第12話 知られざる真実
「レオさん!まさかこんなに早くお会いできるなんて、本当に嬉しいです!」
城門前に到着するや否や、シアンは駆け寄って出迎えに来る。
俺は今、数人の護衛と共にリュンヌ王国へと来ていた。
発端は突然の父の発言である。
ニム王国に多くの悪魔が潜んでいたと発覚したことにより、俺は父と母の許可を得て城にいる全ての人を魔法で調べた。
幸いにも悪魔は潜んでいない、という結果に落ち着いたのだが、父は同じことをリュンヌ王国でもやれと言い出したのだ。
なんでも『将来結ばれる相手を守るのは当然のこと』らしい。
いつの間に話をつけたのか、コチラのロン王も快諾したそうで、あれよあれよと話が進んでここに来ることになったのだ。
「レオ王子、此度は我が国の要請に答えていただき誠に感謝する」
「滅相もございません。ところで、どのように進めれば良いでしょうか」
「まあまあ、そう焦らずともまずはゆっくりしていくが良い。シアンも貴殿と会いたがっていたのだ、まずは二人の時間を過ごしてはどうだ?」
「レオさん、今度はこちらの庭園を見に行きましょう!」
「……ではお言葉に甘えて」
薄々こうなる気はしていた。
両国王にとっては息子と娘の、もっといえば将来を約束した二人のために機転を効かせた、ということなのだろう。
しかしまあ危機感が無いというかなんというか。
近くの国で悪魔が潜んでいた、なんて知ればもっと警戒して然るべきものなのだが。
まだ魔王が現れていないからみんな平和ボケしているのか、或いは悪魔がどうこうは俺とシアンを合わせるための口実で、実際は既に調査を終えているのかもしれない。
どちらにせよ今日の俺のメインの仕事はシアンと過ごすことになりそうだ。
「レオさんがご無事で本当に良かったです」
真っ赤な薔薇が咲き誇る庭園を歩いていると、シアンはそんなことを言った。
「悪魔が現れたと聞いたときは気が気ではありませんでした。万が一レオさんの身に何かあればどうしたら良いのかと……」
「ご心配いただきありがとうございます」
「レオさん、今は二人きりですので」
「えーっと……心配してくれてありがとな。よくわからないけどなんとかなったよ」
今思い返してみても激動の一日だったな。
そうならないように気をつけていたというのに、結局悪魔と戦う羽目になってしまうとは。
過ぎたことなので今更何を言っても関係ないのだが。
「ただ、最近はオークの群れや悪魔の出現みたいな良くないことばかり起こるな」
これらはきっと魔王顕現の前兆のようなものなのだろう。
恐らくだがもうあと1年もない、正確な時間がわからないのが悔やまれる。
できれば国単位での備えをしておきたいのだが、説明のしようがないしな。
何か良い方法はないものか。
「シアンも気をつけてくれ、いつ何が起きるかわからないからな」
「ありがとうございます。レオさんもお気をつけください、貴方に何かあれば私は……」
上目遣いになり、潤んだ瞳で俺を見つめてくる。
この表情は本当にダメだ、直視できない。
落ち着け俺、初心を忘れてはいけない、生き延びるためには自分の欲に打ち勝つのだ。
「そ、それよりもここは本当に美しいですね。手入れが行き届いて、薔薇がこんなにもっ……」
慌てて話題を変えようとしてしまったからか、薔薇に触れようとしたら勢い余って棘が指に刺さってしまった。
指の腹に赤い血がぷっくりと浮かび上がる。
「大変!大丈夫ですか⁉︎」
「平気平気、こんなのなんともないよ」
舐めてれば治る、なんて思ってたらシアンは慎重な手つきで俺の手を包み込む。
すると白く淡い光が生まれ、指の先にあった痛みがなくなった。
「これは……回復魔法?」
確かにゲームではレベルが上がると回復魔法も使えるようになり、やがて聖女と呼ばれるようになるわけが、加入した最序盤ではまだ実戦経験はなく、魔法は扱えなかったはず。
