第27話 第一次大魔侵攻②
上級雷撃呪文“ゼルテル”
中級氷結呪文“シガレ”
上級大地呪文“アマスタ”
向こうが一体どれほどの規模で攻めてきているのかわからない、なので可能な限り魔力の消費を抑えつつ、しかし一匹残さず一撃で仕留めていく。
「ここにいるのは雑魚ばかり、やはり本隊は城に向かってるのか」
魔力の無駄遣いはできない、けど時間もかけていられない。
なかなかに厳しい状況だ、まあ本来人類側が敗北する戦闘なのだから当然か。
この局面を俺たちだけでひっくり返すには、相応の覚悟は必要だろう。
場合によってはプルソンを含む複数の名のある悪魔を同時に相手することになるかもしれない。
「そろそろ城が心配になってきた。ユニ、後は任せて……って」
弱い悪魔しかいないのならばユニに任せてしまおう、そう思っていたのだが。
「怖いのか?」
背後でお手並み拝見と称して俺を見ていたはずのユニは、膝をガクガクと震わせていた。
「そ、そんなはずないじゃない!これは、これは……」
失念していた。
ゲームに登場する天才魔術師ユニ・アクエスは、魔王軍の侵攻によって故郷を失い、それでも悪魔を倒すために魔術の研究と研鑽を積み重ねた末に勇者と巡りあっている。
壮絶な経験をしながらもそれらを乗り越えたからこそ、自慢の魔法を武器に果敢に魔王軍に立ち向かうことができるのだ。
だが今ここにいるのは名家アクエス家で大事に育てられてきた箱入り娘、いきなり戦場に出たところで恐怖に慄くばかりで、本来の実力など発揮できるわけではない。
修行の旅を続けてきたヴィニアや元々悪魔のグレモリーとは違う、戦いそのものを知らないのだ。
「ユニ、後ろ!」
「えっ、きゃぁっ!」
「初級火炎呪文“ラム”!」
ユニには被害が及ばないよう、極力出力を抑えた火炎呪文で悪魔だけを倒す。
幸いにもユニが頭を抱えながらしゃがんだおかげで、魔法のダメージは無かったようだ。
「大丈夫か?」
そう問いかけてみても返事はない。
マズイな、これでは戦うどころかこの場から逃げることもできないだろう。
「少し我慢してくれよ」
「えっ⁉︎」
こうなったらユニを背負っていくしかない。
魔法は必ずしも手から放つ必要はない、それが慣れているというだけで、両手が塞がっていても発動できる。
もちろん誰でもできるわけではなく、練習の上に習得したわけだが、こうも役に立つとは思わなかった。
「しっかり掴まってろ、そこにいれば安心だからな。絶対にユニには指一本触れさせない」
これ以上時間を無駄にはできない。
最速でここにいる悪魔を殲滅し、ユニを連れて城に向かい、この国を守り抜く。
「秘奥氷結呪文“シガレザード”」
滴り落ちる汗も、街並みを焼く炎も、この国を滅ぼさんとする悪魔も。
何もかもを凍らせる吹雪が吹き荒れる。
恐らくこの魔法が一番周辺の建物に、アクエス家の屋敷にダメージなく倒せる方法だ。
「よし、このまま城に向かう。怖いかもしれないが大丈夫、お前のことは絶対に俺が守る」
ユニは何も答えなかったが、俺の首に回した手にギュッと力が入るのを感じながら、強化魔法で加速して城へと急ぐ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ぐぁぁっ!」
「何だあの悪魔は、速すぎる!」
「大国の騎士団がどんなものかと思ったら、大したことねェなァッ⁉︎」
「ダメだ、このままでは……」
「大丈夫ですか⁉︎」
城に着くと、空を異常な速さで自由自在に飛び回る悪魔を前に騎士団が追い詰められていた。
「なっ、民間人がなぜここに!」
「民間人ではありません、ジョット王国の国王、レオ・サモン・ジョットです。貴国の危機を聞きつけて、側近のものと共に馳せ参じました」
「ジョット王国の……国王⁉︎」
「今は私のことは気にしないでください、何としてもこの国を守り抜くことが最優先です!」
「一人二人増えたところで何も変わらねェぞ!」
その悪魔は大翼を広げながら急降下してくる。
弾丸のようや勢いだ、避けるだけでは周囲に被害が及ぶ可能性が高い。
「なっ、テメェ!」
なので障壁魔法で受け止めようとしたのだが、悪魔は直前で動きを止めると上空へと逃げていってしまった。
残念だ、そのまま突っ込んでくれたら自爆してくれただろうに。
「どうした、怖気付いたか?」
「その落ち着きよう、戦いに慣れてやがるな。面白ェ、テメェはこの俺が……50の軍団を率いる地獄の総裁、第10の悪魔・ブエル様が殺してやるよ!」
名のある悪魔は城に来ていたのか、しかも少なくともプルソンもどこかにいるはず。
「二体同時はゴメンだ、プルソンが現れる前にお前を倒す!」
ブエルの軌道を予測し、到達点に向けて火球を放つ。
タイミングと予測は完璧、このまま当たるかと思われたのだが。
「うざいな、お前」
火球とブエルの間に別の悪魔が割り込んだかと思うと、火球の軌道が逸れて真上に飛んでいってしまった。
「まだいたのか」
手に剣を携え、天使のような翼を持ってはいるものの、その雰囲気は明らかに悪魔のそれである。
「俺は30の軍団を率いる地獄の侯爵、第63の悪魔・アンドラス。お前ら邪魔だから皆殺しにするよ」
「二体同時……か」
「気をつけろ、また砲撃が来るぞぉ!」
気合いを入れ直して構えようとしたその時、一人の兵士の声が響く。
その直後、とてつもない轟音と共に城が少し崩れていく。
「な、何なのあれ……どうなってるのよ……」
それを目の当たりにしたユニが震えた声で言った。
俺たちの前には、本来そこにあるはずのない城壁が聳え立っている。
そしてその至る所に備え付けられた砲身からまるで光線のような魔力の塊が放たれ、こちらの城を破壊していく。
「ハッハー、俺様は50の軍団を率いる地獄の侯爵、第43の悪魔・サブナック。そんなチンケな城、俺様が生み出したこれの前にはガラクタ同然だ!」
名のある強力な悪魔が三体同時に城に攻撃を仕掛けている。
さらにはこれらを統率する地獄の王、プルソンまで控えているのだ。
状況は酷く劣勢、俺たちが着いた時点で既に人類は敗北の淵にまで追い込まれていたということ。
「これが第一次大魔侵攻……か」
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