第35話 最強VS最強
ピリピリと肌を突き刺すようなプレッシャー、悪魔と戦っている時に感じるそれとは全くの別物だ。
悪意や殺意など少しも含まれていない、混じり気ない純粋な強さによってのみ生み出されている。
「アタシはアンタと違って魔法はほとんど使えないんだけどな、何故かこれだけは才能があるらしいんだ」
アリンはそう言いながら自身に身体強化魔法を重ねがけしていく。
通常強化魔法で上昇させられる能力には限界があり、2〜3回使えば上限に達する。
だがどうやらアリンにはその上限が無いらしい、魔法を使えば使うほどに際限なく能力強化が行われる。
その状態で繰り出される、彼女が初めて放つ本気の一撃とは──
「ハァッ!」
大地など軽々と砕き割り、隕石が落ちたのではないかと見紛う程のクレーターを作り出す。
障壁魔法で受けるのではなく、避けることに専念したのは正解だったと言わざるを得ない。
さすがにこれを受け止めるのは不可能だ。
ただ問題は、これが必殺の一撃でもなんでもないただの一振りに過ぎないということ。
「秘奥氷結呪文“シガレザード”」
「こんな魔法を使える奴がいるなんてな。アタシはラッキーだ!」
これまで幾度となく立ち塞がる敵を永遠の眠りにつかせてきた氷結呪文、だが魂すら凍てつかせる程の氷塊をアリンは軽々と打ち砕く。
なるほど、この調子だと“実体のあるもの”は一切アリンに通用しないと見ていいだろう。
「それならこっちはどうだ!」
今度は秘奥火炎呪文“フランダール”を発動する。
さっきと違って砕いたり壊したりはできない、これをどう対処してくるのだろうか。
なんて思っていたらアリンはその場で一閃。
剣圧によって生じた風により、燃え盛る炎を掻き消してしまった。
「悪いな、簡単にアタシに魔法が通用するとは思うなよ」
「力だけで大抵はなんとかできるんだな」
このやり取りで分かったことがある。
本人が言うように魔法で攻めればなんとでもなる、なんて安直な考えが通用する相手ではない。
氷結呪文と大地呪文は自慢の身体能力で正面から破られ、火炎呪文と暴風呪文は今のように無効化されてしまうだろう。
ただし一つだけ、アリンには防ぎようのない魔法がある。
「でも、これはどうしようもないだろ?」
雷撃呪文、こればかりは防ぎようがないはずだ。
他の魔法のように剣で受け止めようものなら感電してしまうからな。
「確かにアンタの言う通りだ。でもな、そう言ってその魔法を使ってきたやつは今までもたくさんいたぜ?」
「本当にそうか?」
俺の手を離れた雷は真っ直ぐアリンには向かっていかず、集まって鳥の姿を形作っていく。
アリンのことだ、恐らく魔術師との戦闘経験も豊富。
普通の魔法は対策も完璧でそうそう通用しないだろう、ならば今まで見たことがないような魔法を使うしかない。
その一つがこれ、ユニが生み出した独自の魔法を見るのは間違いなく初めてのはずだ。
「なんだよそれ、魔法ってそんなこともできんだな」
「いくぞ、“ロビンフューネラル”!」
雷でできた幾つもの鳥がアリンに襲いかかる。
防ぐ手段を持たないアリンは避けるしかないが、雷鳥は空を自由自在に飛び回り、何度でもアリン目掛けて突撃を繰り返す。
そしてその間にも鳥は一羽、また一羽とその数を増やしていく。
敵をあの世に送り届けるまで永遠に飛び続ける鳥の群れ、そんな意味を込めてユニはこう名付けたらしい。
まあ今回は決闘なんであの世送りなんて物騒なことはせず、単に無力化できれば十分なのだが。
「厄介な魔法だけど、これならッ!」
激化する攻撃を紙一重でかわしつつ、地面に向かって思い切り剣を振るう。
その一撃で大地を砕き割ったかと思うと、今度は岩盤を一つ一つ蹴り飛ばして雷鳥を無効化していく。
「次はアタシの番だ!」
そして自分で蹴り上げたそれらを今度は宙を浮かぶ足場に変え、立体的な軌道を描きながらこちらに迫ってくる。
「くっ!」
反撃を紙一重のところで避けるが、アリンの追撃は止まらない。
「秘奥大地呪文“アーサムーン”!」
ならば思うように攻撃させないために、足場そのものを魔法で崩す。
さらに迫る一撃も大地呪文の応用により、突然現れた聳え立つ岩壁を盾にして防ぎ切った。
「もう一発、秘奥火炎呪文“フランダール”」
さらに間髪入れず火炎呪文を発動する。
こうも岩の破片やら砂煙が舞っている状況では視界が悪く、先ほどのように掻き消されることなく爆発を引き起こす。
「……アンタ、本当にスゲェよ。間違いなくアタシが出会った中で一番の、最強の相手だ」
黒煙の中からアリンの声がする。
幾ら直撃させなかったとはいえ、アリンは平然と立っていられるらしい。
魔法で強化されたのは身体能力だけじゃない、耐久性も化け物になっているようだ。
ゲームにおいて物理攻撃、物理防御、HPのステータスがずば抜けて高いのにも頷ける。
「まだまだ、勝負はこっからだ。次はアンタがどう仕掛けてくるのか──」
アリンが不敵な笑みを浮かべながら再度構えを取る、その時であった。
「大変です!」
カタリナ王国の兵士が血相を変えて訓練場に飛び込んできた。
「どうした、一体何があった」
「大量の魔王軍が、この城に攻撃を仕掛けてきました!!」
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