第8話 ニム王国
もう間も無く魔界を統べる悪魔たちの王、魔王がこの世界に顕現し、本格的な人類と魔王軍の戦争が始まる。
そんな中、レオは様々な悪事に手を染め、最終的には悪魔と契約する道を選び、シアンはかねてより何度も来ていた縁談に応えることを選ぶ。
その相手こそがウチの2,3倍の国力を持つニム王国の王子、フォラス・ニムである。
だがこれは罠である。
魔王はまだ現世への顕現は行なっていないものの、既に手先の悪魔たちはこの世界にあちこちに紛れ込んでいる。
そのうちの一体がニム王国の王子に化けている第31の悪魔フォラスである。
フォラスは人間界の情報を得るため、王子として潜んでいる。
だがその過程で隣国の王女、シアンの秘める聖なる力に気づくのだ。
その力は間違いなく国にとって脅威となる、なので確実に息の根を止めるため、縁談を申し込んで正室として自国に取り入れ、暗殺を企てているのだ。
「フォラス王子からシアンに縁談が……」
アプローチがあるということは既に王子は悪魔になっていると見ていいだろう、要警戒だ。
歴史通りに死ぬのはもちろんのこと、不意に悪魔に殺されるのもゴメンだからな。
「父は無理に応える必要はないと言ってくれていましたが、国のことを思うと受けるべきではないかと不安でした……ですが、今のレオさんの言葉で決心がつきました」
「決心?」
「私は自分の心に素直になります。だからレオさん……私を貴方のお側にいさせてください」
ん?おかしくないか?
誤解を解くつもりがむしろ話が進んでしまっている。
問題が解決するどころか、次から次に考えないといけない問題が山積みになっていく。
「いや、待ってくれシアン。俺たちはまだ15歳、これからもっと多くの出会いがあると思う。もしかしたらこの先、もっとシアンに相応しい人が現れるかもしれない」
「ふふっ、お優しいのですね。ですがご安心を、私の心は既に定まっております。レオさん以上の方はいないと断言できます」
断言しないでくれ、いるのだから。
というかなんでこんなグイグイ来るんだ、ゲームではこんなキャラじゃなかったのに。
正直こんな美人から寄ってこられたら応えてしまいそうになる。
だがダメだ、シアンはメインヒロイン、勇者と結ばれるべき存在。
何よりも俺は己の欲に打ち勝たねばならない、それが生き残るための道なのだから。
「レオさんも同じ気持ち、ですよね?だからこそ父の前でああ言ってくださったのですよね……?」
上目遣いで不安げにこちらを見るシアン。
いくらなんでもそれは卑怯だろ。
しかし少々事情が変わった。
ニム王国が既に縁談を持ちかけていたとなると、余計においそれとこの話を進めさせるわけにはいかなくなった。
恐らくロン王は王よりも父として、娘の幸せを優先することを決めたのだろう。
ニム王国との関係悪化はやむなし、隣国の
だがそうなれば当然ウチとニム王国も敵対関係になる。
何より縁談の返答を先延ばしにしているのならまだしも、他の人と婚約を結んだとなれば、フォラスが実力行使に出る可能性もある。
悪魔と交戦するのはとても賢い選択とはいえない。
「悪い、シアン。俺は知らなかったんだ、ニム王国の王子から言い寄られてたなんて」
「そうだったんですか、申し訳ありません、私のせいで」
「シアンが謝ることじゃない。ただ、少しだけ考える時間が欲しい」
「そうですよね、こんなことを急に知ったらすぐに答えなんて出るはずもありませんから」
ふう、ひとまずなんとかなったようでよかった。
作中と比較してあどけさなさは残るものの、元々聡明なのでわかってくれたらしい。
「ではこの話は一旦ここまでにしておきましょう。ですが先ほどまでの言葉は全て嘘偽りのない私の本心です。私はレオさん、貴方となら運命を共にして良いと、そう思っております」
「ありがとう」
ここまでまっすぐな好意をぶつけられたことは今まで一度もない、だから俺は困惑してそう返すことしかできなかった。
「だからもっと貴方のことを知りたい、そして私のことも知って欲しいのです。だから今日の会食の場では貴方のことについてお聞かせ願えますか?」
「大した話はできないけれど、それでもよければ」
「はい!楽しみにしております!」
「はは……っ!シアン王女、迎えのものが来ます」
「失礼します、お食事の用意ができましたのでご案内させていただきます」
周囲に探知魔法を張り巡らせておいてよかった。
お互いに名前で呼び合ってるところなんて見られたら変な噂を立てられるかもしれないからな、そういうのはゴメンだ。
「それでは参りましょうか、レオ王子!」
軽やかなステップで一歩前に出たシアンは振り返りながら言う。
夕焼けをバックに見せる満面の笑みはこれまでの何よりも美しくて、俺は間違いなくそれに目を奪われていた。
「……ええ、行きましょうか」
俺は果たして耐えられるのだろうか、彼女からのアプローチに。
そんな不安を抱えながら、二人きりの会食の場へと向かった。
そして食事中は本当に色々なことを聞かれながらも、なんだかんだで楽しい時間を過ごしたのであった。
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