第33話 ラレッツ連合王国

「我らが共通の敵、魔王軍は第一次大魔侵攻以後も度々人類に攻撃を繰り返し、各国にて少なからず被害が確認されております」


「特に我々北方に領土を持つ国は連日襲撃を受けておる。奴らの攻勢は凄まじい、このままでは幾つかの国は遠くないうちに滅びるやもしれぬ」


「これは一部の国だけの問題ではありません。いつ自国に魔王軍の脅威が迫るかわかりません、これは人類共通の課題なのです」


 各国の王が次々に魔王軍の恐ろしさを口にする。

 生憎俺やシアンにはあまり発言権がないので聞いてるばかりではあるが、それでも基本的に全員の意見は俺たちと同じようだ。


「ふむ、くだらぬ」


 しかしやはりというべきか、ジオ・ガルシが口を開いた。

 足並みを揃えようというこの時に至ってまで、彼だけは反対の姿勢を崩さない。


「前々から言ってるように奴らなど恐るるに足らぬ。脅威だの協力だのは小国で勝手にやればいい」


「お言葉ですがジオ国王、これはそのような簡単な問題では──」


「我らにとっては簡単だ、何度言わせればわかる。汝等は所詮我らの騎士団の力が欲しい、ただそれだけのことであろう?」


「そうではありません、人類全員が協力して」


「そうなれば我らが率先して軍事力を貸し出すこととなる。そうして我が国が疲弊したところをついて攻め込む、なんてつもりではないのか?」


「ジオ国王!」


 ジオがそう考えてしまうのも致し方ない部分はある。

 なにせラレッツ連合王国は戦争に次ぐ戦争の歴史を背景に持つ。

 幾度となく繰り広げられた血で血を洗う争いを乗り越え、世界最強の軍事力を誇る大国へと成長していったのだ。


 彼らにとっては力が全てあり、勝者こそが正義。

 故にラレッツ連合王国こそが世界で最も優れた国であり、他国は転覆を今か今かと狙う取るに足らない賊ども、そのように認識してしまっているのだ。


「逆に示してみよ、我らラレッツ連合王国が其方らと協力することでどのようなメリットがあるのかをな」


「それは……」


 確かにジオ・ガルシの言う通り、魔王軍との戦闘の際には各国が無条件に軍事介入できるような協定を結んだところで、ラレッツ連合王国にとってのメリットは少ない。

 無駄に他国のために兵力を投入して疲弊するくらいなら、自国の軍だけで全てを完結させた方が良い、という考えになるのも自然だろう。


 ただしそれは、相手がこれまでのような他国であった場合の話。

 結局のところ彼らは理解していないだけなのだ、魔王軍は一国でどうこうなるものではない、と。


「失礼を承知で申させていただきます」


 そう言って席を立ったその瞬間、会場の視線が一斉に集中する。

 お前如きの出る幕はない、暗にそんな圧力すらも感じる。

 

 彼らにもプライドがあるのは理解している、こんな小国の王の言葉になど耳を傾ける気はないのだろう。

 今まではそれを理解し、奴らに合わせて何も言わないでおいた。


 だがこのまま世界が一つにならないくらいなら、俺が全員を黙らせてやる。

 この中で唯一魔王軍と交戦し、勝利を収めたものとして文句は言わせない。


「ジオ国王。いかにラレッツ連合王国といえど、魔王軍の前には我らと大差ありません」


「なんだと……?」


 額に青筋が浮かぶのがわかった。

 勝てないと言うのならまだしも、小国のジョット王国如きと同列にされたことに怒りを覚えているらしい。

 今更そんなことを気にはしないが。


「私には理解できません。なぜ同じ王という立場にありながら、国民の命を最優先に考えることができないのか」


「国を守るのは我らだけで十分だ、小童の力など要らぬ!」


「あまりにも無知であるとしか言えません。魔王軍はそんな生半可なものではない、奴らはたった数体の悪魔でデゾンガーン帝国に壊滅的な被害を及ぼしたのです」


「我らを貴様らと同じにするなと言っておる!」


「そもそも貴方は何も思わないのですか?第一次大魔侵攻において、あまりにも多くの命が失われたのですよ。またその悲劇を繰り返すことがあってはならない、だからこそ共に手を取り合い魔王軍と戦おうと言っているのです!」


「手を取るなどと弱者の戯言に過ぎぬ!良いか、力が全てだ、勝利こそが正義だ!だからこそ我らは誰よりも強く、誰よりも正しい!この際だから言わせてもらおう、貴様ら全員我に従えば良いだけの話なのだ!」


 良くこれで王が務まったな、と呆れそうになる。

 ジオはあくまで軍略に秀でているだけ、政治力は皆無なようだ。

 まあラレッツ連合王国があまりにも特殊過ぎるからこそ、そんなジオ・ガルシを王として国が成り立っているのだが。


 あとは優秀な配下や側近、そしてアリンの影響によるものも大きいだろうか。


「王様、どうか落ち着いてください」


 さすがに見かねたのか、アリンがジオを制する。


「レオ様も、どうかここは……」

 

「出過ぎた真似をしました。ただ、魔王軍と相対したものとして改めて言わせてください。奴らは恐ろしく強い、我らの足並みが揃わぬ限りこれからも多くの血が流れることでしょう」


「ふん、そこまで言うなら見せてやろう。我らラレッツ連合王国は格が違うとな」


「……何をされるおつもりですか?」


「簡単な話だ。小童、アリンと決闘しろ。その身を持って我らが力を思い知るが良い」


 その発言にジオを除くこの場にいた全ての人間が驚きを露わにした。


「ジオ様、冗談を言っている場合では」


「ふざけてなどおらぬ。力が全て、そのたった一つの正義のもとに今日まで繁栄してきたのが我らだ。これが唯一にして絶対の真理なのだ」


 完全なる文化や歴史、それによる認識の違い。

 これがある限り各国が足並みを揃えるのは難しそうだ、それこそ人類が窮地に追い込まれでもしない限りは。

 なら納得させるためにやるべきことは一つ。


「わかりました。その決闘、お受け致しましょう」

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