第3話 大樹の精霊

私は森の中を歩いている途中少し違和感を抱いた。

全然妖精族や精霊族に会わないのだ。

いつもなら妖精族や精霊族は森を歩いていると嫌でも会ってしまう。

そんな両種族、今日ここ数時間見ないのだ。

もしかして、妖精族も精霊族もいない特殊な森なのかな…?



妖精族とは数ある種族の中でも特に魔力が多く、魔法に特化している種族だ。

魔力総量でいえば右に出る種族はいないだろう。

しかし、魔法技術といったらきっと妖精族よりも精霊族のほうが上だろう。

精霊族とは、それぞれの属性に長けた魔法だけを使う種族だ。

両種族とも両手の平サイズの小さな身体を活かした戦闘スタイルで指折りの強さを誇っていた。

結構似ている種族だが、違いがあるとすれば、妖精族は防御力が低く、全属性魔法をつかう。

それに比べて、精霊族は防御力が高く、個々の極めた魔法をつかう。

威力やコントロール力などでは精霊族が勝つが、汎用性や状況による柔軟性では妖精族が勝つ。

住んでいる所も一応違う。

精霊族は自分の気に入った大樹の中や精霊界と呼ばれる所にいる。

大戦時は精霊界との扉が戦によって不安定になり、ほとんどの精霊族が泣く泣く戦った。

妖精族は森の木々の上や動物達と共に暮らしている。

ここらへんの森は妖精族や精霊族が住みやすい環境だ。

幸運な事に、天神族はその2種族と同盟を組む程に仲が良い。

昔、妖精族と精霊族の友達に魔法を教えてもらったことがある。

一応嫌われてはない。好かれている方かな?と自負している。

なのに…全然会わない…。

そんな事を考えている内に大樹のそばについた。

結局妖精族や精霊族とは会えず、天神族の集落も見つからなかった。

しょうがない…精霊族を呼んで道を教えて貰おう…。

きっと優しい精霊さんが教えてくれる…はず…

コンコンコン

「精霊様。木の根元に花が5輪落ちていました。どうかご確認くださいな。」

これは精霊族を呼び出す時に使われる合言葉のような物だ。

昔、魔法を教えてくれた精霊に教わった方法。

少し待つと白いふわふわした光が大樹から出てきた。

『人間…ではない…天神族か…。』

少し驚いたように精霊の声が私の頭に響く。

『っ!!その姿もしや…いや、見間違いか…だって……もう……』

精霊の驚いた声が聞こえる。

どうしたんだろ?

「どうなさいました?」

私が問いかけると、精霊はコホンとわざとらしく咳をした。

『なんでもない。なにか用か?』

「はい。少し道に迷ってしまって…天神族の集落はどこでしょうか?」

本当は集落には行きたくない。けど、仕方ない…

『それをわしが答える前に答えよ。この合言葉をどこで、誰に教わった?』

大地を震わせるほど低く震えた声が頭に響く。

「え?えっと…友達の精霊さんに教わりました!!」

『う、嘘を言うな!!その合言葉はとっくの昔に知る者は死んだ!!天神族だってこの合言葉をこの時代に知る者はいない!!』

凄く怒った声が頭にキィィンと響いた。

「こ、この時代って?今は星暦何年なの!?」

私は少し焦ってしまい、声を荒げてしまった。

『星暦?何年前のことだ?あんな戦争の時代は何万年も昔に終わってるのだぞ?』

私の頭に響く呆れたような精霊の声は、さっきよりだいぶ落ち着いていた。

それと反比例するように、私の焦りは大きくなっていった。

「星暦じゃない…?じゃ、じゃあ今はいつなの…?」

私は膝から落ちそうなのを堪えて精霊に聞く。

『そんなことも知らないのか?ま、いいが。今は新星暦408年だ。星龍族のペンタス様が神の座について新星暦が誕生したんだ。知らないのか?』

星龍族とは強さで言えば数百とある種族の中でも指折りの強さを持つ種族だ。

昔も星龍族が神の座につく可能性が一番高いと各種族間で言われていた。

それもそうだ。神の座につくために私が…『殺戮の妖精』が、神の座につくために最後に戦った相手が星龍族なのだから。

実を言うと互角だった。

死闘の中、数日も戦いを繰り返しもぎ取った『神の座』。

私がもぎ取った…なのに─────

「ち、違う!!神の座に就いたのは天神族のダリア!!彼女のはずだよ!!」

私が必死に精霊に問いかけていると、頭の中で精霊のため息が静かに響いた。

『ああ。確かに最初に神の座に就いたのはダリアという言う女だったぞ。』

「最初?最初ってどういうこと!?あの子はどうしたの?」

私がそう叫ぶと精霊は呆れた声で言った。

『ハァ〜面倒くさいのう。

今、この時代に天神族は稀有な存在だ。

集落なんてあるわけがない。

……どうしても、1人でも天神族に会いたいのなら人間の国に行くといい。

羽やアウレオラがなければ天神族なんて人間そっくりだしな。

人間の国へ行けば1人や2人、天神族と会えるやもしれんぞ。

だが万が一のために魔法をかけとけ。

こっから北にまっすぐ行けばベルシャルト王国に着く。

……これでいいか?』

少し不機嫌そうに早口で喋り息切れしてる精霊。

ど、どうして怒ってるんだろ…?

でも助かった!!どこに何があるかわからないから!

「ありがとう!!ベルシャルト王国を目指すことにするよ〜!!」

『ふん。さっさと行け。出ないと日が暮れる。』

膳は急げ!!早く行こう!!

「そうする!!ありがとう!!あなたにはいっつも助けられてばかりだね!!ティアリス!!またくるね!!今度はお茶しよ〜!!」

私はそう言いながら手を振って大樹をあとにした。



『今……、ティアリスって……その名前で私を呼ぶのは………やはり……フリージア?…なんで……生きて…おるのだ…?』

そう言ってティアリスと呼ばれた精霊族は数分間ボーっとし急いで実体化し、大樹を抜け出したが、もうフリージアの姿はなかった。

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