第6話 少女の説得

「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!えへへ」

メルネットちゃんは甘えるように私のお腹にうずくまる。

あはは…と乾いた笑みを浮かべる私。

その時チトーリがゴホンとわざとらしい咳をした。

「メルネット様。貴方様はマロンを追いかけてここへやってきているのです…」

チトーリが言いにくそうにメルネットを見た。

「?マロンはこれから探すけど…それがどうしたの?」

メルネットはきょとんと首をかしげた。

チトーリは自分が持っていた海中時計を見て焦ったように言った。

「実は…メルネット様が急に城を飛び出して、陛下がメルネット様を追いかけるように私に命じたのです。そして、メルネット様を見つけたらどんな状況でもただちに連れて帰るようにと…」

きっと王様はメルネットが心配なんだろう。

「貴方様が城を飛び出してから約7時間経っております。陛下も心配でままならないでしょう。」

それを聞いたメルネットは泣きそうな顔になった。

「で、でも…マロンは…?私、マロンと一緒に帰るの!!」

メルネットがチトーリに伝えるとチトーリは首を横に振った。

「なりません。きっと2日後くらいには捜索隊がこの森にきてマロンを見つけてくれるはずです。」

その言葉でメルネットの大きな瞳から雫が溢れ落ちた。

「2日後なんて…マロンお腹空いちゃって不安になっちゃうよぅ…!!」

メルネットはグスグスと泣いていた。

フリージアは何もできずにただ2人のやり取りを見守ることしかできなかった。

「仕方ないのです。メルネット様…」

チトーリが言うとメルネットは泣きながら叫んだ。

「いやだ!!いやだ!!マロンが可哀想!!私1人で探すからチトーリは先に帰って!!」

そう叫んでメルネットは森の奥の方に走っていってしまった。

「メ、メルネット様!!お待ちください!!森の奥は危険過ぎます!!」

私はメルネットを追いかけようとするチトーリの前に立ち、チトーリを通せんぼする。

「まって。」

するとチトーリは焦った顔をして、どいてくださいっ!!と叫ぶ。

「こんなことしてごめんなさい。でも…ここは私に任せて!!欲しい…です!!」

きっとチトーリはメルネットが心配なんだ。

私も心配だ。

だけど、きっとこのまま帰っちゃったらメルネットはまたお城を抜け出すだろう。

「お願いします!!信じてください!!」

私はチトーリを見つめる。

数十秒間、チトーリは私を睨んだら、はぁ…とため息を吐いた。

「わかりました。あなたに任せます。ですが、メルネット様になにかありましたら許しません。」

チトーリは私を真剣な顔で私に言う。

「はい。任せてください!!前にこうゆう事あったんです!!」

私はそう言うと、チトーリに手を振りメルネットが掛けて行った所に急いだ。

数分間走ったらメルネットちゃんのすすり泣く声が聞こえてくる。

「メルネットちゃん。泣いてるの?」

私がしゃがんですすり泣くメルネットの背中に背を合わせ地面に座った。

「ないて…ないもん」

メルネットの声は泣いたからか鼻声になっていた。

「メルネットちゃん。メルネットちゃんはマロンが心配なの?」

私がそう聞くとメルネットはバッと身体と顔をこっちに向けて言った。

「あ、あたり前だよ!!」

その声にはちゃんと真っ直ぐな意思が伝わってきた。

「きっと、メルネットちゃんのお父さんも同じ気持ち何じゃないかな?」

私が言うとメルネットは俯いた。

「そ、そうかもだけど…」

メルネットがそう言うと、私はメルネットの頬に手を当ててこっちに向けた。

そして私はニィッと笑って言った。

「安心して!!マロンは私がちゃんと責任持って保護してお城に連れて行くから!!」

私がそう言うとメルネットは驚いたような顔をした。

「ほ、ホンド?」

メルネットはだんだん涙目になっていった。

「ホントホント!!私の加護知ってるでしょ?」

私の言葉を聞くと、メルネットはうんうんと頷いた。

「マロンだってご主人様の泣き顔なんて見たくないよ。だからさ、笑って!!」

私がまたもやニィっと笑うとメルネットもニィっと笑った。

「うん!!」

そしてメルネットは自分の涙を腕で擦った。

「わあ!!だめだよ!!メルネットちゃんは可愛んだから!!擦ったら跡ができちゃうよ!!あ〜もう腫れちゃってる!!」

私は慌ててメルネットを止めた。 

「ご、ごめんなさい…」

メルネットはシュンとした顔で謝った。

「大丈夫!!今回はしょうがない!!今回は治してあげるけど、今度からは気をつけるだよ〜?」

私がそう言うと、メルネットはきょとんと首をかしげた。

「な、治す?」

「うん?そうだよ!!ヒール。」

私がメルネットの腫れたところに手をやって治癒の魔法をかける。

本当は無詠唱でできるのだが、人間という設定なので呪文を唱える。

するとパァァァと私の手から白い光が出てきて、メルネットの腫れを消した。

「はい。おしまい!!」

私が手を離すと、メルネットはわぁぁ!!と声を上げる。

「すごーい!!お姉ちゃんって治癒魔術師さんだったの!?」

メルネットは興味津々の様子で私に問いかける。

「ん?治癒魔術師?違うよ!!私は…」

『戦を駆け巡るただの天神族』

フリージアはそういいかけて口を閉じた。

もう戦は終わったんだ…。

「お姉ちゃん?」

メルネットが不思議そうに私を見る。

「な、なんでもないよ!!私はただのしがない魔術師!!」

私がそう言うと、メルネットちゃんは目をキラキラさせた。

「お姉ちゃん魔術師なの〜!?すごーい!!」

ははは…なんか少しだけ騙してるようで心が痛い…。

そう思っていると、ふとチトーリの待ちくたびれた顔が脳裏をよぎった。

「そろそろ行こうか!!メルネットちゃん!!チトーリが心配してるよ!!」

私がすぐ立ってメルネットに手を差し出すと、メルネットは満面の笑みで私の手をとった。

「うん!!」


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殺戮の少女は平和を望む @nekonohirune

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