第20話 新たなる王
「父上、何をおっしゃられるのですか」
「その方が良いと思ったのだ。既に其方の活躍は国内外に広まっておる、もはや王たる器として認めぬ者はおらぬであろう」
「私には過ぎた言葉です。それに、未熟な私に王が務まるとは……」
「無論、全てを任せるつもりではない。其方はまだただの大器であり、満たされているわけではないのでな」
「では、何故私に王位を譲ろうなどと?」
ヤバい、さっきから心臓がバクバクだ。
どう考えたって俺に王が務まるはずがない、ここまで高い評価を得られているのも、あくまでゲームでの知識があったから。
あとやっていたことは瞑想だけ、王になる準備など何もできていない。
「歴史に名を残す偉大な王の一人は『王が動かねば下々の者はついてこない』と言った。また、自ら戦場に立って軍を率いるような王もいたという」
「私にそのような王になれ、と?」
「うむ。政治についてはこれまで通り我が大部分を引き受けよう」
「外交などはいかがなされるおつもりですか」
「そればかりは其方にやってもらわねばならぬが、無論我がサポートするつもりだ。そして少しずつ政治を学んでいってくれ」
「つまり私の王としての主な務めは、先頭に立って人々を率いる、この国の象徴たる存在となることですね」
「さすがレオ、理解が早いな」
なるほど、言葉を選ばないのであれば俺を名ばかりの王にしようというわけだ。
実務的なことについてはこれまで通り父がやりつつも、対外的には俺を王とする。
自分で言うのは気恥ずかしいが、俺は将来を期待されているらしいからな。
実際に王となり積極的に動く姿を見せることで、国民の士気を高めようという狙いか。
中々に悪くない考えではないのか、と思う。
俺が全く王をやる気がない、という問題に目を瞑ればだが。
「しかしこれには一つ大きな問題がある」
さすがに父も俺にその気がないことは見抜いていたか。
完全な親バカというわけではないようで少し安心し──
「其方が正室を誰とするか、そして何人の妻を娶るかが不明な点だ」
前言撤回、やっぱりダメだった。
「正室でも良いのなら喜んで手を上げるわよ?」
「下がってください!レオ王子とディビド王の前ですよ、慎んでください!」
「あら、それならメイドがこのようなところにいるのもおかしいのではないかしら」
「私はレオ王子の専属メイドだからいいんです!」
「頼もしくもあり美しくとある女性たちだ。レオよ、最近の其方には感服するばかりだ」
「違うんです、父上。私にはそのようなつもりは」
「パティシェよ、考えを聞かせてもらいたい」
「誰を正室とするかなど些細な問題。レオが王となった暁には等しく愛を注ぐはずです、心配はいりませんよ」
「そうか、ならば安心だな」
本当にこの王様と女王はどうなっているんだ。
後に勇者となるメイドと自称側室候補の悪魔が激しく言い争っているんだぞ、どこに安心できる要素があるというんだ。
だが父も母も既に答えが決まっている顔をしている。
さらに周りにいる大臣や護衛の兵士からも期待の眼差しを向けられている、中々に厳しい状況だ。
それでもなんとか切り抜ける。
今すぐ王になるなんて、俺にそんなことできるはずがない。
なんとしても二人を言いくるめて──
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「見よ!今ここにジョット王国の新たなる王が誕生した!」
無理だった。
周りの人々の勢いに押されてしまい、流されるまま戴冠式を迎えてしまった。
父の手によって俺の頭に王冠が被せられた瞬間、城下では割れんばかりの喝采が巻き起こる。
自分の無力さを嘆きながらも、バルコニーから国民に向けて手を振ることしかできなかった。
「この度は王位継承おめでとうございます。レオ様……」
「わざわざご足労いただき感謝する、シアン王女」
「うむ、我は少し席を外す。しばらく二人で話をすると良い、久々に顔を合わせたのだろう?」
俺が王となったことにより、リュンヌからわざわざシアンがこちらにまで挨拶をしに来た。
そして今し方堅苦しい形式上のやり取りを終えたのだが、父は気を利かせたのか部屋を後にする。
「ごめんな、急に変なことになってさ」
「驚きました。まさか15歳にして王様になってしまわれるなんて」
「形だけだよ。俺も荷が重いし堅苦しいのは嫌だからこれまで通りで頼むな」
「ええ、これからもよろしくお願いしますね、レオさん。ところで……」
シアンの目線がヴィニアとグレモリーの方に移る。
「お久しぶりです、シアン王女。ヴィニア・クライフです、今はレオ王子の専属メイドをしております」
「話には聞いております。ただ、こうして直接目にするとやはり驚きが勝りますね」
初めて会った時とはまるで違う印象に、シアンも別人に会ったかのような気になっているらしい。
ちなみにヴィニアは俺のことを今も『レオ王子』と呼んでいるが、これは俺がそうするように頼んだからだ。
王様、なんて呼ばれたらプレッシャーだからな。
「そしてあちらの方は?」
「初めまして、シアン王女。私はレオくんの正室候補、グレモリーよ」
「おい」
グレモリーは本当に手に負えない。
周りに父や母、城の関係者がいない時は俺のことを『レオくん』と呼んでいるし、正室候補を自称するようになってしまった。
今では気になるから、と連れてきたことを後悔しつつある。
「レオさんに側室がつくことについては、私からは何も言うことはありません。ただ、一番が私であればそれで十分ですから」
なんだ?部屋の温度が一気に冷えて氷点下に達した気がする。
シアンからもかつてないプレッシャーを感じる。
本当にこれからやっていけるのだろうか。
これからの王としての日々に不安を抱えながら、火花を散らすグレモリーとシアンをどうにか落ち着かせるのであった。
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