第19話 52の悪魔・グレモリー

「……え」


「エェッッッ!!!??」


 突然の爆弾発言に一番反応を示したのは、俺ではなくヴィニア。

 その叫び声にも近い驚きの声は、誰もいなくなった村全体に響き渡る。


「だ、ダメです、レオ王子が結婚なんて!しかも相手が悪魔だなんて論外、もってのほかです!」


 そしてなぜか俺よりも先に断ろうとしている。

 色々とツッコミを入れたいところではあるが、まあ概ね考えは同じだ。


「悪いが何を言っているのか理解できない。冗談のつもりか?」


「いいえ、本気よ。私は貴方に惹かれた、だから貴方と結婚したいと考えているわけ」


「メイドとして許しません、断固反対です!」


「それを決めるのは貴女じゃないはずよ?」


「俺が決めろってか?なら答えはノーだ」


 俺はまだ15歳、結婚についても考え始めなければならないかもしれないが、少なくとも今すぐ相手を必要としているわけではない。

 ましてや相手が悪魔となれば、何か裏があると勘繰るのは至極当然のことだ。


「私のことを疑ってるのね。しょうがないか。でも私は人間に危害を加えるつもりはないわ、これは本当よ」


「じゃあ何が目的だ。意味もなく『妻にしろ』なんて言い出したわけじゃないはずだ」


「そうね……一言でいえば、貴方を取り巻く『愛』に興味があるわ。一緒にいると退屈しなさそう、ふふっ」


 さっきから何が言いたいのかいまいちわからない。

 しかもグレモリーはゲームでは名前しか登場しないため、彼女がどんな人物……悪魔なのか全く知らないのだ。

 だが俺たちと敵対したいというわけではなさそうだ、どうにも扱いに困る。


 それに悪魔が悪魔を倒した、という点が非常に気になる。

 ここは人類と悪魔の戦争を描いたゲームの世界のはず、なのに悪魔陣営も一枚岩ではない、ということなのだろうか。


「グレモリー、他の悪魔はお前の味方じゃないのか?」


「ええ、私たち72の悪魔は一括りにされてはいるけれど、決して仲間というわけではない。各々が自由に生きているだけ」


「だから俺の妻になる、と?」


「そういうことよ。理解してくれたかしら」


「いや、全く」


 何度聞いても文脈が繋がっているとは思えない。

 何がどうなったとしても、俺と結婚という話に続くはずがないだろう。


「レオ王子、これ以上は時間の無駄です。ここからは私にお任せください」


「嫉妬してるの?可愛いわね」


「そ、そんなんじゃありません!」


「結婚は無理だ。俺は王子という立場にいる、そう簡単に相手は決められない」


「そう、残念だわ」


「だけどそれ以外の形でなら……ヴィニアのようになんらかの形でいいと言うのなら、父にかけあってもいい」


 これは非常に重大な決断だ。

 悪魔を自分の近くに置く、これ以上に危険なことはない。

 だがゲームには登場することがなかった、悪魔と敵対する悪魔。

 俺と同じようなイレギュラーである彼女は、すごく重要な存在に思えてならなかった。


「レオ王子!何を⁉︎」


「本当⁉︎嬉しいわ!」


「ただし条件がある。俺たち以外に正体をバラすな、それと少なくともしばらくの間、俺は完全にお前を信用することはできない」


 確かに目の前で他の悪魔を倒しはした。

 だがそれすらも俺を騙すための策略で、フォラスがそうしたように国内に潜入して転覆を企ている、という可能性もある。

 万が一そうなった場合は俺が責任を持って、全身全霊で倒すしかない。


「それでいいわよ。じゃあこれからよろしくね、レオ王子」


「……ああ、よろしく頼む」


 疑心暗鬼になりながらもグレモリーと握手を交わす。

 その手は人間となんら変わりなく、温かみがあった。


 こうしてウォード村防衛作戦に出向いた俺たちは、悪魔であるグレモリーを仲間(?)に加えて城へと戻った。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「ということで、ウォード村の悪魔は無事殲滅しました。また、新たに私の側近として雇いたい方がおります」


「なんと。悪魔を倒すだけでなく、また素晴らしき人材を見つけてきたというのか」


「レオ王子の側室候補にさせていただきました、グレモリーと申します」


 その瞬間、俺は思わず目を見開いてグレモリーを見てしまった。

 コイツは突然何を言い出すんだ、そんなホイホイ女を連れてくるなんてあるわけないだろう。

 父もきっと怪しんで──


「そうか、レオよ。其方にはなんの心配も要らぬようだな」


「そうね、貴方は自慢の息子よ」


 ダメだ、二人とも親バカなんだった。

 俺が新しく別の女性に目をつけた、それだけで喜んでいる。

 もしかして俺が何しても喜ぶんじゃないだろうか。


「誰を正室とするかはともかく、相手の心配は要らぬようだな」


「ええ、孫の顔が見られるのもそう遠くないかもしれないわね」


 15の息子に孫の顔なんて言葉を使わないでくれ。

 はぁ、グレモリーの爆弾発言のせいで面倒なことになった。

 後ろに控えているヴィニアも、何故かさっきから時間が止まったかのように固まってるしな。


 どう収拾をつけようか、なんで頭を悩ませていたら、父はさらにとんでもない爆弾を投下した。


「前から考えていたのだが、これは良い機会かも知れぬな」


「……なんの話でしょうか」


「レオ、我は近く其方に王位を譲ろうと考えている」


 その瞬間、俺の思考も完全に停止した。

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