無能な悪役王子に転生したので0歳から修行してたら最強になった

上洲燈

第一章

第1話 そうだ、瞑想しよう

 レメゲトンヒストリア、悪魔と人間の戦争を描く人気RPGである。

 その主人公たちは人類側の最後の希望として、多くの人々を救いながら最後には魔王を倒して世界に平和をもたらす。


 その旅の道中で主人公はとある小国に立ち寄る。

 その国では王子の独裁政治が繰り広げられており、しかも欲望に溺れた王子は悪魔に魂を売ったとされる。

 そのため主人公に倒されて最後は自国民によって処刑される、そんな超小物の悪役王子レオ・サモン・ジョット。

 不慮の事故で命を落とした俺は、そのレオに転生してしまった。


「見ろ、パティシェ。レオが笑っておるぞ」


「本当、素敵な笑顔。このままスクスクと育ってほしいわ」


「任せろ、俺が必ずこの子とお前を守る。もちろんこの国もな」


 辺境の小国、ジョット王国の王であるディビド・エル・ジョットの元に生まれた俺は、溢れんばかりの祝福を授けられていた。

 いつかは国を私物化して国民から向けられていたはずの祝福は憎悪へと変わるのだが、当然俺以外の誰もそんなことは知らない。


 今はこの国にいるすべての人が俺の誕生を祝っている。


 ああ、こんな俺もいつかは人々に憎まれ、最後は主人公に倒された挙句この国民たちに殺されるのか。

 いや、それまでの経緯を考えれば当然の報いだとは思うのだが、いざ自分がその立場になるとそんな達観した考えはできない。


 だって死にたくないし。


 まあでも真っ当に生きていれば大丈夫、主人公に倒されることも自国民の反感を買うこともない。

 でもそれだけで本当に十分か?

 運命ってのがそう簡単に変えられるとは思わない、それにここはモンスターや悪魔が存在する剣と魔法の世界であり、山賊や盗賊も当たり前のようにいる。


 なんだよこの世界、人が生きていくにはあまりにも治安が悪すぎるだろ。

 ああ、日本が恋しい……あの平和な日々に戻りたい、なんて人生ハードモードなんだ。


 なんて泣き言は言ってられない。

 とにかく欲望に溺れることなく慎ましく、立派な王子として生きていくことはマスト。

 それだけじゃ足りない、いざという時に備えて俺自身が強くなっている必要がある。


 そういえばゲームで言っていたな、魔法の源となる魔力の絶対量はどれだけ瞑想によって精神を研ぎ澄ましたかに左右される。

 瞑想に費やした時間が長いほど魔法が強力になる。


 そうだ、瞑想しよう。


 こんな赤子の身体では寝返りを打つことすらままならない、なのに精神だけは成熟しているものだから退屈で死にそうだった。

 ならこの時間を全て瞑想に費やせば、それなりの魔法使いになれるのでは?


 こうして俺は生まれたその日から、将来に向けて瞑想をし続けた。


 赤子の間は食事の時間を除いて常に瞑想。

 頃合いを見て言葉を覚えたり歩けるようになったりしながら瞑想。

 勉強を終えたら瞑想。

 騎士や魔術師が側近としてつくようになり、彼らとの戦闘訓練を終えたら瞑想。

 父と共に領内の視察を終えたら瞑想。

 馬車での移動中も瞑想。


 瞑想、食事、瞑想、睡眠、瞑想、勉強、瞑想、修行、瞑想、瞑想、遊ぶ……のはダメだ、己の欲は殺せ、死ぬかもしれない……瞑想!


 修行僧もびっくりするレベルで自身の欲に打ち勝ち、ひたすらに自らの魔法を研ぎ澄ませてきた。

 全ては死なないために、生き延びるためだけに。


 そして俺は幾つもの歳を重ね、気がつけば15歳の誕生日を迎えた。




「ま、参りました……」


 その頃には国一番と呼ばれる精鋭騎士団の団長ですら歯牙にかけぬほどに強くなっていた。

 まあ正直なことを言うと、この辺りから少しずつ気がつき始めていた。


 もしかしてやりすぎたんじゃないかって。


「まさか弱冠15歳にして我が国最強になってしまうとは……」


「凄いわね、レオ……いや、凄すぎるわ」


 うん、父と母もドン引きしている。

 そりゃそうだろう、一国の王が修行をするのは最低限の技術を身につけるため。

 兵士も真っ青なほどの強さを手にしたところで発揮される場面なんてない。


「と、ところでレオよ。今日はお前の誕生を祝う記念すべき日なのだが……何か望むものはないのか?」


 父ディビドはやや遠慮がちに尋ねてくる。

 なぜかというと決して欲望に溺れない、禁欲を人生のモットーとして掲げてきた俺は、今まで一度たりとも何かを欲したことがない。

 誕生日プレゼントも常に断ってきたからだ。


 そのせいで最近は『人ではない』『神の使い』『実はむしろ悪魔』などと散々な言われようなのも小耳に挟んでいる。

 さすがに自重したほうがいいのだろうか、しかし死ぬのは怖いしな。


「特にない、かな」


「そうか……」


 俺の返答を聞いた途端、父も母も明らかに表情が曇った。

 正直心が痛い、だが自身の運命を知っている以上欲に溺れるわけにはいかないのだ。


「既に私の日々は父上と母上のおかげで満たされております、私の望みはこの平穏な日々がいつまでも続くこと、ただそれだけです」


「レオ……お前は我らには過ぎたる子だ」


「ええ、こんなに立派に成長してくれるなんて……」


 ゲームの通りに進むならば俺が死ぬのは3年後、だが大丈夫だ。

 今の俺は国民から嫌われてなどいない、どちらかといえば支持されているはず。

 15となった今、これからはより政治に関わる機会も増えると思うが、今まで通り過ごせば問題はない。


 もし主人公と会うことがあっても丁重にもてなして、協力だけして送り出そう。

 何としても生き延びてやるのだ。


 しかしそれらは全てこれからの話、今日のところは時間が余ってしまったな。

 どうしようかな……


 そうだ、瞑想しよう。





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第一話をお読みいただきありがとうございます!

主人公がゲーム知識を利用して無双しながら人々を助けていく、爽快でストレスなく読めるコメディものとなっております!

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