第40話 カタリナ防衛戦線④

「レオ王子、それってどういう……」


「奴らは瞬間移動してるんじゃない。動いているところを俺たちが認識できていないんだ」


「驚きました、まさか気がつくとは」


「どうもおかしかったんだよな、瞬間移動をするたびにお前たち全員、向かう方向はバラバラであっても移動距離だけは同じだったからな」


 ガープが操っているのは俺たちの意識だ。

 短い時間ではあるが、ガープは一時的に俺たちの意識を奪っている。

 だから俺たちはその間に起きたことを認識できず、まるで全員が瞬間移動したかのように感じるのだ。


 最初ここに来た時にヴィニアの動きが鈍く見え、今はそう感じないのもこれのせいだ。

 あの時は俺だけが能力にかかっていなかったから、意識を失って動けないヴィニアが疲労でそうなっているかのように見えたのだ。


「素晴らしい観察眼ですね。ただ、それがわかったところで貴方がたにはどうすることもできません」


「いいや、タネさえわかれば何とでもなるさ」


「ほう、ならその方法を見せてもらいましょうか!」


 空を覆い尽くすかのように包囲網を形成した悪魔たちが、全方位から一斉に向かってくる。

 こちらが魔法で迎撃しようとした瞬間、ガープの能力が発動して全員の姿が消える、そして──


「ギャァァァッッ!!」


 あれだけいた悪魔は皆、焼けこげてその場に堕ちていった。


「バカな、意識を失っていたはず……一体何を⁉︎」


「別に、ただ瞬間移動をしていないなら結局確実に魔法を避ける手段はないってことだろ?」


 意識を失っている間、敵を認識して魔法を放つことはできない。

 ならその前に魔法が発動するようにしておけば良い。


 アリンとの戦いでやった時と同じことだ。

 俺たちを覆うように障壁魔法を展開し、そこに攻撃が行われた瞬間に全方位に秘奥火炎呪文“フランダール”が発動するようにしておいた。

 

「俺の意識があろうがなかろうが、逃げ場がないように魔法を放てばいい。それだけの話だ」


 これで残るは青ざめた顔をしたガープだけ。


「……なかなかやるようだな。だが!私を倒すことは不可能!」


「レオ王子、アイツはボクに任せてください」


 そう言ってヴィニアは全身に炎を纏っていく。


「それは……」


 炎で出来た法衣を身に纏い、魔術師のような装いになったヴィニアは、次の瞬間には俺の視界から消えていた。


「なっ⁉︎」


 まるで瞬間移動のようにガープの背後をとったが、あくまで超高速で移動しただけである。

 炎の熱エネルギーによって全身を活性化させて身体能力を強化、更には火炎呪文によって文字通り爆発的な推進力を得られるそれは、勇者が持つ五つの奥義の一つ。


 火の奥義“クリムゾンウィザード”


 遂にヴィニアも勇者として覚醒しつつあった。


「もう貴方の倒し方はわかっています。能力が発動するより早く斬ればいい、それだけですから」


「くそっ、やらせるかっ!」


 ガープは距離を取りながら両手を伸ばして能力を発動しようとするが、爆発と共にヴィニアの姿が消える。


「バカ、な……」


 そして、ガープは真っ二つに両断されていた。


「どうですかレオ王子、ボクも強くなれたでしょうか?」


「ああ、ヴィニアは強いよ。頼れる仲間で、誰にでも自慢できる俺のメイドだ」


「あ、ありがとうございます……」


 勢い余って地面に突っ込んだヴィニアの手を掴んで立ち上がらせる。

 その顔が赤く染まっているのは、さっきまで炎を纏っていたからだろう、多分。


「これでこっちの敵は片付いたな。ヴィニアはここで休んでいてくれ」


「いえ、ボクもレオ王子と一緒に……っ!」


「もう十分頑張ってくれたんだ、これ以上は無茶しないで休んでいてくれ」


 強力な奥義はまだ今のヴィニアには負担が大きいのだろう。

 動こうとして顔をしかめた辺り、先ほどの一撃で既に筋肉痛がきていそうだ。


「よし、じゃあ城まで連れてくぞ」


「えっ、レオ王子⁉︎」


「舌を噛むから喋るなよ」


「でも、この格好は恥ずかしいです……」


「しょうがないだろ、これが一番早いんだ」


 ヴィニアを抱え上げて一番安全であろう城に連れて行き、それから俺は再びアリン達の元へと急ぐ。

 


 その道中、再びアスモデウスが現れた。


「レオ王子、言うんやね。さっきのも見てたけどやっぱり凄いなぁ」


「一部は王子と呼ぶが、一応今は王様だ。それで、また何の用だ」


「レオくんが欲しいなぁって」


「いきなり会ってそんなこと言われても……」


 怪しい、と言いかけてその言葉を飲み込んだ。

 思えばユニとかグレモリーも似たような出会いだったな、特にグレモリーなんか今でこそ頼れる仲間だが、当時は本当に怪しかった。


 そう言った点ではアスモデウスはグレモリーによく似ている。

 ゲームにはあまり登場せず、魔王軍としては動いておらず、一目見るなり俺に興味を持ったなどと発言する。

 

 無視できない存在であることは間違いない。

 ただ、相手をしていられる状況ではないのも事実。


「詳しい話は後で聞く、それでもいいか?」


「ホンマに?話聞いてくれるん嬉しいわ。でも人に見られると怪しまれるから、一人の時に声かけるな。ほなまた後で」


 怪しくはあるが、もしもグレモリーのように仲間にすることが叶えば大きな戦力になってくれるのは間違いない。

 その判断だけは誤らないようにしなければ。


「頑張ってな、レオくん」


 俺は謎の応援を背に受けながら、もう一つの戦場へと急いだ。

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