第36話 全軍出撃

「な、なんだとっ⁉︎」


 報告を受けて王たちの間に動揺が広がる。

 奴ら、各国の要人が集まっているこの瞬間を狙ってきたな。

 万が一にもここが落とされるようなことがあれば人類の敗北を意味する。

 瞬く間に人類は窮地に追い込まれたわけだ。


「狼狽えるな!」


 そんな中、ジオ・ガルシの一喝が静寂を取り戻した。


「興が削がれたな……まあ良い、これの方がわかりやすくてちょうど良い機会だ、我らの力を見せてやろう」


 ジオ・ガルシの指笛が響き渡ると、あちこちから雄叫びが上がる。


「まさか、密かに大軍を率いていたというのですか?」


「我のおかげで貴様らは助かるのだ、感謝しろ」


「どういうことですか、王様」


 どうやらジオが協定を無視して自国の軍を引き連れていたことを、アリンは知らなかったらしい。


「こうなることも想定していたというだけの話だ。幾ら其方といえど一人では心許ないのでな」


「彼の言葉を信じて今すぐに軍を引くべきです」


「なんだと?王国最強の騎士である其方がまさか怖気付いたとでもいうのか!」


「最強と呼ばれる私と対等以上にやりあえるレオ国王が、魔王軍を脅威と認識しているのです。一般の兵では勝ち目がありません、無駄な死者を出す前に軍を退くべきです!」


「……失望したぞ、アリン・グールップ。もう良い、貴様はそこで怯えて縮こまっていろ。行け!我がラレッツ連合王国最強の騎士団よ、無謀にも我らに挑んできた悪魔どもを返り討ちにしてやるのだ!」


 ジオ・ガルシの命を受け、ラレッツ連合王国の大軍が動き出す。


「そこで見てるが良い。我らが魔王軍を打ち砕くところをな」


 そしてジオは本隊と合流するため、アリンの言葉に耳を傾けずに行ってしまった。

 

「失望したのはアタシの方だよ」


 そう言ってアリンは強く剣を握りしめる。


「行くのか?」


「当たり前だ、死ぬと分かっててむざむざ戦場に行かせるわけにはいかない。アタシを慕ってくれてるヤツらが多いんでね」


「なぁ、なんでアリンはあの人に……って、今はそんなこと聞いてる場合じゃないな」


「ああ、今は時間が欲しい。それにアンタと楽しくなってきたとこでお預けされて消化不良なんだ、この鬱憤はアイツらで晴らさねぇとな!」


 続いてアリンも凄まじい脚力で行ってしまった。

 しかし魔王軍の奴らもまた厄介なタイミングで来たものだ。

 まあこれ以上アリンと戦わずに済んだことに安心している自分もいるのだが。


「それで、どうするの?レオ」


「そんなの決まってるだろ?」


「はい、レオ王子ならそういうと思ってました!」


「あのダメな王様に任せていては私たちまで危ないものね」


「レオさん、私もご一緒させてください。共にこの国を……人々を守りましょう!」


 これは逆にチャンスだ。

 あのわからずやの王様に一人では勝てないということを思い知らせてやらねば。


「よし、それじゃあ俺たちも行くぞ!」


 俺たちも負けじと魔王軍との戦闘に向かう。

 訓練施設から城門を通って外に出ると、街中では既に激しい戦闘が繰り広げられていた。


「カタリナ王国の騎士団が避難を進めているみたいだな、なら俺たちは魔王軍の撃退に集中しよう」


「了解!」


 いつものようにヴィニアとグレモリーが武器を手に悪魔の元へ一直線に向かっていく。


「ねぇ、レオ……ちょっとだけ手を握っててくれない?」


 そう言って差し出された手は小刻みに震えていた。

 やはりまだ怖いのだろう、俺はその言葉通りユニの手を握る。


「ありがと。大丈夫、アタシもやるから」


 ユニはもう一方の手を胸に押し当てて深呼吸を繰り返す。

 次第に握った手の震えは止まり、そこに溢れんばかりの魔力が集まっていく。


「レオ、アナタがいれば怖くないわ。だからそこで見てて、アタシがアナタに相応しい相手になるところを!」


 ユニの右手の指一つ一つに宿るのは異なる属性の五つの魔法。

 それらはほんの小さな球体のはずだったが、指を離れた瞬間に急激に巨大化していく。


 そしてやがて竜の姿となり、彼女の周囲をぐるぐると回り始めた。

 同時に迸る魔力の波動が大気を震わせる。


 空を飛ぶ色鮮やかな五色の竜。

 芸術的で目を奪われそうになるが、その真価はやはり見た目ではなく威力にある。


「これがアタシの、アタシだけの魔法よ!“ビビッドドラゴンブラスター”!」


 五色の竜は地を這い天を翔け、並み居る悪魔たちを次々と飲み込んでいく。

 恐怖を乗り越えて真価を発揮できるようになったユニが放った魔法を止める術などない。

 抵抗らしい抵抗すら許されず、悪魔たちはそれの前に散っていく。


「これが天才魔術師ユニ・アクエスか……」


「どう?これがアタシの力よ!」


「頼もしいな……そして俺も負けてられないな」


 地面にいる悪魔は大抵グレモリーとヴィニアが片付けてくれる。

 俺たちは魔法で空を飛ぶ悪魔を殲滅すべきだろう。


「秘奥暴風呪文“テンペトーム”」


 凪いだ空に突如として襲いかかる嵐が、上空にいる悪魔を端から順に切り刻んでいく。

 わざわざ各国の要人が集まるこの場を襲撃しにきたのだ、おそらく今回もプルソンやバアルに匹敵する大物が来ているはず。

 ならば雑魚に用はない。


 こちらの戦力を集めてさっさと親玉を倒して終わらせる。


「ユニ、シアン、二人は俺と一緒に来てくれ。まずはアリンを追いかけるぞ!」

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