第二章

第21話 魔王顕現

「レオよ、其方に渡すべきものがある」


 王となったその日の夜、様々な式典を終えてようやく眠れると思っていた俺は、父に呼ばれて自室に赴いていた。


「これを授けよう。我が王家に代々伝わる秘宝だ」


「指輪、ですか?」


「その指輪には不思議な力があり、初代国王は指輪の力を使ってこの国を建国した、という伝承がある。実際にその指輪を扱えた王はおらぬが……レオ、あるいは其方ならば」


 そんな過剰な期待をかけられても困る。

 それに伝承だけで実際に不思議な力とやらを使った人がいないのなら、所詮ただの噂話に過ぎないだろう。

 というかこんなアイテムゲームには登場しなかったからな、さほど大したものでないことはわかりきっている。


 実際はこの国の王となった証、程度に思っておけば良いだろう。


「私に扱えるのかは甚だ疑問ではありますが、ありがたく頂戴いたします」


 一応ジョット王国にとっては国宝なので、しっかり預かっておく。

 しかし形だけとはいえ、本当に俺に王様が務まるのか?

 そんな不安を抱えながら自室に戻った。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「隣国のリュンヌ王国より出兵の要請があった。どうやら国内に悪魔が現れたらしい」


 王となって1ヶ月、ようやくこの生活にも慣れてきた頃。

 シアンより救援の要請を受け、俺たちは出征の準備をしていた。


「いつものように私が指揮を取る。敵は悪魔、ただの魔物と同じように戦えば命を落とす。心してかかれ」


「はっ!」

 

 最近は魔物の動きも非常に活発になってきたため、王として戦場に赴くことも多かった。

 騎士団の練度も上がってきている、多少の被害はあるだろうが問題なく片付くはずだ。


「それじゃあ行こうか。ヴィニア、グレモリー」


「はい、レオ王子には誰一人近づけさせません、すべてボクがやってみせます!」


「帰ったらご褒美、期待してるわよ」


「全軍、出撃!」


 俺の号令の元、リュンヌ王国に現れた悪魔を倒すための討伐隊が城を発った。




「なあグレモリー、悪魔は一枚岩ではないって言ったよな」


「そうね、それがどうかしたの?」


「じゃあどうしてどいつもこいつも人間を襲うんだ」


「……マルバスやハーゲンティを統べる者がいるわ。彼は人類を滅ぼし、地上界を征服せんと企んでいる」


「魔王バアル、か」


「驚いたわ、どうして知っているの?」


「噂に聞いただけだ」


 結局のところこれらは全て魔王に原因があると考えて良いのだろうか。

 今、この世界はゲームのそれとは微妙に異なる歴史を歩みつつある。

 レオが王様になり、その配下に勇者であるヴィニアや悪魔のグレモリーがつく、そんなシナリオは本来存在しない。


 特に人間と友好的な悪魔が現れたのだ、何かが変わるかもしれないとも考えてしまう。

 もし戦争の未来を回避できたら俺を含めて誰も死なずに済むのだが、まあ現状を見る限り期待はできないか。


「嫌な気配がしてきたな……そろそろ交戦になる、全員備えろ!」


 悪魔特有の魔力反応が少し先にある。

 恐らくリュンヌ王国の騎士団が戦っているのだろう、さっさと片付けて終わらせてしまおう。


「見えた!ボクが行きます!」


 悪魔の姿を視界に捉えた瞬間、ヴィニアは馬を走らせて一人先頭に出る。

 左手で手綱を握りながら、右手には炎の球が浮かび上がっていた。

 これまでの修行により、彼女の魔法はすでに実戦レベルに到達している。


「中級火炎呪文“フラム”!」


 ヴィニアの魔法によって低級悪魔は消し炭となった。


「よし、魔法でも倒せる!」


「ヴィニアちゃん、頑張ってたものね。ここまでできるようになるなんて凄いわ」


 続いてグレモリーが大鎌を振るうと、その先から放たれた魔力の刃が空を舞う悪魔たちを両断していく。

 雑魚敵相手ならば俺の出る幕はなく、見ているだけで終わりそうだ。


「レオさん!来てくれたのですね!」


「シアン⁉︎なんでこんなところにいるんだ!」


「私も力になりたくて来たんです。傷を癒すことなら私にもできますから」


 リュンヌの騎士団と合流すると、後衛ではシアンも治癒師として戦闘に参加していた。

 この位置なら敵の攻撃が及ぶことは少ないだろうが、それでも戦場が危険なことには変わりない。

 シアンが参加しなければならないほど激しい戦いが繰り広げられている、ということだろうか。


「敵はそんなに強いのか?今ヴィニアとグレモリーが戦ってくれているが……」


「数もさることながら、強力な悪魔がいたそうです。今は姿を見ないので退却したのかもしれ──」


「危ない!」


 障壁魔法を張った瞬間、魔力の爆発が起こる。

 直前まで気配を感じ取れなかった、かなり危ない敵だ。


「今のは?」

 

「……シアン、他の兵士と一緒にここを離れるんだ。ヤバい悪魔が来たぞ」


 その姿を前にして、俺は唾を飲み込む。

 何が相手なのかと思えば、まさかよりによってコイツに会うことになるとは。

 いつかその時が来るとわかっていたとはいえ、それが今日になるなんて思わなかった。


「今の一撃を防ぐとは、人間にしてはなかなかやるようだな」


「悪魔の王に賞賛されるとは光栄だな」


「ほう、我を知っているのか」


 知っているに決まっている、なぜならコイツはこのゲームのラスボス。


「バアルだろ」


「いかにも。我が悪魔の王、第一の悪魔・バアルである」


 遂にこの世界に魔王が顕現してしまったのだ。

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