第6話 蒼天の霹靂

「レオ!レオよ!」


 オークの事件があってから数日後のある朝。

 目を覚ましたばかりの俺の部屋に。父と母が血相を変えて飛び込んできた。


 それだけでただことでないことは察した。

 何か俺に用がある場合、普通は使用人を通して用事を伝えてくる。

 なのにこんな朝っぱらから直接会いにくるなんて異常だ、しかもこの慌てよう、国の根幹を揺るがすような事態が起きたと見て間違いない。


「父上、母上、いかがなされたのですか⁉︎」


 俺は身構えながら恐る恐るそう尋ねた。


「レオ、貴方は一体何をしたの⁉︎」


 その質問の意図がわからなかった。

 何をしたかって?最近はいつも通り王としての勉強をしつつ、隙を見て瞑想をしていた。

 ただそれだけだ。


 心当たりがあるとすればやはり三日前だ。

 リュンヌ王城でのやり取り、完璧だと思っていたが重大なやらかしがあったのでは⁉︎

 そして怒った国王が我が国に宣戦布告、近いうちに会えるというのも『たまとるぞオイ!』という意味だったのでは……


「隣国のリュンヌ王国より其方に縁談が来ておるのだ」


「へ?」


 えんだん、エンダン、and down……ダメだ、俺の辞書に当てはまる単語は一つしかない。

 そしてそれは文字通り俺には縁のないもので……


「レオ。貴方、ロン王の前でシアン王女との将来を誓ったそうじゃない」


「それに対して先方、特に王女本人が前向きだそうだ。そして正式に縁談を進めたい、との文が先ほど届いたのだ」


 why?

 なんで?どういうこと?

 俺そんなこと一言も言ってないんだけど。


 そもそもシアンにはヴィニウスという相手がいるわけで、そりゃ気を失ってたからまだお互いに面識はないかもだけどって、待てよ。


 ふと思い出したのだが、ゲームにおいてシアンとヴィニウスは過去に会ったことがあるという内容の会話があった。

 その時言っていた気がする、かつてヴィニウスはシアンをオークの群れから救い出した、と。


 まさか、俺がやってしまったのか⁉︎

 あれは本来シアンとヴィニウスが初めて出会うための、ゲームには存在しないまさに隠れイベント。

 だが今回は俺がシアンを助けてしまった。

 シナリオがぶっ壊れていく……


「レオよ、まさか其方に既に王としての自覚があったとは……」


「人並みに……いえ、人一倍に努力していたのね。母としてこれほど嬉しいことはないわ……」


 ヤバい、欲望がないと思われていた俺が実はしっかりと将来の相手を見定めていたという事実(ではなく勘違い)に父も母も感涙している。

 というか百歩譲って俺がヴィニウスの代わりに助けたことは置いといて、告白もしてなければ将来を誓ってもいない。


 なんでそんな話になってるんだ、そしてシアンがそれに対して前向きってのもどういう意味だ。

 どうしたらこの状況に収集がつく?

 寝起きの頭では何も考えられない。


 少なくとも断るのは無しだ、そんなことすれば両国の関係悪化まっしぐらである。

 まずは話を聞かないことには始まらない、何故俺が将来を誓ったことになっているのか、その辺りをしっかりと話して最終的に誤解を解くしかない。

 

「既に向こうには返事をしておる」


「レオ、貴方はこんなに立派になって……私たちの自慢の息子よ」


 あーあ、もうどうすんだよこれ。

 なんか勝手に返事されてるし、まあ俺から持ちかけたことになってるらしいけどね。


「王様、たった今魔水晶を通してリュンヌ王国より連絡が」


「ふむ、なんと?」


「急ではあるが、早速今日のうちにレオ王子とシアン王女、両名だけの会食の場を用意できないか、と」


 急すぎんだろ、前世が一般人の俺がいうのも申し訳ないが、本当に王族の自覚あるのか?

 友達同士でマ●ク行くんじゃあるまいし、急だけど今日どう?なんてあり得ないだろ。

 普通どう考えても無理だよ。


「それはいい!早速返事しなければ!」


 いけた。

 どうやら俺の普通が間違っていたらしい、ここは異世界だもんな、常識が通用するわけないよな。

 

「そうと決まればすぐに正装に着替えなくては。使用人を集めてちょうだい」


 クソッ、胃が痛くなって来たがこうなったらやるしかない。

 俺は覚悟を決めて突如用意された会食に臨むことにした。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ふぅ……」


 緊張してきた、でも大丈夫だ。

 よく考えたら王族ともなると望まぬ結婚、いわゆる政略結婚という奴も多い。

 向こうの王様は後継に不安を抱えていたらしいし、手頃な俺と婚約してひとまず安心したいのだろう。


 そしてシアンも俺のように親の勢いに押されたのだ、そうに違いない。


 ならばまずはゆっくりと話をしてシアンの本音を引き出そう。

 その後に俺たちはまだ若い、これから先にもっと良い出会いがたくさんあるはず、と理由をつけて一旦保留にしよう。

 さすがにキッパリと断るのは良くないが、先延ばしにするくらいなら問題ないはず。


 そうしたらいつかヴィニウスと出会って、全て丸く収まってくれるはず。


 完璧だ、これでもう怖いものはない。


「シアン王女様がご到着なさいました!」


「レオ王子、お久しぶりです!」


 馬車から降りて来たシアンは満開の笑顔を浮かべながら俺の元に駆け寄る。

 さあ腹をくくれ、俺。

 国際問題に発展しかねない危機ではあるが、シアンの本心を暴き、穏便に事を収めるのだ。


「お話ししたいことがありすぎて何を言えば良いのかわかりませんが……これだけは伝えさせてください」


 シアンは静かに覚悟を決める俺に向かい、頬を赤く染めて言った。


「お慕いしております、レオ王子」


 あ、これ詰んだわ。

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