第24話 勇者パーティを集めろ

「レオ王子、先日の文の返事が届いたそうです」


「お、ちゃんと返してくれたか」


 ヴィニアから手紙を受け取る。

 赤い封のされた真っ白なその手紙は、先日俺の方から送ったものに対する返信である。


「王家からの手紙を無視することはないと思いますが」


「そうとも言い切れないのがあの家だ。少なくとも俺たちを小国と見下しているのは間違いないだろうしな」


 ここから北方の山々を超えた先にある大国、デゾンガーン帝国。

 そこには国内外問わず多大な影響力を持つとある貴族がいる。

 名はアクエス家といい、代々魔術によって繁栄してきた貴族であり、一族全員が規格外の才を持った魔術師である。


 彼らは経済的にも軍事的にも小国に匹敵するほどの名家である。

 そのため返事が来ない可能性もなきにしもあらず、と考えていたのだが、さすがに俺からの手紙は無視できない内容であったらしい。


「失礼でなければ、どのような内容の手紙を差し出したのか教えてもらえますか?」


「大したことはないよ。ただ向こうの娘の一人に婚約を申し入れただけだ」


「ええっ⁉︎」


 カランカラン、とヴィニアの手から箒が落ちた音が部屋に響く。


「じ、冗談ではないですよね⁉︎」


「もちろん。俺が最初に送った手紙にはちゃんと縁談の場を設けてもらうようお願いが書かれてるぞ」


「へぇ、レオ王子って意外に大胆なのね」


 この部屋にはヴィニアと二人だけかと思っていたら、突然背後からグレモリーの声がした。


「びっくりした、帰ってきてたのか」


 魔王軍が現れてバアルに目をつけられた今、いつ悪魔がこの国への侵攻を始めるかわからない。

 なのでその警戒と魔王軍の動向を見張るようグレモリーにはお願いをしていた。


「ええ、今の所国内に異常はなし、魔王軍は予想通り最北端の荒廃した地に居を構えたわ」


「報告ありがとう、助かるよ」


「気にしないで良いわよ。それよりも妬けちゃうわね、私がいるというのに」 


「本気で言ってんのか?それ」


「本気よ、少なくとも悪魔と対立してまでも貴方を選ぶくらいにはね」


 満面の笑みで言い切られてしまうと何も言い返せない。


「それで、どうして急に婚約を申し込んだりしたのかしら」


「そんなの、普通好きだからするもんだろ」


「そうね、でもレオ王子は違うでしょう?」


「……そうでもしないと相手されないだろうからな」


 俺もできることならこんな手は使いたくはない。

 だが正攻法では間違いなく取り合ってくれない、だからこうするしかなかった。


「婚約を申し込んでまで欲しいものがアクエス家にあるのですか?」


「ああ。ユニ・アクエス、彼女の力がどうしても必要だ」


 アクエス家当主の末娘は、まだあまり公表されていないものの、歴代でも群を抜いた才覚を秘めた魔術の天才と家内で評価されている。

 それこそがヴィニアと共に魔王を倒す勇者パーティの一人、ユニ・アクエスである。


 この先魔王と戦う上で彼女がいてくれれば心強い、叶うことなら何らかの形でジョット王国においておけるのが理想だ。


「その話のために嘘で婚約話を持ちかけたんですか?機嫌を損ねてしまわないでしょうか」


「大丈夫、話を聞いてもらえる状況に持っていけた時点でこっちのもんだ」


「自信があるのね、ところで返事は何と?」


「おっと、確認するの忘れてたな」


 封を切って中身に目を通す。

 そこには王家からの手紙に対する返事とは思えないほど簡潔な文面で、こう書かれていた。


『本日の昼過ぎにそちらに伺う』


「……今こっちに向かってるらしい」


「ええっ⁉︎何も準備してませんよ!」


「マズイ、すぐに城の者たちに声をかけて──」


「王様、客人がお越しです」


「来ちゃった」


 こっちの都合も伺わずに勝手に予定を決めるなんて、横柄にも程がある。

 しかし来てしまったものは仕方がない、せめて俺だけでもしっかりした格好に着替えて出迎えなければ。


「悪い、二人はどこか適当な案内できる部屋を用意しておいてくれ」


「わかったわ、準備をできたら迎えに行くけれど」


「なら庭園で待っているから来てくれ」


「わかりました、すぐに終わらせます!」


 急ぎではあるが二人には準備を進めてもらい、俺は外に出る。

 城正面の門の前には豪勢な馬車が停まっていた、そしてそこから恰幅の良い男性が降りてくる。


「遥々お越しいただきありがとうございます、テンティ様。私がジョット王国の国王、レオ・サモン・ジョットでございます」


「こちらこそお招きいただきありがとうございます。アクエス家の当主、テンティ・アクエスです。どうぞよろしくお願いします。そしてこちらが──」


 そしてもう一人、同い年の15歳にしては背の低い少女が降りてくる。

 仮にも国王から直接縁談を持ちかけられた訳だが、少しも怖気付いた様子はなく、むしろ王家の者であるかの如く堂々と振る舞うその姿は只者ではないことを容易にわからせる。


「初めまして、ユニ・アクエスよ」


 自身の胸に手を当てて、不適な笑みを浮かべながらそう名乗った。


「初めまして、ユニ様。お会いできて光栄です」


「へぇ、アナタが……」


 ユニは俺の側に寄ってくると、品定めをするかのようにじっくりと顔を見てくる。


「よし……決めたわ、お父様!」


 それから満足そうに頷き、振り返ったかと思うと大声で言ったのだ。


「私、この縁談を受けるわ!」

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