第25話 お互いが望むもの

「ユニ、いくら何でも早すぎないか?まだ何もわかっていないではないか」


「見ただけで十分すぎるほどにわかったわ。こんな小国にいることが信じられないほどの魔力、彼以外にアタシに相応しい人が現れることはこの先決して無いわ」


「しかし……」


「もうアタシは決めたから」


 明らかに困っている様子のテンティをよそに、ユニは俺に向かってこう言った。


「アタシに目をつけたこと、高く評価してあげるわ。お望み通りアタシが女王になってあげる、感謝しなさい!」


 これがユニと会う上で最も問題視していた部分だ。

 ユニ・アクエス、魔術の天才と評され圧倒的な才覚を持つ彼女は、酷く傲慢な性格をしているのだ。

 彼女が賞賛に値することに関しては疑いの余地もなく、自画自賛するのも無理はない。


 だから小国の王子のことも見下しているだろうし、無視されかねないからと興味を引くために婚約を申し出たのだが……


「世界一のアタシと二番目のアナタ、二人でなら魔法の真髄にすら到達できる気がするわ。これからが楽しみね!」


 思いがけず気に入られてしまい、酷く困惑している。

 既にユニの方は結婚に対して乗り気になっており、テンティも半ば呆れた顔でそれを受け入れつつある。


 これはマズイことになってないか?

 向こうが受けるはずがない、むしろ小国の三下如きが調子に乗るなと怒りを買い、文句を言うために乗り込んでくる可能性もあると考えていた。


 何ならそれでよかったし、とりあえずどんな形であれ向こうを話し合いの席に着かせることが目的だったというのに。


 今回はシアンの一件とは違い、明確に俺の方から婚約を申し出てる、証拠もある。

 あれ、もしかして詰んでる?


「ユニ様、ご一緒に我が城の庭園にでも向かいませんか?」


「いいわね、それとアタシのことはユニで良いわよ。アタシもレオって呼ぶから」


 ここから一体どうしたものかと不安を抱えつつ、当初の予定通り庭園へと向かう。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「私が言うのも何ですが、あんな簡単に決めてしまってよかったのですか?テンティ様もお困りになっていましたが」


「敬語なんていいわよ、堅苦しいのは苦手なのよね」


「そう言うなら…….で、結婚をあんな簡単に決めていいのか?」


「別にいいわ。アタシ、人を好きになるってよくわからないのよね」


 ユニは少しも表情を変えることなく、あっけらかんとそう言い放つ。


「魔術を極める、それがアタシにとって至上の喜びよ。結婚しようがしまいが、誰に愛されようが興味ないわ。アタシが興味あるのは魔法だけ」


 なるほど、確かにゲームにおいてもユニは魔法オタクと評されるほどであった。

 魔王討伐の旅の最中も日夜魔法の研究は欠かさず、自らの手で幾つもの独自の魔法も編み出していく。

 その傲慢な性格も、誰よりも魔法と真摯に向き合い努力を重ねてきたという自負があるからこそのもの、それはわかっていた。


 だが、こんなにも人間に興味がないとは思わなかった。

 傲慢な性格と魔法オタクの部分を除けば比較的常識人であり、作中でも特に対人関係に難があるような描写はなかった。

 むしろ仲間が衝突しそうな時は間に入ったり、対外役を務めたりと、コミュニケーション能力が高いようにすら見えた。


 今ならわかる、これらは全て他人に興味がないからこそできたことなのだろう。

 

「じゃあどうしてこの話を受けようと?」


「アナタほどの才能、アクエス家ウチでも見たことがないわ。アナタといればアタシは更なる高みへ昇っていける」


「だからあの場で返事をしたってわけか」


「逆にアタシの方が聞きたいわ。なぜ遠く離れた国の一貴族であるアタシに対して、突然婚約を申し出たのか」


 当然の疑問だ。

 面識も交流もない国の王様から何の前触れもなく縁談が来たら少なからず困惑するだろう、責任を持って正直に理由を話すべきだ。


「ユニは魔王バアルが地上を侵略しにきたことは知ってるよな?」


「ええ、噂になったわね。そういえば隣のリュンヌ王国だったかしら」


「そうだ。人類と悪魔との戦争が始まり、そして俺たちは先日の戦闘によってバアルに目をつけられたんだ」


「撃退したってのはアナタのおかげなのね。それだけの才能があるなら納得だわ」


「だが奴らは強く、数も多い。俺たちだけでは心許ない、だから魔王軍と戦う仲間を探してるんだ」


 そこまで言うと全てを察したのか、ユニはニヤリと笑った。


「だからアタシの力が欲しいって?なんだ、アナタもアタシと同じなのね」


 ユニの言う通りだ。

 結局は俺も同じ、恋愛感情ではなく損得勘定で、ユニ本人ではなくユニが持つ魔法の才能を求めて婚約を持ちかけた。

 いくら気を惹くためだったとはいえ、人として最低なことをした自覚はある。


「本当に申し訳ない。自分がやってはいけないことをしたのはわかってる、だがこんな小国では魔王軍との戦争には耐えきれず、俺には王としての責務がある。だからどうしてもユニの力が必要だったんだ」


「別にいいわよ、むしろ気が楽だわ。要は普段は妻らしいことも女王らしいこともアタシには求めない、好きなだけ魔法の研究をしていいし、魔王軍とやらを相手に実験もできるってことでしょ?」


「まあ……そうなるかもな」


「最高の環境ね!余計に気に入ったわ!」


 本当にこれで良いのだろうか。

 今更ストーリーがどうのこうのを気にするつもりはない、ただお互いの利害の一致のためにこんなにも簡単に結婚を決めていいのかとは思ってしまう。

 まあ王家の結婚なんてそんなものだ、と言われればそれまでかもしれないが。


 正直なところ最終的には宮廷魔術師とかそういうポジションに収まってもらうつもりだったため、まだ俺の方は何の覚悟もできていない。


「改めてこの話、受けてもいいわ。その代わり条件が一つ、アタシの魔法の研究に付き合いなさい」


「なあ、本当に──」


「レオ王子、大変よ!」


 準備ができたら呼びに来る、事前にそう言っていたグレモリーは血相を変えて飛び込んできた。


「どうした、何かあったのか?」


「魔王軍が突然南方に侵攻を開始、現在デゾンガーン帝国が交戦中との情報が入ってきたわ!」

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