第11話 ひと段落
「おお、戻ったかレオよ!」
「さっきからすごい音がしていたけれど大丈夫……って、それは⁉︎」
決闘が終わるのを待っていた父たちは、森から帰ってきた俺が手に持っているものを見て驚愕する。
「父上、母上、それにヴァークス王。残念な報せがあります、フォラス王子の正体は悪魔でした」
上半身だけが残ったフォラスの亡骸を差し出す。
その顔にはあまり変化はないが、悪魔特有の湾曲した角や背中の翼があれば一目瞭然だ。
「なんと」
「フォラスが悪魔だと⁉︎」
「気付かぬうちにこの偽物が本来のフォラス王子と入れ替わっていたようです」
「では我が息子は……」
「残念ながら……それにお気をつけください、どうやらニム王国には既にかなりの悪魔が潜んでいる可能性が高いです。現にこの場にも」
油断していたであろうところにこちらから奇襲の一撃を加える。
護衛の兵士の振りをしていた悪魔の胸を雷が貫き、ポッカリと穴を開けたまま倒れていった。
「幾らか悪魔が紛れ込んでいるようです」
完璧に人間に擬態していたつもりだろうが、悪魔がいるとわかっていれば見破るのは容易い。
この辺り一帯には事前に魔力の網を張り巡らせていたのだが、先ほどフォラスの亡骸を差し出した際に反応を示した個体があった。
自分たちの親玉がアッサリとやられたことに対する動揺は隠せなかったようだ。
そしてそいつらには魔力によるマーキングも終えている、逃しはしない。
「王子については残念ですが、今はご自身のお命を最優先に行動してください。ここは私が引き受けますので」
「クソが、バレたなら仕方ねぇ、皆殺しだ!」
「やらせるか!」
すぐさまこの場にいる全ての人間に障壁魔法を使い、悪魔の攻撃から守る。
「お前たちの相手は俺だ」
「ダメよレオ!貴方も逃げなさい!」
「ご心配なく、母上。この程度の魔物が相手ならば何も問題はありませんので」
フォラスが最初のボスだとしたら、コイツらはただのフィールドエンカウントする通常敵。
その強さは比べるまでもない、そして雑魚敵は魔法で一掃すると相場で決まっている。
「燃え尽きろ」
前回のオークとの戦闘での教訓を活かし、周囲に被害が及ばないように魔法の出力を調整する。
それでも低級悪魔を倒すには十分だったようで、奴らは一体残らず灰となって風に消えた。
「今のは上級火炎呪文“フランダ”?」
「これだけの高度な魔法を複数の対象に同時発動するなんて、高名な魔術師でも可能かどうか……」
「レオ、其方はいつの間に、一体どれほどの実力を身につけたというのだ」
正直言って俺が聞きたいくらいだ。
罠に嵌められて奇襲された流れからこうして悪魔と戦い続けているが、どうして俺がこんなにも倒せているのかわからない。
やったことといえば毎日瞑想していたくらいだ、そうしたら気づけばこうなっていた。
「わ、我が国はこれだけの悪魔の侵略を受けていたというのか?いや、それよりもフォラスは……」
真実を知って悲痛な表情を浮かべるヴァークス王にかける言葉は見当たらなかった。
信じていた城の者たちや最愛の息子の正体が悪魔であり、実の息子はとうの昔に命を落としている。
そんな残酷すぎる現実をすぐに受け入れることは到底不可能だろう。
「ヴァークス王……」
「すまないが今は一人にさせてほしい。本日はわざわざご足労いただき感謝する、帰りは我が国の者を護衛につけましょう」
ヴァークス王は今にも倒れそうなほど覚束ない足取りで、側近や女王に支えられながらフラフラとこの場を去っていく。
残された父も母も何も言えないままその背中を見送っている。
「お辛いでしょうが、どうかお気をつけください。国内にまだ悪魔が潜んでいるやもしれませんので」
「忠告感謝する、レオ王子。貴君に明るい未来が待っていることを望んでいる」
「ありがとうございます、それでは」
ニム王国のことは心配ではあるが、部外者、それも他国の王子である俺が必要以上に関わるのも良くない。
それに向こうにも国が誇る優秀な兵士たちがいるはずだ、後のことは彼らに任せよう。
こうして突如始まった俺とフォラス王子の決闘は、悪魔の登場によって有耶無耶になったまま幕を閉じたのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『そうですか、フォラス王子が……では、せめて安らかに眠れるように祈りましょうか』
あの一件から数日が経ち、ニム王国からシアンに持ちかけられていた縁談は正式に取りやめになったそうだ。
その際にフォラス王子が亡くなっていたことも伝えられたらしいので、事の顛末について説明した。
『ですが犠牲者が増えなくて本当に良かったです、またレオさんが多くの人を助けたんですね』
「俺はそんな大したことは……ただ成り行きで悪魔と戦っただけで」
『それでもレオさんのおかげで救われた方がいるのは事実でしょう?さすがは私が見込んだ方、なんて烏滸がましいですね』
シアンの言う通りフォラスによる犠牲者の拡大を防げたことは本当に良かった。
結果的に倒してしまったわけだし、これでフォラスの問題は解決した。
それに俺の魔法は悪魔にも通用する、全員に勝てるとは口が裂けても言えないが、それでも少なからず抵抗はできるとわかったのも大きい。
だが……
『それに、このようなことがあったときに言うのは不謹慎ですが……それでもレオさんが私のために決闘に応じてくれた、その事実だけで舞い上がってしまいます』
もう一つの問題に関してはより深刻になってしまったらしい。
今回の事件の結果、俺がシアンを渡すまいと決闘に臨んだという事実だけが残ったわけで、当初の俺のプランは見事に崩れ去ったのだ。
「まあ、その……あれだ。シアンも気をつけてくれ、そっちの国にも悪魔が潜んでいるかもしれないからな」
『そうですね、他人事では済ませませんね。レオさんもお気をつけください』
「ありがとう、でもこっちは大丈夫だったんだ」
ジョット王国にも紛れ込んでいるのではないか、と個人的に気付かれないよう調べたのだが悪魔はいなかった。
国民までは把握できていないが、少なくとも城にいる者については心配いらない。
まあ俺では探知できないほどの上位存在がいるという可能性もなくはないが、それについては考えてもキリがないので無視しておく。
『それなら一安心です……あ、もうこんな時間』
「そうだな、そろそろ寝るか。おやすみ」
『ええ、おやすみなさい、レオさん。良い夢を』
色々と大変ではあったが、これでひとまず落ち着いた。
これからは久々に穏やかな日々が、なんて思っていた翌朝のことだった。
「レオよ、先日我が国で行ったのと同様に、リュンヌ王国においても悪魔が潜んでいないか調べてくれぬか?」
父であるディビドは突然そんなことを言い出したのだ。
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