第29話 第一次大魔侵攻④
左からヴィニアが、右からはグレモリーが。
それぞれの得物を携えて突撃していく。
だがプルソンはあの岩で出来た巨像の中、本体を仕留めるにはあの中から引き摺り出す必要がある。
「俺がアレをぶっ壊す、二人がとどめを刺してくれ!」
岩を破壊するなら剣や鎌よりも、魔法で派手に吹き飛ばすのが一番だ。
「秘奥火炎呪文“フランダール”」
最高威力の火炎呪文の爆発で壊れないものなどない。
そしてアレだけの巨大ならばどうしても機動力が劣る、これを避けるのは不可能。
狙い通りフランダールが胴体に命中し、身体を構成していた岩が砕け散る。
その中から手にはトランペットを持ちライオンの頭をした悪魔、プルソンが姿を現した。
「アレが本体だ、二人とも頼むぞ!」
「見事だ、人間と侮っていては足元を掬われそうだな」
プルソンはニヤリと笑いながらトランペットを吹き鳴らす。
するとプルソンの魔力は次第に蛇の姿を取り、俺たち3人に向かって飛びかかってきた。
「我は22の軍団を率いる地獄の王、第20の悪魔・プルソン。我が全力をもって其方たちを屠ってみせよう」
厄介な相手だ、他の悪魔と違って俺たちのことを人間だからと見くびってくれない。
ただでさえ他の悪魔よりもさらに格が上だというのに、油断もしてくれないとなると真っ向から打ち勝つしかない。
「ボクたちも負けるわけにはいかない!」
「いくら王の爵位を持つ貴方といえど、私たち三人を相手に勝てるかしら」
無数の蛇による猛攻を躱しきった二人がほぼ同時に迫る。
だが周囲に飛び散った岩石の破片が集まっていき、再びプルソンは巨像の体内に隠れてしまった。
「王を舐めるなよ、グレモリー!」
そして両腕を使って二人の攻撃を受け止める。
腕は粉々に砕け散ったものの、プルソン本体には何のダメージもない、そしてすぐ再生できるのならば攻撃の意味もない。
「何かヤバい、二人ともすぐに離れろ!」
次の瞬間、巨像の隙間から光が漏れ出たかと思うと一人でに爆発した。
その際に生じた礫の一つ一つが弾丸となり、周囲に存在するあらゆるものが抉り取られていく。
「ほう、今のを防ぐか……いや、其方が守ったのだな」
瞬時に俺が障壁魔法を張ったことに気がついたらしい、次はこちらに仕掛けてくるだろうと身構えたのだが。
「なっ⁉︎速い!」
外殻をパージした巨像はその体躯に見合わぬ恐ろしい速さでこちらに迫ってくる。
直前で障壁魔法を発動するが、パワーも凄まじく、衝撃がこちらにまで響いてきた。
「さすがは地獄の王、これまでの相手とは桁違いだな」
「其方こそ、この魔力量……とても普通の人間とは思えぬ」
「俺は至って普通の人間だよ、そこの二人は違うけどな」
「背後か!」
俺が障壁魔法で食い止めている間にグレモリーとヴィニアが背後からの同時攻撃を仕掛ける。
「ちぃっ⁉︎」
それに対してプルソンは右腕を犠牲にしつつ大きく距離を取る。
当然二人もすぐさま追撃に向かうのだが、トランペットの音に乗じて襲いくる蛇を前に今一つ近づけずにいる。
「秘奥雷撃呪文“ゼルテドライ”!」
「間に合えっ!」
俺の放った雷撃呪文が直撃しそうになったが、先ほどパージした岩石が盾となって防がれてしまった。
さらに再び岩石を纏い、元の巨像に戻っていく。
「厄介ね、これでは堂々巡りだわ」
「倒す方法は二つ、ボクたちが波状攻撃を仕掛けるか、或いは……」
「一撃で巨像ごとぶっ壊すか、だな」
ここまでの連戦に次ぐ連戦で体力も魔力も消費している。
このまま同じことを繰り返してはこちらが不利になってしまう、どこかで一気に仕掛けるしかない。
とはいえ向こうは悪魔の中でも最上位クラス、加えて得意とする大地魔法の応用によるあの巨像はすぐに復活してしまう。
波状攻撃を仕掛けるにはほぼ同時に突っ込む必要があるが、そうなると俺の魔法による同士討ちが怖い。
「一撃で壊すには秘奥呪文を上回る威力の魔法が必要、でもそんなものが……」
「来ないならこっちから仕掛けるぞ!」
プルソンは飛び上がってこちらに接近してくると、上空で巨体を丸める。
その隙間からは再び無数の光が漏れ出した。
「マズイ、ここで爆発するつもりだ!」
一度この攻撃を見ていたユニとグレモリーはすぐさま避難する。
だがこの場にいる白の兵士、そして腰が抜けてしまったユニは動けずにいる。
このままでは全員死んでしまう。
「クソッ!」
目には目を、歯には歯を、爆発には爆発を。
巨像の起爆よりも先にフランダールを放ち、先に外殻を破壊する。
当然至近距離で火炎呪文を使えばこちらにも被害が及ぶが、すぐさま障壁魔法を発動して防ぎ切る。
「中々やるな、だが我の狙いは初めから貴様だ!」
向こうも防がれることを予想していたらしい。
プルソンの巨腕が爆発の中から迫り来る。
「秘奥大地呪文“アーサムーン”」
それに対して俺は今破壊したばかりの岩石の破片を大地呪文で操り、奴の右腕を破壊した。
「これで終わりだ!」
だが続けて魔力の蛇が放たれる。
マズイ、これは俺だけじゃなくユニにまで危険が迫っている。
しかもこの距離では障壁魔法も間に合わない、こうなったら──
「アナタ、どうして……?」
「……自身よりも他者を選ぶか」
「こう見えて俺も王様なんでな、みんなを守る責任ってやつがあるんだよ」
小規模の魔法で蛇を相殺していったのだが、さすがに全てを防ぐことはできなかった。
間をすり抜けてユニに迫る一発を右肩で受け止めたため、そこから血がドクドクと溢れている。
「尊敬に値する、せめて楽に死なせて……ぐぁっ!」
「バカが、一方的にやられただけと思うなよ」
だがあと少しで殴り合いすら可能なこの距離だ、お互いに放たれた魔法への反応が間に合わない。
攻撃を受けながら放った暴風魔法により、プルソン本体の右肩から先を吹き飛ばすことに成功した。
「貴様ッ!よくも我の腕を!」
不意の一撃を受けたプルソンは大きく距離を取り、再度巨像の中に身を隠す。
お互いにダメージも魔力の消費も激しい、ここからが最終局面だ。
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