第32話 国際会議

 第一次大魔侵攻によってデゾンガーン帝国が壊滅的な被害を受けてから1ヶ月。

 俺は今、三度目の国際会議に向けた準備をしていた。


 一度目は被害の報告と人類共通の脅威である魔王軍に対する認識を統一、二度目は具体的な対策のために議論を進めた。

 そして今回、人類がどのようにして魔王軍と戦っていくのか、その指針を明確にする予定である。


「さて、一体どうなることやら……」


 ここまでは実際に第一次大魔侵攻で魔王軍と交戦したということもあり、情報提供や意見を求められてきた。

 だが所詮ジョット王国は他国から見れば取るに足らない小国、最終的な国際決定の場においての発言権はゼロに等しい。


 それを見越した上でこれまでの会議では訴えかけてきたつもりだが、結局のところどうなるかはわからない。

 前も勝てたんだからなんとかなるだろ、という楽観的な答えを出さないことを祈るばかりだ。


「あら、もう準備はいいの?」


 部屋を出ると既にヴィニア、グレモリー、ユニの3人が待っていた。

 各国の要人が集まるため、それぞれがいつものように大軍を引き連れると大変なことになる。

 なので国際会議では各々本当に信頼できる数人だけを連れて行ける。


 当然俺が呼んだのはこの三人だ。

 小国とはいえ、精鋭メンバーの実力だけなら他のどの国にも負けない自信がある。


「ああ、それじゃあ行こうか」


「わかったわ、みんな近づいて」


 俺たちはユニの魔法で大陸の中央に位置する大国、国際会議が行われるカタリナ王国へと向かった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「ジョット王国のレオ国王並びに三名ですね、どうぞお通りください」


 幾つもの厳重な警備を超え、カタリナ王城の会議の間に入る。

 ここは幾人もの高名な魔術師によって特殊な結界が張られているらしく、転移魔法などで直接入ることはできないようになっているらしい。


 まあユニ曰く『その気になれば簡単にできる』そうだが、そんなことをすれば侵入者扱いなので正しいルートで入る。


「お待ちしておりました、レオ様。変わりないようで安心しました」


「ありがとうございます、シアン王女」


 ロン王とシアンは俺たちより先に来ていたらしい。

 お互いの近況なんてよく知り尽くしてはいるのだが、この辺の挨拶は社交辞令というやつだ。


「小童に小娘、もう来ていたのか」


 続いてやってきたのは、カタリナ王国やデゾンガーン帝国に並ぶ大国、ラレッツ連合王国の国王、ジオ・ガルシ。

 齢60は超えているはずなのだが筋骨隆々の壮健な肉体を誇り、世界一の軍事大国の王に恥じないだけの戦闘力を有していると言われている。


「お久しぶりです、ジオ様。本日もいつもとお変わりなくお元気そうですね」


「何を当たり前のことを。例え今魔王軍が攻めてこようと捻り潰してくれよう」


 そして今回の国際会議における最大の懸念点でもある。


「自信がおありのようですね」


「我を誰と心得る。それに彼女もいるのでな」


 そう言ってジオは背後にいる若い女性を顎で指す。

 彼女の名はアリン・グールップ、使える魔法は身体強化魔法だけであるが、生まれ持った身体能力と研ぎ澄まされた技術で魔物を蹂躙する、ラレッツ連合王国最強の女騎士。


 勇者パーティで『戦士』の役目を務め、ヴィニアと共に魔王を倒す仲間の一人でもある。


 ラレッツ連合王国に仕える騎士であることは知っていたが、こうして顔を合わせるのはこれが初めてだ。


「ラレッツ連合王国最強の騎士、アリン・グールップ。かねてよりお噂は伺っております、貴方がいれば頼もしいですね」


「そのようなことは……私など、レオ国王には到底及びません」


「ふむ、まあ魔王軍など取るに足らぬということよ」


 彼だけは未だ魔王軍など大したことない、そう思っているのだ。

 まあ自他ともに認める最高の軍事力を誇る大国だ、プライドというものがあるのかもしれない。


 事実アリンがいれば多少の魔王軍など相手にもならないだろう。

 だが、プルソンやバアルクラスの悪魔が攻めてくればラレッツ連合王国といえど無事では済まない。

 それに何よりアリンの力が欲しい、そのためにも協力する姿勢を見せて欲しいのだが。


「小童も魔王軍を大きく見過ぎだ、大船に乗ったつもりで我に任せよ」


「失礼します、では」


 ただアリンは誠実で義に厚い、よほどのことがない限り主君であるジオ・ガルシの元を離れることはないだろう。

 まあその『よほどのこと』が起きたからこそ、ゲームではジオを見限ってヴィニアの仲間となるわけだが。


 シナリオが大きく変わった今、そのイベントの発生には期待できない。


「なんか、感じ悪い男ね」


「ユニ、声が大きいよ……ボクもそう思うけど」


「気にしていても仕方ないわ。それよりレオ王子、そろそろ始まるそうよ」


「俺たちも席に着くか。こほん、ではシアン王女、また後ほど」


「ええ」


 シアンと軽い別れの挨拶を済ませ、各国の代表者が決められた席に座る。

 俺の席はちょうどジオ・ガルシの正面、自信満々な表情でふんぞり帰っているのがよく見える。


「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。それではさっそく始めていきましょう」


 世界の命運を決める三回目の国際会議が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る