第2話 昼下がりの出来事

「王様!大変です、領内にてオークの群生地が発見されました!」


 あるのどかな昼下がりのこと。

 俺と父だけがいた執務室に一人の兵士が血相を変えて飛び込んできた。


「静かにしろ、レオが寝ておるのでな」


「いえ父上、起きております。少々先ほどまでのことを振り返り、頭を整理していただけです」


 何故俺がここにいるのかというと、誕生日の日に何か望みを言ったほうが良いと思い、『国の上に立つための知識や振る舞いを身に付けたい』と言った。

 すると父も母も感涙しながら了承し、こうして執務室で直接父から学ぶこととなった。


 そして先ほどまでこの国の歴史や世界情勢について学び、区切りの良いところで今日は終わりとなった。

 だがそれらは全てゲームをプレイした時に知っていたことで既に理解している、なので瞑想(+復習)をしていたのだ。


 まあ側からは勉強に疲れて昼寝したようにしか見えなかったようだが。

 それを少しも咎めないあたり、薄々勘付いてはいたが父も母もかなり俺に甘いな?


 まあ今はそんなこと言っている場合ではないか。


「父上、今の話についてですが」


「我が国の領内にてオークの群生地が見つかったそうだ、至急対処せねばなるまい」


 これはかなり面倒なことになったな。

 オークは結構序盤のモンスター、ゲームにおいてはそこまで大した相手ではない。

 だがそれは人類最強である勇者一行にとっての話で、一般人からすればどのモンスターも危険極まりない。


 オークはその巨体から発揮される腕力が驚異的だ。

 知能こそ低いもののこれがまだ厄介で、奴らは他の種を見かけると見境なく襲ってくるのだ。

 

 もしも奴らが街道に出れば人や物資の輸送が大きく制限されるし、村に近づけば畑は荒らされて多くの人が命を落とす。

 どちらも無視することはできない、早急に対処すべき問題だ。


「すぐに偵察部隊を送り込め。群れの規模と生息地が分かり次第報告させよ」


「はっ!」


 さて、群れの数がわかったとしてウチだけで対応できるだろうか。

 

 この国は肥沃な土地を持っているわけでもなければそこまで裕福でもない、貴重な資源が取れることもなく、技術力や武力に秀でているわけではない。

 ゲームでも序盤にストーリーの都合で寄るだけで、俺を倒した後はほとんど帰ってくることはない。


 大国からしてみればあってもなくても変わらない、取るに足らない吹けば飛ぶような田舎の小国。

 

 何が言いたいのかというと、勇者たちならば数人で倒せるオークの群れも、この国にとっては全兵力をもってしても倒せるかどうかわからない脅威になるのだ。


「父上、討伐隊についてですが。我が国の兵力では少々心許ないかと……」


「そうだな、だがやるしかあるまい。放っておけば大変な事態を招くであろう」


 頭を抱えて嘆くようにこぼす父。

 こうなったらやるべきことは一つ。


「父上、討伐隊に参加する許可をください」


「なんだと⁉︎」


 机を両手でバン!と叩きながら立ち上がる。


「冗談を申すでない!其方にそのような危険な真似を」


「ですが、恐らくこの国で最も強いのは私かと」


 それは先日の訓練で証明している。

 我が軍最強と呼ばれる騎士団長と魔術師団長を同時に相手にして勝ったばかりだ、父も母も目の当たりにしている。


「しかしだな……」


「報告です!」


 俺の申し出に父が唸っていると、再びドアが勢いよく開かれた。


「隣国のリュンヌ王国との領境に向けて侵攻中のオークの群れを発見いたしました!」


「むぅ……」


 これはさらに面倒なことになって来たな。

 ウチと領土を接するリュンヌ王国とは付かず離れず、ほどほどの関係性を保っている。

 隣国なので交易などは行われているが、それ以上の繋がりがあるわけではない、あくまで近いというだけの話。


 だがあの国にはこの世界のメインヒロインの一人、のちに聖女と呼ばれることとなるシアン・ソメイユがいる。

 もうウチには関係ないからとオークの問題をあっちに丸投げして、その結果シアンからの印象が悪くなる、という事態は避けたい。


 印象が良ければ最悪の事態に陥った時も、シアンが俺の擁護をしてくれるかもしれないしな。


「父上、事態は一刻を争います。私と討伐隊に出征の許可を」


 俺を行かせたくはないらしいが、まあ無理もないだろう。

 王家の一人息子を戦場に送り出すなんて普通はあり得ない判断だからな。


 しかし勝算はある。

 父たちには説明しようがないが、俺にはゲーム知識がある、奴らの弱点も把握しているからだ。


 心許ない討伐隊を派遣して死者を出すくらいなら俺が参加したほうがいい、はず。

 ここは理詰めで説得していこう。


「隣国のリュンヌ王国は我らと大差ない小国ですが、彼の国の鉱山地帯には豊富な魔導石が眠っており、我が国も輸入しております」


「昼間のことをよく理解しておるようだな」


「万一にもオークの侵攻によってリュンヌからの魔導石の供給が途絶える、といった事態は避けるべきです。それに近年は魔物の動きが活発になっております、日頃から近隣諸国とは良好な関係を築いておくほうが吉かと」


「……わかった、其方を信じよう」


「ありがとうございます」


 よし、父の許可は取れた。


「確かに其方の実力は高いであろう。だが無茶はするな、我が軍の兵士を信じるのだ」


「重々承知しております。それでは父上、早速準備して行って参ります」


 一つ頭を下げてから報告に来た兵士と共に執務室を後にする。

 

 ヤバい、心臓がバクバクして来た。

 修行や訓練はこれまで何度も積み重ねて来たが、実践は初めて。

 命を落とすかもしれない、と考えると足がすくみそうになる。


 それでも自分から参加すると言い出したのは、シアンの存在の他にもう一つ理由がある。


 今後魔王が暴れ出して世界が混沌としていくのは既定事項だ、そうなることは決まっている。

 今より魔物の動きも活発になるわけで、それこそゲームのように不意にエンカウント、なんてことがあるかもしれない。


 その時に怯えて何もできない、という事態は避けたい。

 なのでまだ弱い魔物しかいない今のうちに実践経験を積んでおきたいのだ。

 特に討伐隊と行動を共にする今回は絶好の機会だ。


「王子、本当によろしいのですか?」


「問題ない。さあ、すぐに討伐隊を結成して出征しよう」


「はっ!」


 剣と魔法とモンスターが存在するファンタジーRPGの世界に生まれて15年、遂に俺は人生初の戦闘に臨もうとしていた。

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