第26話 第一次大魔侵攻①
「冗談だろ、もうこの時が来たってのか……」
魔界から大量の軍勢を引き連れて地上に顕現し、ようやく午前にはこちらに拠点を置いたばかりのはず。
いずれ攻め込んでくることはわかっていたが、こんなに早いとは予想していなかった。
「へぇ、どんな奴か知らないけどアタシの国に攻め込んでくるなんて良い度胸してるじゃない」
グレモリーの報告を受け、ユニはどこか嬉しそうにも見える笑みを浮かべていた。
「いいわ、アタシの魔法の餌食にしてあげる」
「今すぐに国に戻るのか?」
「転移魔法なら一瞬よ」
転移魔法とは一度訪れたことのある場所ならば一瞬で移動できる魔法。
ジョット王国に来るのは初めてだから馬車で来たわけだが、帰りはわざわざ時間をかける必要はないということか。
そして転移魔法は本人だけでなく、周期の人や物を一緒に移動されることも可能だ、ならば。
「一人で行くのは危険だ、俺たちも行く」
「必要ないわ。アタシがいれば十分よ」
「そうかもな、でも俺の魔法を見てみたいとは思わないか?」
ユニの強い視線に負けじと見つめ返し、あえて少し挑発するかのような言う。
「なるほどね、それじゃあお手並み拝見といこうかしら」
「グレモリー、ヴィニアを呼んできてくれ」
「わかったわ」
今回の魔王軍の侵攻がどの程度の規模のものなのか、そしてデゾンガーン帝国がどれほどの軍事力を有しているのかはわからない。
だが世界中に名を轟かすあの国が敗北すれば、人類側の士気に大きく影響する。
それに何よりも、これから多くの人が傷つき命を落とすことがわかっていながら、安全な場所で呑気に過ごしていることなんてできない。
「ところで一国の王が勝手に他国の戦闘に介入して良いのかしら」
「普通なら大問題だろうな。でも婚約者の故郷が襲われているんだ、守ろうとするのは当然のことだろ?」
「詭弁ね」
「詭弁でも何でも良い。まあその辺は任せろ、俺が何とかする」
ゲームにおいて魔王軍が現れた当時、人類は魔王軍をさほど脅威とは認識していなかったとされる。
だがとある事件によって人類は魔王軍を最大の敵と認識し、手を取り合って戦争に臨むようになる。
そのきっかけとなる事件が、デゾンガーン帝国の陥落だ。
魔王軍が極北の荒れた地に城を建てた時、人々は大国であるデゾンガーン帝国が侵攻を食い止める砦となるだろうと考えていた。
だが実際には魔王軍の前にデゾンガーン帝国の誇る騎士団は僅か半日であえなく敗れ去り、滅亡の末路を辿ることとなる。
世界に名を轟かす大国が、たった一度の侵攻で一日と持たず滅亡した。
その報せを受けて人類は初めて魔王軍という最大の敵を前に、国境を超えて一丸となるのだ。
「まあ良いわ、アタシの足は引っ張らないでよ?」
「任せろ、これでも腕には自信があるんだ」
このままでは今日デゾンガーン帝国が滅ぶこととなる。
そしてゲームと同じように歴史が進むのならば、この戦闘でユニは行方不明となってしまう。
今ここで彼女を失うわけにはいかない。
「レオ王子!ボクはいつでもいけます!」
「私もいいわよ」
「そう、それじゃあ近くに来て」
言われた通りユニの元に集まると、世界そのものが歪んでいく。
そして次の瞬間、俺たちはデゾンガーン帝国のアクエス家の屋敷の前におり──
「危ない!」
急いで張った障壁魔法に無数の破片がぶつかる。
「嘘、何これ……」
ユニが思わずそうこぼすのも無理はない。
街の至る所では火の手が上がり、優雅に並んでいたであろう建物は見るも無惨に崩れ去り、事切れた人々の姿が嫌でも目に入る。
王都ですら既にこの有様だ、ここより北にあった村や街はもう……
「呆けてる場合じゃない、まだ生きている人はたくさんいる。一人でも多く助けるぞ!」
逃げている街の人も必死に戦う騎士も大勢いる、城への侵入も許していない、まだ間に合うはずだ。
「ヴィニアは街の人の避難、グレモリーは暴れている悪魔を頼む!」
「わかりました、終わり次第すぐにボクも戦います!」
指示を聞くや否や、ヴィニアは一瞬にして行ってしまった。
「私はとりあえず数を減らせば良いのね」
「ああ、ヤバい奴がいたら無視しても良い。まずは自分を最優先にしてくれ」
「心配してくれてるのね、わかったわ。レオ王子はどうするの?」
「俺はユニと一緒にまずはここ周辺の悪魔を殲滅する。その後は城の防衛に参加するつもりだ、この国を陥させるわけにはいかないからな」
「気をつけて、そこら中から嫌な気配を感じるわ。もしかしたらバアルもいるかも」
「大丈夫だ、俺を信じろ」
「ええ、信じてるわ」
最後にウインクを一つ残してから、大鎌を手に空を翔けていく。
二人がいれば少なからず状況は好転するはず、俺もやるべきことをやろう。
「お、人間発見!」
「人間どもは皆殺し、それがプルソン様の命令だ!」
「プルソン、それがお前らのリーダーの名前か」
思い出した、デゾンガーン帝国が陥落して3年後、つまりゲームにおいてはここは完全に占領され、魔王軍の拠点となっている。
そこを統括するのが地獄の王・プルソン、終盤に立ちはだかる非常に凶悪なボスだ。
バアルではないもののずいぶん厄介な奴が来ているらしい。
「あまりうかうかしてられないな」
雑魚に用はない、さっさと屋敷の周りの悪魔を片付けて城に向かわなければ。
「そういや、俺の実力を見たいって言ってたよな」
「……え?」
「ちょうど良い機会だ、そこで見てな。俺の魔法がユニのお眼鏡に叶うかどうかをな」
上級暴風呪文“テンペン”で下級魔族を薙ぎ払う。
その断末魔を聞きつけて続々と魔族が集まってきた。
これが第一次大魔侵攻。
突然始まった戦闘に思わず苦笑いを浮かべながら、俺は両腕に魔力を集中させた。
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