り出し、地獄へと帰ってしまった。
後を追う、なんて選択肢はなかった、彼女たちを退けるので精一杯だったから。
「とりあえず、俺たちも戻ろう。このことをみんなに知らせなければ……」
史上最悪の存在、七大悪魔。
魔王軍よりも遥かに恐るべき脅威は瞬く間にその名を全世界に轟かせ、各国に激震が走るのであった。
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