第37話 カタリナ防衛戦線①

 アリンを見つけるのはそう難しくなかった、最も激しい戦闘が繰り広げられている場所に向かえば、その中心にはアリンがいるからだ。


「アンタら全員退がってな、コイツらはアタシがやる!」


「幾らアリンさんといえど一人では……」


「アタシの心配はいいから、怪我する前にさっさと安全な場所に軍を退け!」


「何バカなことを言っている!撤退など許さぬ、奴らを一体残らず殲滅せよ!」


「はぁ、バカはどっちだか」


 王都中心街の戦線では、アリンとジオ・ガルシが対立していた。

 無駄な死者を出さないためにも軍を撤退させたいアリンと、軍の強大さを誇示するために自国だけで魔王軍を撃退したいジオ。

 その両者の板挟みとなり指揮系統はもはや機能していない。


「秘奥暴風呪文“テンペトーム”」


 ひとまず近くにいた悪魔は暴風呪文で一掃する。

 先の第一次大魔侵攻と違ってまだ強力な悪魔の姿はどこにもない。

 各国の要人が集まっているところへの襲撃を仕掛けてきたのだ、前回と同等かそれ以上の戦力で攻めてきているとは思うのだが。


 まあいいか、どこかにいることは間違いないのだ。

 とにかく人々を救うことと目の前の敵を倒すことに集中しよう。


「大丈夫ですか?すぐに治します!」


「あ、ありがとうございます……」


 当然ではあるが、ここまでのわずかな時間の交戦でも少なくない負傷者を出している。

 特に最前線で戦っていた兵士は程度に差はあれどみんな傷を負っており、シアンは一人ずつ治療していく。


「小童……どういうつもりだ!」


「どうもこうもありません。アイツらを倒す、ただそれだけです」


「要らぬ!我らの足を引っ張るでない!」


「足を引っ張っているのはどちらか、少し考えればすぐにわかると思いますが」


「なんだと⁉︎」


 こんな何の生産性もないくだらない言い合いをしている間にも、悪魔たちは次々に攻め込んでくる。


「大丈夫、アタシに任せて」


 ユニの両手から冷気が迸る。

 ただの氷結呪文ではない、美しき白銀の世界を創り出す究極の魔法。


「スノーホワイト!」


 氷柱が空を駆け巡り、迫り来る悪魔を閉じ込めて永遠の眠りへと誘う。

 その氷は誰にも砕くことはできない、そして例え氷から出られたとしてももう目を覚ますことはないだろう。


「あえて言わせてもらいます。邪魔なのでどうかここを去ってはくれませんか?」


「小童が……!」


「レオさん、何かきます!」


 突然、渦を巻くような暗雲が空を覆った。

 その中心、幾筋もの雷が走る雲の中から、燃え盛る車に乗った悪魔が姿を現す。

 それと同時に炎の雨が降り注いだ。


「ヤバい!」


 障壁魔法の範囲を限界まで広げ、城下町を丸々覆う傘を作り出す。


「いきなり派手な挨拶をしてくれたな」


「やるな、人間!俺様は80の軍団を率いる地獄の王、第68の悪魔・ベリアル!お前たち人間に死と絶望をもたらす者だ!」


 予想通り、それどころか予想を超えるほどの超大物。

 奴は魔王軍が誇る四天王の一つ、設定も実際のステータスもバアルに次ぐ最強の悪魔の一柱。


「なるほどな、アンタが言ってたことは正しかったってわけだ」


 アリンはどこか嬉しそうにも見える表情でそう言った。


「ありゃヤバいな。ラレッツの騎士団だけじゃ全滅一直線だ、アンタたちがいて助かったよ」


「ふざけるな!どこまで腑抜けたことを申せば気が済むのだ!」


「ふざけてんのはアンタの方だろ?プライドなんて気にしてる場合じゃない、このままじゃ本当に数えきれない人が死ぬ」


「……もう良い、貴様の処遇は帰ってから言い渡す。それより何をしておる、ラレッツの誇りにかけて早く敵を討つのだ!」


 ジオの名を受けてラレッツの騎士団は進軍を始める。

 力づくでも止めたいところだが、ベリアルが睨みを効かせている以上そうもいかない。


「こうなったら、攻撃は最大の防御で行くしかない」


「やられる前に全員やっちゃえ、ってことね?」


「私は戦うことはできないので、引き続き治療をします!」


「良いねぇ、その考え。気に入った、アタシも協力するよ」


「最強の女騎士がいてくれるなら心強いな」


「あら、天才魔術師のアタシがいるのも忘れちゃ困るわよ」


「確かに、怖がってなきゃ期待できるな」


「何ですって⁉︎」


 それにグレモリーとヴィニアもいる。

 いよいよパーティも完成に近づいてきた、これだけ心強い仲間がいれば大丈夫だ。


「雑魚は任せておきなさい。アタシの魔法で一掃するわ」


「じゃあアタシはアイツとの一騎打ちを楽しむ……って普段なら言えるんだけどな。今はそんな場合じゃない、アンタの力を貸してくれ」


「任せろ。俺が撹乱と足止めをする、トドメは頼むぞ?」


「ああ!」


 手筈は整った、勝負は一瞬で決める。

 アリンは自身に強化魔法を重ねがけしており、ユニはその手に莫大な魔力を集中させている。


「二人とも、いくぞ!」


 空を覆っていた障壁魔法を解除し、一気に反撃に出る、その時だった──


「何か来るわよっ⁉︎」


 無数の雷が大地を貫き、ラレッツ連合王国の騎士団は瞬く間に壊滅したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る