まさか既に使えるようになっていたとは。
「良かった、上手くいったようですね」
「いつから使えるように?」
「以前レオさんが回復魔法は使えないと聞いた時より練習していたんです。これなら私も及ばずながら力になれる、レオさんに守られるだけでなく、支え合う相手になれるのではないかと」
新しく魔法の訓練を始めた、という話は聞いていたが回復魔法のことだったとは。
しかもそのときはなかなか上手くいかず難しいとも言っていた、これまで魔法の訓練をしたことがないのならばそれも当然のことで、使えるようになるのは勇者との旅が始まってからだと思っていたのに。
僅か数日で魔法が使えるようになるとは、これが聖女と呼ばれるものの才能というわけか。
「ただ、成功したのはこれが初めてです」
「シアン⁉︎」
「すみません、嬉しさのあまり涙が……」
遂に魔法が使えるようになったことがよほど嬉しかったのか、シアンは笑みを浮かべながらポロポロと涙をこぼす。
そのときだった。
「なんだ、今の音は⁉︎」
少し離れた位置から爆発音が聞こえてきた。
方角は城下町とは真逆方向、森の中からだ。
「誰かが魔法を使ったのでしょうか」
「ああ、誰かが魔物に襲われているのかもしれない」
「そんな、早く助けに行きましょう!」
「ダメだ、シアンの身に何かあったらどうするんだ」
一体何を言い出すんだ。
確かに城から近いので不安な気持ちになるのはわからなくもないが、こういう時に王族が率先していくのはどう考えてもおかしいだろう、俺が言っても説得力はないかもしれないが。
「その時はレオさんが守ってくださるのでしょう?」
「あのな、絶対傷一つつけないって確証はどこにもないんだ。それにそんなことになれば責任は……」
取れない、とは言い出せなかった。
一応今の俺は婚約者、ということになっている、一番責任を取るべき立場なのだ。
「大丈夫です、それに何かあれば私が魔法で癒します。せめて様子を見るだけでも!」
誰かが魔物に襲われているかもしれない、その可能性だけでシアンは動こうとしている。
今から兵団を結成して迎えば20分ほどかかるだろうか、対して俺たち二人なら10分もかからない。
魔物との戦いにおいてこの10分の差はあまりにも大きすぎる。
「わかった、様子を見るだけだ。ヤバそうならすぐに帰るぞ」
「はい!」
絶対にシアンに怪我をさせてはいけない。
そんな緊張感を覚えながら、俺たちは魔法による高速移動で爆発音のした方向へと向かう。
するとその先には複数の魔物と戦闘を繰り広げている人影があった。
「大丈夫か!」
「なっ、貴方たちは」
「ヴィニウスか⁉︎」
なんとその正体はこのゲームの主人公、勇者ヴィニウスであった。
ただ今はかなり負傷しており、不利な状況に見える。
オークが3体、リザードマンが2体、なかなか大変な構成だ。
特にリザードマンは序盤ではかなりの強敵、苦戦するのも仕方がない。
ここは奴らの弱点である雷魔法でさっさと終わらせる。
「ヴィニウス、シアン!二人とも耳を塞いでいろ!」
俺がパチンと指を鳴らした瞬間、空から降り注いだ雷が魔物を貫いた。
「秘奥雷撃呪文“ゼルテドライ”……王子、貴方は一体……」
「そんなの今はどうでもいい!シアン、ヴィニウスの治療をしてくれ!」
「わかりました!」
「だ、大丈夫だ、僕の傷はそこまで」
「こんなにボロボロで何言ってるんだ!一旦脱がすぞ!」
「えっ⁉︎あっ、ちょっと待っ──」
服の下にはもっと傷が広がっているかもしれない、そう思って急いで脱がせたのだが、俺はそこで固まってしまった。
それはゲームでは語られていなかった衝撃の事実。
「ヴィニウスは、女だブヘッ」
頬に鋭い痛みが走る。
それは顔を真っ赤にした目の前の女性、勇者ヴィニウスによるものだった。
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