第14話 勇者、仲間になる
突然の提案に俺の脳はフリーズしていた。
「ボクは強くなりたくて修行の旅をしています。けど今のままではあまりにも未熟で、レオ王子の足元にも及びません」
「いや、そんなことは……」
何を言っているんだ、コイツは。
いずれ世界を救う勇者になるんだぞ、むしろ誰も追いつけないほど強くなる、そんなポテンシャルを秘めているというのに。
「どうすればそれほどまでに強くなるのか、そのヒントは近くにいればわかる気がするのです。ですから無理を承知でお願いします、どうかボクを……私を貴方のそばに置いてください!」
「いや、急にそう言われても」
さすがにこれはダメだろ、最初のボスを倒したどころじゃないストーリーの崩壊だ。
もしヴィニアが修行の旅を辞めてしまったらどうなるのか想像もつかない、勇者が生まれないなんて事態になれば一大事だ。
「……それに、責任も取っていただかないと」
「責任?なんの?」
「と、とにかくどうかお願いします!どんなことでもしますから!」
よくわからないが何かのスイッチが入ってしまったらしい。
ものすごい熱意と圧力で懇願してくるので、俺は思わず気圧されてしまっている。
「ヴィニアさん、落ち着いてください。レオさんが困ってますから」
「あ……すみませんレオ王子、シアン王女」
「王子として言うべきではないのかもしれないが、ウチに来ても得られるものはないと思うぞ」
「そんなことはありません、ボクは確信しています。レオ王子と共に過ごすことで新たに見えるものがあると」
一体どこにそのような可能性を感じているのかはわからないが、ヴィニアの決意が固いのは確かだ。
ただこれは俺一人で決められる問題ではない。
ヴィニアが信頼できる人物であることはわかっている、だがそれは俺がこのゲームをプレイしたことがあり、彼女が勇者であり主人公であることを知っているから。
シアンを含む他の者からすれば旅を続けている流れ者、そうそう簡単に城に雇うことができるとは思えない。
「わかった、一応父に掛け合ってみる。けど約束はできない」
「ありがとうございます!シアン王女も怪我を癒していただき本当に感謝しています!」
「いえ、誰も死ぬことがなくて良かったです。また魔物が現れるとも限りません、ひとまず戻りましょうか」
「そうだな、気をつけて行こう」
こうして俺たち3人はリュンヌ城に戻った。
ヴィニアには一旦城下町で待機してもらい、その間に俺は悪魔の調査やリュンヌ王国の人たちとの会食で一夜を過ごし、翌朝に自国へと戻った。
そして──
「ほ、本日からレオ王子の身の回りをお世話させていただきます、ヴィニア・クライフです。どうぞよろしくお願いいたします……」
リュンヌ王国から帰ってきて半日の休暇を得ていた俺が、自室のベッドで寝転がりながらゆっくりしていた時だった。
突然ドアがノックされたので中に入るように言った。
するとやってきたのは顔を真っ赤にしてプルプルと震えながら、メイド服に身を包んだヴィニアであったのだ。
「ごめん、ドア閉めてこっちに寄ってもらっていいか?」
「はい……」
その格好になれないのだろう、ヴィニアはギクシャクとした動きで俺の指示に従う。
俺もまたその様子を見ながら、予想外の展開に頭の中はクエスチョンマークで溢れかえっている。
「えっと、何があったんだ?」
「レオ王子の父上、ディビド王がボ、私を王子専属のメイドにすると」
父は一体何を考えているんだ。
確かに俺はヴィニアについて多少紹介した。
修行の旅をしていて経歴不明な部分もあるが、かつてのオーク襲撃の際には俺とシアンも助けられた、個人的には信頼できる相手であると。
でも、だからといって流れ者を自分の息子、将来王座につく人間の一番近いところに置くのはおかしいだろう。
「将来のためにも今のうちから信頼できる者を近くにおいておけ、と。後は歳も近い方が安心するだろう、とも仰っていました」
「そうか、まあ父や母が許したなら俺は構わないが……」
色々と置いておいて、何よりも信頼できる相手であることは間違い無いからな。
というか勇者が従者として近くにいる、これ以上に心強いものはないんじゃないか。
俺がよほどのことをやらかして裏切られない限り、死ぬ心配は無くなった気がする。
ストーリーがどうなるのか、という不安は新たに生まれたが、それに関しては時が来たら従者として縛りつけるのをやめるか魔王討伐を命じればいいだろう。
「さっきから大丈夫か?」
できるだけ声が外に聞こえないように近寄ってもらったのだが、ヴィニアはずっともじもじしている。
「こんな可愛らしい格好が慣れなくて……あと、お世話って何をしたらいいのでしょうか。やっぱり、そういうことですよね?」
「え?なにが?」
「そ、そういう経験は全然なくて……でも何でもするとは言いましたし、相手がレオ王子ならボクは……」
「……なっ、お前何を言い出すんだ!全然ちげーよ、そんなことさせるわけないだろ!」
「え⁉︎でも近くに来いってそういうことじゃ」
「どういう思考回路してんだよ!俺を何だと思ってるんだ、普通のメイドの仕事で十分なんだよ!」
まさか勇者がこんなにも脳内ピンクだったなんて。
そして俺はこの勇者を専属メイドにして、これからの王子としての日々を過ごすことになるのか。
やはり俺の第二の人生は色々な意味でハードモードが続きそうだ。
これからどんな波乱の日々が待ち受けているのだろうか、メイドとなったヴィニアとの口論を続けながら、頭を抱えるのであった。
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