第38話 カタリナ防衛戦線②
「今の、何が起きたんだ……?」
ベリアルの仕業ではない、ヤツはそれらしい動きはしていなかった。
何の予兆もなく、突然雷撃呪文が発動したかと思うとラレッツ連合王国の騎士団が壊滅状態になっていた。
「大丈夫か、お前らっ!」
「すぐ治療に向かいます!」
「レオ!また来るわよ!」
間髪入れず二撃目の雷撃呪文。
しかし今度は身構えていたこともあって、障壁魔法で防ぎ切る。
「やはりベリアルじゃない……もう一体、別の悪魔がどこかにいる!」
「どこにも姿は見えないわよ」
「待ってくれ、今すぐ見つける」
自身を中心に魔力の探知網を張り巡らせる。
あれだけ強力な魔法を使えるのだ、その辺の兵士や悪魔とは一線を画す魔力反応を示すはず。
「そう簡単にやらせると思うな!」
それを遮るかのようにベリアルがこちらに向かってくる。
「それはアタシのセリフだ」
しかし重力を上乗せしたベリアルの一撃を、アリンは片手一本で軽々と受け止めた。
「よくもアタシの大切な仲間をやってくれたな、覚悟はできてるんだろうな?」
「俺様に楯突くとはな、貴様の方こそ覚悟は良いんだろうな」
「レオ!コイツはアタシがやる、アンタはアイツらをやった敵を探してくれ!」
アリンがベリアルを、ユニが残りの悪魔を相手してくれている間に見つけなければ。
しかしどれだけ索敵範囲を広げてもそれらしき反応はない、姿を消していたりどこかに潜んでいたりするわけではないのだうろか。
「いや、まさか……いた!」
三度降ってきた雷にこちらも雷をぶつけて対抗する。
敵はこの暗雲のその上にいる。
ベリアルにも負けず劣らずの反応の強さ、王の爵位を持つ同格の存在と見て良いだろう。
どういう手段を使っているかはわからないが、視認できない場所からこちらに向けて正確に魔法を放ってきているのだ。
「シアン、そっちはどうなってる⁉︎」
「急いで治療していますが、みなさんダメージが大きく、すぐに動けるようには……」
「わかった。とにかくシアンは生きている人を助ける、それだけを考えてくれ!」
「はい!」
このまま上空の索敵を続けつつ戦うのは魔力の消費が激しい、まずは奴を視認できる状態にしなければ。
「秘奥暴風呪文“テンペトーム”」
難しいことは考えずシンプルに、雲は全て風で吹き飛ばす。
隙間から一瞬だけ遥か上空に佇む悪魔の姿が見えた、だが次の瞬間にはこちらに魔法を放ってきている。
それを相殺した頃には既にその姿は消えていた。
『忠告しておくよ、早めに諦めた方が良い』
どこからか直接声が聞こえてくる。
『僕は36の軍団を率いる地獄の王、第45の悪魔・ヴィネ。僕の目は全てを見通し、一度獲物を視界に捉えたら離さない』
その言葉は嘘ではなさそうだ。
先ほどからお互いに姿が見えないにもかかわらず、正確にこちらに向けて魔法を放ってくる。
防ぐ分には問題ないが、どうしても後手に回ることになってしまう。
『なかなかやるね。だけど残念だ、君が魔術師である限り君に勝ち目はないよ』
「これはプルソンと同じ魔法か!」
ヘビの姿形をした魔力の塊が襲い掛かってくる。
やはりヴィネの姿は見えない、ヤツの持つ特殊能力で一方的にこちらを視ることができるようだ。
厄介な相手だ、早くどうにかしてこちらからも向こうを補足する術を見つけなければ。
「レオ王子、ここは私が受け持つわ」
グレモリーの大鎌がヘビを薙ぎ払う。
「ヴィネは魔術師を探し出す能力を持っている、レオ王子では相性が悪いわ。ここは私に任せてちょうだい」
「任せて良いのか?」
ヴィネは悪魔の中でも最高位の存在、グレモリーにとっては格上の相手。
単純な実力で言えばヴィネには到底及ばないはず。
「大丈夫、みんながこれだけ戦ってるんだもの。私だってやるわ。それにレオ王子はヴィニアちゃんを助けてあげて」
「ヴィニアが⁉︎」
「向こうも増援が来たけど数が多すぎて私たちだけでは手に負えないわ。だからレオ王子の魔法で一掃して欲しいの、今はヴィニアちゃんが一人で頑張ってるから助けてあげて」
背後で大きな爆発音がした。
向こうでも激しい戦闘が繰り広げられているらしい、やはり生半可な戦力ではない。
「君が僕に勝てると、本気でそう思っているのかい?」
「ええ、やってみせるわ。レオ王子の妻として負けるわけにはいかないもの」
「……グレモリー、絶対に死ぬなよ。無事に帰ってこい」
「そう言われたらますます負けられなくなったわね。これが終わったら素敵なご褒美を期待していいかしら」
「ああ、なんでも聞いてやる」
「そう、なら頑張るわ」
「任せたぞ。ユニ!アリン!シアン!みんなもここは頼む!」
王の爵位を持つ二人の強力な悪魔を筆頭に襲いかかる多数の悪魔。
人類側の負傷者は多く、ジオ・ガルシを始めとして各国の要人を守りながら敵を倒さねばならないという状況。
かなり厳しいものではあるが、仲間を信じるしかない。
この場はグレモリーたちに任せ、俺は増援が来たという城の西側に向かう。
その道中、怪しげな雰囲気を纏う一人の女性が俺の前に立ちはだかった。
「へぇ、人間にも随分素敵な方がおるんやね」
「お前は誰だ」
「そんな警戒せんといてや、戦うつもりはないんよ」
その女性はこんな状況にもかかわらず、余裕綽々といった様子で口元に手を当てながら笑う。
「ウチは第32の悪魔・アスモデウス。ほんによろしゅう」
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