第34話 力の証明

「レオ王子、本気ですか⁉︎」


「こんな馬鹿げた話、真に受ける必要なんてないわよ」


「ユニちゃんの言う通りだわ。どうしたの?レオ王子らしくないわ」


「別に、ただ決めたんだ。もう他人任せの生き方はしない、俺がやる、俺が戦うって。もちろんみんなと一緒にな」


 力が全てで絶対だと言うのならば、その言葉通り力で従えるしかない。


「決闘をお受けしましょう。ただし、彼女がそれを望んでいればの話ですが」


 もちろんアリンは俺との決闘など望んでいない。

 このような真似はせずに素直に他国と協力してほしい、そう思っているはずだ。


「王様、今はこのようなことをしている場合ではないかと」


「これは命令だ。アリン、その者に格の違いを見せつけるのだ」


「……わかりました」


 はぁ、つくづくガキみたいな王様だな。

 こんな王様に付き従ってる奴らは苦労してそうだ。

 いや、もしかしたら俺も偉そうに人のことは言えないかもしれないが。


「お二人とも、勝手なことをされては困ります!」


「黙って見ているがいい。すぐにわかるであろう、我らにとって魔王軍など敵ではないということを」


「申し訳ありません皆様。ですが、こうでもしない限りジオ様には奴らの恐ろしさは理解していただけません」


「小童が大口を叩きおる。良かろう、万一にも貴様が勝てば従ってやろう。だがアリンが勝てば、二度とこのくだらぬ話に我を呼ぶでない」


 アリンを仲間にしたいとは思っていたが、まさか敵対することになるとは。

 相変わらず何もかも思うように上手くはいかないものだ。


「ここでは手狭だな、訓練施設を借りるぞ」


 ジオ・ガルシは席を立つと颯爽とカタリナ王国の訓練施設に向かう。


「……申し訳ありません、レオ王子」


「アリンさんが謝るようなことではありません。むしろ謝るべきは私の方です、貴女を巻き込んでしまいました」


「こんな争い、何も生まないのに。ただ……」


 顔を上げたアリンは俺にだけ見えるように笑っていた。


「良くないとはわかっているのですが、かねてより噂を耳にする貴方と戦えると思うと少し嬉しくなります」


 今のアリンを見ていると真面目で誠実な騎士のように見えるが、彼女もまたラレッツの人間。

 強者との戦いを好み、逆境であればあるほど燃える不屈の闘志を持ち合わせた生粋の戦士だ。


「今のうちに謝罪しておきます、戦いが始まればおそらく自分を止められなくなるので。では」


 そんな不安になる言葉を残し、アリンは行ってしまった。

 立場や状況を踏まえてジオを制してはいたが、内心本人もハナからやる気だったということか。


 これは少し判断を誤ったかもしれない、本気のアリンが相手となると勝てるかわからない。


「こうなったらアナタの力、見せつけてあげなさい!」


「信じてるわよ、レオ王子」


「王子の戦い、間近で見て参考にします!」


 しかしまあみんなからは期待を寄せられてしまっているし、こうなったらやるしかない。

 覚悟を決めて気合を入れ、アリンとの決闘に臨む。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「それでは今よりアリンと小童の決闘を始める。どちらかが敗北を認めた時点で決着とする」


 カタリナ王国の訓練施設にある闘技場にて、俺のアリンは向かい合っている。


 正直なところ一対一の戦いになると相性は悪い。

 向こうは得意の剣術を遺憾なく発揮するために距離を詰めてくるだろう、その間合いでの戦いになれば勝ち目はない。


 いかに自分の得意とする距離での戦いに持ち込むか、それがお互いにとっての勝利の鍵となる。


「本気でいきますよ」


「手加減してもらえるとありがたいんだけどな」


「では始めよ!」


 その合図とともにたった一歩で瞬時に距離を詰めにくるアリン。

 予想通り、既に罠は仕掛けてある。


「気をつけろよ、その辺、爆発するからな」


 何かを察したアリンが急ブレーキをかけ、一歩下がる。

 その直後、何もない空間で爆発が起こった。


「な、何が起きたんですか?」


「火炎魔法の表面に透明化の魔法を重ねがけしてるわ。変態的技術ね、まあアタシもできるけど」


 普段はわざわざこんな手間のかかることをする必要はないが、何もない広い空間で近接戦を得意とする相手と一対一、こんな特殊な状況から有効だ。


「迂闊に近づいたら吹っ飛ぶかもしれないぞ」


「触れた瞬間に魔法が発動すると見ました。それなら……」


 アリンは腰の剣に手をかけ、深く沈み込んだ体勢を取る。

 そして、その姿が視界から消えたかと思うと、次の瞬間には剣先が障壁魔法にぶつかっていた。


「触れた魔法が発動する前に駆け抜けるとか、なんつー荒技だよ」


「でも予想していたんですよね?こうして障壁魔法を張っていましたから」


「まあな」


 そしてアリンは気づいていないだろうが、障壁魔法は二重に張ってある。

 今アリンの剣が触れたのは表面のもの、そしてそれも魔法の起爆剤になっている。

 そこに何かが触れた瞬間、秘奥雷撃呪文“ゼルテドライ”が俺の元に落ちてくる。


「まあ俺は内側の障壁魔法があるから喰らうのは向こうだけ……のつもりだったんだけどな」


 間一髪のところで大きく距離をとって避けていたらしい。

 さすが近接戦闘では勇者パーティ随一の戦士、一筋縄ではいかないようだ。


「へっ、まさかこんな凄いやつがいたなんて……」


 そしてアリンの雰囲気が変わった。

 ラレッツ連合王国最強の女騎士、ジオ・ガルシの側近という仮面を脱ぎ捨て、その素顔を露わにする。


「本気を出すのはこれが初めてだ……簡単に倒れられたら困るぜ、アタシを楽しませてくれよ?」

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