第17話 ウォード村防衛戦
「見えてきた、あれがウォード村だ」
逃げ惑う人々とすれ違い、目的の村へと突入する。
俺たちが来るまでにかなりの悪魔が暴れたようで、そこは既に阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。
「また悪魔のせいでこんなにも大勢の人が……!」
「ヴィニア!俺はここにいる人たちの避難を手伝う、一旦アイツらはお前に任せていいか?」
「もちろんです、ボクが全て倒します!」
魔法で敵を蹴散らそうにも、これだけたくさんの人がいる状況ではやりづらい。
まずは視界に入るすべての人に障壁魔法を付与し、人々の安全と避難を優先させなければ。
「もう大丈夫です、ここは我らに任せて皆さんは逃げてください!焦らずゆっくりとで大丈夫です!」
「レオ王子!それと……メイド?」
この非常事態に駆けつけたのが王国騎士団ではなく、次期国王となることが決まっている王子とその専属メイド。
あまりにもアンバランスな組み合わせなものだから困惑するのも無理はない。
「早く!この場は我らが引き受けます!」
「ハァッ!」
ヴィニアの鋭い剣撃が近くにいた悪魔の胴を真っ二つに切り裂く。
村人に化けていたとなるとそれなりに知能が高くて強力な悪魔がいるはずなのだが、少なくとも今認識できる範囲には低級悪魔しかいなさそうだ。
これは好都合、今のうちにさっさと全員にはこの場から離れてもらおう。
「無茶はするなよ」
「ご心配なく!王子の背中も必ずボクが守りますから!」
魔法を教えていた時の雰囲気はどこへいったのか、今は頼れる勇者として戦ってくれている。
やはり安心感がすごい、俺もちょくちょく悪魔を気にかけてはいるが、特に問題はなさそうだ。
「よし、避難は終わった!そっちはどうだ?」
「問題ありません。ただ、数は多いですが……」
足元を見ればヴィニアがかなりの悪魔を切り伏せてきたのはわかる。
だがそれでもまだ周囲を囲まれている状況だ、決して油断はできない。
それにどこかに親玉が──
「ほう、こんな小国にもなかなかの手だれがいるようだな」
いた。
「お前が今回の主犯か」
「いかにも。我は35の軍団を率いる地獄の総裁、第5の悪魔マルバスだ」
「なるほどね。この雑魚どもがお前の軍団ってわけだ」
「人間風情が随分粋がったセリフだな」
「ヴィニア、こっからはさっきの修行の続きだ。魔法の最大の特徴は、時には数の差をものともせず簡単にひっくり返せることにある」
詳しくはないが、ヴィニアの剣術は相当のものなのだろう。
修行の旅を経て洗練されたそれは、低級悪魔程度が相手ならば難なく切り伏せてしまう。
だがどんなに頑張ろうとも一振りで同時に倒せるのは2体か3体まで、そして敵の数が多いほど体力の消費も激しくなる。
多勢に無勢の状況では少々心許ない、ましてや勇者であるヴィニアは常にその状況で戦うわけなのだ、だから苦労している。
「これから先、魔物と戦うなら魔法の習得は必須だ。今からそれを証明する、よく見てろ」
条件は揃った。
周囲に村人はおらず、空を覆うように悪魔が俺たちを囲っている。
雑魚敵を一掃できる魔法の真価を発揮してやる。
「これが秘奥暴風呪文“テンペトーム”だ」
飛んでいようが暴風魔法からは逃れられない。
吹き荒れる無数の暴風が作り出す真空の刃の格好の餌食となり、次々に地面に堕ちてくる。
「す、すごい……」
「後はお前だけだな、マルバス」
「このッ……舐めやがって!」
「レオ王子、アイツはボクにやらせてください!」
残るマルバスもさっさと魔法で片付けようかと思っていると、ヴィニアがそう志願した。
「アイツはさっきまでの悪魔とは比べ物にならないほど強いぞ」
「はい、だからこそ倒さなきゃいけないんです。悪魔から人々を守るためには、ボクは負けられないんです!」
「……わかった、それなら一つ良い方法を教えてやる」
ヴィニアには早く強くなってもらいたい。
そうすればメイドとしていてくれてる間は俺も安全だし、魔王が復活してもサクッと倒してくれるはず。
だから本来は旅の途中で身につける奥義を、今ここで習得してもらおう。
「そんなことがボクにできるんでしょうか」
「ヴィニアならできるようになる。でも今は無理かもな、だから今は俺が手伝う。それでいいな?」
「ですが……」
「気持ちはわかる、けどヴィニアが傷つくのを黙って見てることはできない。だからこれは戦うための条件と思ってくれ」
「わかりました、レオ王子がそういうのならば従います」
回復できるシアンがいるならまだしも、今は俺たち二人だけだからな。
万が一にも重傷になられたらどうしようもない、あくまでマルバスを倒すのが最優先。
その中でヴィニアには最大限の経験を積んでもらう。
「タイミングは合わせる、いくぞ!」
「はい!」
「人間どもが、格の違いを教えてやろう!」
勇者の最大の特徴は魔法と剣、その両方をハイレベルで使いこなせることになる。
とはいえ純粋な筋力や剣術なら戦士に劣るし、魔法の技術だけなら魔術師に劣る。
しかしその二つを組み合わせた時の破壊力は、比類なきものとなる。
特に勇者の奥義、代名詞といえばこれしかない。
「レオ王子!」
ヴィニアが一瞬剣を天に掲げる。
そこに向けて俺が魔法で雷を落とす。
「決めてこい、ヴィニア!」
「これがボクの……ボクたちの一撃だ!」
強力無比で絶大の威力を誇る一振りはマルバスを容易く両断し、上半身と下半身は纏う雷によって黒焦げになっている。
これが奥義トゥオーノブレイク、勇者が持つ最大最強の一撃である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます