第10話 決闘

「レオ、何度も聞くがあの日一体何があったのだ?」


「本当に大したことはありません。ただお互いに譲れないものがあった、それだけの話です」


「いい?決して無茶はしてはダメよ」


 決闘当日、あの日から父も母もずっと俺のことを心配している。

 まあ当然だな、二人の王子が魔物を倒した量を競うだなんて前代未聞の事態だろう。


 準備の大半は向こうが終えてしまった、さすがの国力とお手本のような権力の濫用である。

 まあ俺もこの日のために色々な日程を調整させたり、考え直して欲しいという忠告を跳ね除けたので人のことは言えない。


 二人の王子が一人の王女のために様々な助言を跳ね除けてわがままを突き通す、まさに少女漫画のような展開に思わず笑いそうになる。


「随分と自信がおありのようですね、レオ王子」


「そんなことはありません」


 お前のほうこそ余裕が溢れてるぞ、という言葉は飲み込む。

 顔を合わせている間は常に魔力の量を制御しているからな、俺のことは大事にされてきた温室育ちの王子としか思っていないのだろう。


「ただ、全力は尽くします」


 これも嘘だ、今回の決闘はむしろ負けた方がいい気もするからな。

 手を抜いたと疑われないようにしつつ、ほどほどにやるつもりだ。


「それでは両王子、準備はよろしいですか?」


「私は構わん」


「同じく」


 決闘はお互いに用意された転移魔法陣を利用し、フィールドとなる森のどこかに移動させられた瞬間に始まる。

 制限時間は1時間、その間に用意されたこの空間に放たれた弱めの魔物をどれだけ倒せるかで競う。

 

 ま、修行の一環、或いは実践経験を積むための場とでも思っておこう。

 用意された魔物はオークよりも弱いし、油断さえしなければなんの問題もないはず、そう思いながら転移魔法陣に足を踏み入れた次の瞬間であった。


「なっ⁉︎」


 森の中に転移した瞬間、魔法陣の周囲を低級悪魔に囲まれていた。

 そして360°全方位から一斉に燃え盛る火球が迫り来る。


「キヒヒッ、コイツマジで来やがったぜ!」


「フォラスさまの言う通りだったな、やはり人間は愚鈍な生き物だ」


「なるほど、悪魔のことを人間の常識で考えていた俺がバカだったってわけだ」


 少し油断していたので危なかったが、悪魔特有の魔力を感じた瞬間に発動した障壁魔法の方が早かった。

 

「なっ、コイツ今のを防いだってのか⁉︎」


「お前たちはフォラスの手下か」


 さすがに直接的に手を下してくるような真似はしてこないと踏んでいたが、その考えは甘かったらしい。

 この決闘は仕組まれた罠だ、フォラスの奴は俺をこの場で消すつもりだったのだ。


「ま、その辺は後にして……」


 とりあえずコイツらを倒さないことには何もはじまらない。

 

「先に仕掛けてきたのはお前らの方だ、覚悟はできてるんだろうな」


 ある意味奇襲をしてくれて助かった。

 おかげで変に心の準備をする前に覚悟が決まった、それに今のやり取りで理解したが、コイツら相手なら俺でも勝てる。


「どっちの魔法が上か、比べてみるか?」


 目には目を、歯には歯を、火炎魔法には火炎魔法を。

 今度は俺が放った無数の火球が障壁魔法を突き破り、周囲にいる低級悪魔たちをことごとく焼き尽くしていく。


「これでコイツらは片付いたか」


 しかし参ったな、まさか向こうがハナから殺すつもりだったとは予想外だ。

 恐らくは悪魔の登場という不測の事態によって不幸にもレオ王子が命を落とし、フォラスは兵士たちとともに悪魔の撃退に成功、というのが思い描いたシナリオだったのだろう。


 転移魔法陣の周囲にいたアイツらはもちろんのこと、他にも悪魔が潜んでいると見たほうがいいかもしれない。

 今回の監視や警護を担当している向こうの城の兵士の中にも人間に化けた悪魔がいるはずだ。

 その証拠に悪魔の出現という異常事態が発生したはずなのに、俺についているはずの監視の兵が何も言わない。


 既に向こうにもこのことは伝わっていると見ていいだろう。

 となると奴にとって俺が生きているのは不都合、ここからは全力で殺しに来るはず。


「ようやく決闘らしくなってきたな」


 もうどうしようもない、後に退くことはできない状況に追い込まれたからか、アドレナリンが出て恐怖を微塵も感じない。

 それに向こうから俺の命を狙ってきたのだ、こうなったら最早アイツがこのゲームの最初のボスだとか、シナリオが狂うとか気にしている場合ではない。


「殺られるくらいなら殺る、それだけだ」


「ほう、この俺に勝つつもりなのか」


 木々の隙間から現れたのは、王子という偽りの仮面を脱ぎ捨て、生来の本性を剥き出しにした第31の悪魔・フォラス。


 先日のこちらを探るようなものとは違う、ネバネバとした殺気をこれでもかというほど感じる。


「ようやく本性を現したな」


「貴様、最初から俺の正体に気づいていたな?」


「答える義理はない、知りたければ力づくでやってみろ」


「言われなくてもそうするつもりだ。まあその頃には貴様は物言わぬ肉塊となっているだろうがな」


 フォラスの筋肉が身体強化魔法によって激しく膨張する。

 ゲームでは高腕力・高耐久のシンプルながら強い最初のボス、というイメージであったがなるほど、実際はこうなっていたわけだ。


「この俺に刃向かったことを後悔しながら死ねェ!」


 こちらも身体強化魔法で対抗しても良いが、わざわざ正面から応じる必要もない。

 この森の中というフィールドを活かして決着をつける。


「バカが、敵はフォラス様だけかと思ったか⁉︎」


「バカはお前たちの方だ、全員潰れて消えろ!」


 俺の魔法によって周囲の地面が大きく迫り上がると、そのまま敵を飲み込んで押し潰す。

 正面に捉えているフォラスはもちろんのこと、周りから襲いかかってきた手下の悪魔たちも一体残らずこの魔法の餌食となった。


「これは、秘奥大地魔法“アーサムーン”⁉︎一体何も──」


 その自慢の腕力で脱出しようとしていたフォラスも、遂には下半身が大地に潰されてしまった。

 俺の魔法は悪魔にでも通用する、これがわかったのは大きな収穫だ。


 ルールとは違うが少なくともこれで決着はついた。

 まずはこのことを報告するしかない。

 俺は証拠としてフォラスの上半身を持ち、父たちの元へと帰ることにした。

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