第31話 ユニ・アクエス
「で、なんでユニがまたここにいるんだ?」
第一次大魔侵攻から一週間が経ったある日、俺は自室にてユニ・アクエスと対面していた。
あのデゾンガーン帝国の誇る騎士団ですら魔族の侵攻を受けてほぼ壊滅、人類は魔族を共通の脅威として認識するようになった。
国王である俺はその対応に追われ、先日は緊急で開かれた国際会議にも出席。
各国で足並みを揃えることを正式に表明したほか、国内でも国防の強化などに力を入れた。
最近はそんな忙しい日々を過ごしており、ユニもまた故郷が襲われ、アクエス家の屋敷も壊滅したということでその対応に追われていたそうだ。
なので婚約の話も有耶無耶になっただろう、そう思っていたのだが。
「別にアタシがどこにいようがアナタには関係ないでしょ?」
「いや、ここ俺の国……というか俺の部屋なんだけど」
部屋に戻るとユニが立っていた時には声にならない声が出た。
なんでも転移魔法で直接来たらしいが、本当にもう心臓が飛び出るというか、あれほど驚くような出来事はあと3回転生しても経験することは無いだろう。
「アタシとアナタは婚約者、何の問題はないはずよ」
「だとしてもプライバシーはあるだろ」
「はぁ、細かいこと気にしてるとモテないわよ」
どうしてこの状況と会話の流れで俺が呆れられないといけないのか。
「でも良かったわね、アタシという婚約者ができて。そうじゃなきゃ独り身だったわよ?」
「えーっと、なんというか……」
「なによ、言いたいことがあるなら言いなさいよ」
「一応、他にもいるんだよね、婚約者」
「……は?」
自分でもおかしなことを言ってるのはわかってる。
でも周りから見れば俺とシアンが結婚するのは既定路線だろうし、グレモリーも俺の妻になると宣言している。
そういう意味では既に婚約者が二人いる、その上で縁もゆかりもない相手に突然縁談を持ちかけたのが俺だ。
うん、めちゃめちゃヤバいことしてるな。
欲に塗れないような生き方を心がけていたはずなのに、気がつけば欲に溺れたとしか思えない行動をしている。
「なによそれ、アタシは遊びだったって言うの?」
「いや、そういうわけじゃ……ユニが必要だったのは本当で」
「でもアタシは二番目の女ってことでしょ⁉︎」
「本当に違うんだ、頼む、話を聞いてくれ」
「ふざけないでよ、アタシの純情を返しなさいよ!」
ユニの怒りが爆発した。
その騒ぎを聞きつけて城の者たちがやってきて更なる誤解を招き、ユニを落ち着かせたり誤解を解いたりと色々収束させるのには1時間ほどかかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「つまり、アナタから言い寄ったのはアタシが初めてってわけ?」
「……まあ、そうなるかな」
「ふぅん、つまり本命はアタシってわけね。いいわ、今はそれで納得してあげる」
なぜ既に婚約者が二人もいるのか。
その経緯を事細かに説明させられたところ、ユニの中ではどうにか納得できたらしい。
「まああまり色々と言うつもりはないけれど、勘違いさせないように気をつけなさいよね」
「うん、ゴメン……?」
よくわからないけど謝っておく。
まあひとまず落ち着いてくれたようで本当に良かった。
「それで話を戻すけど、なんでここにいるんだ?」
「その話をするの忘れてたわ。今日からこの国に住むことにしたから」
「……へ?」
一体何を言い出すんだ、この子は。
「お父様にも話はしてあるわ。将来の夫と仲良くするように、と。あとアナタへの言伝もあるわよ。『我が娘をどうぞよろしくお願いします、あと頑張れ』だって。よくわからないけど」
既に家族公認、と。
ますます意味がわからない、というかテンティからの『頑張れ』って言葉には少なからず俺への同情が含まれている気がする。
このワガママ娘には色々と手を焼かされてたんだろうなぁ……
「けどね」
遠い目をしながらテンティがこれまでしてきたであろう苦労に思いを馳せていると、ユニは急に真剣な表情になった。
「アタシはまだ、今すぐアナタの妻になるつもりはないわ。今のアタシはあまりにも未熟だから」
今のユニはいつもとは違う。
いつも、というのはこの前あった時という意味ではなく、ゲームでのユニと違う、という意味だ。
彼女は例え誰が相手でも弱みを見せるようなことはなかったはずだ。
「アタシだってバカじゃない、わかってる。アタシは言葉だけで何もできなかった、現実が何も見えてなかった……」
「そんなことは」
「同情はいらないわ、だってこのまま終わるつもりはないから」
一度目を伏せて大きく深呼吸したかと思うと、今度は強い決意のこもった瞳でこちらを見つめてくる。
「アナタは至高の魔術師よ、これまで出会ったどんな人よりも才能に満ちている。そんなアナタに相応しい相手になれるのは、天才と呼ばれるアタシだけ」
ああ、この笑顔だ。
自信満々で、いつも成功することしか考えていなくて。
普段は振り回されることも多いけれど、それでもいつも隣に立ち、この不適な笑みを浮かべながら圧倒的な魔法で敵を屠る頼れる味方。
それこそが天才大魔術師、ユニ・アクエス。
「だからアタシはこの国の宮廷魔術師になるわ。そして経験を積んで、アタシの理論を実践で使えるものに昇華させる」
「怖くないのか?」
「怖いわよ。でもアナタが近くにいれば大丈夫、そうでしょ?」
「……そうだな、何があってもユニのことは守ってやる。婚約者だからな」
「ありがと、でもいつまでも守られるだけじゃないから。いつかは必ずアナタを超えて、アタシが守れるくらいになるから!」
ユニはビシッと俺を指差して、強気に宣言するのであった。
「アナタは本当に幸運ね。世界で唯一アナタに見合う女が、アナタに相応しい相手になるって言ってるのよ。感謝しなさい!」
「わかった、頼りにしてるよ。これからよろしくな、ユニ」
「ええ、よろしく、レオ!」
こうしてユニ・アクエスはジョット王国の宮廷魔術師兼俺の側近となり、共に魔王と戦う仲間がまた一人増えたのであった。
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