第4話 禁断の肉体改造

 説明しよう。「ひまロウ・モテモテ大作戦」とはこの俺、ひまロウがモテモテになる作戦ことである!


 実に素晴らしい計画だ。しかし、具体的な方法については一考を要する。


(このアプリを使えば一瞬にしてイケメンに整形することも容易い……が)


 免許証の顔写真と一致しないとか、生活に支障が出るのは勘弁だ。安易に顔面をいじるのはデメリットの方が上回ると、俺は結論付ける。


(ここは慎重に別の道を模索するべきだな)



  *



 それからの数日、俺は限られたログイン時間で項目を洗い直していた。


(【恋人いない歴9年】かぁ……)


 大学デビュー失敗、暗黒の4年間を経て今なお独り身。挽回のチャンスは目の前にある。

 仮にこの数値を0にしたら、自動的に彼女ができたりするのだろうか。


(案ずるより産むが易し……いや待て、早まるな! 【恋人】としか書いてないぞ!)


 相手が女性ならいざ知らず、男性だったり、そもそも人間じゃない可能性だってある。誰と結ばれるかも分からない恋人ガチャなんて恐怖でしかない。


「……やっぱやめとこ」


 俺は今一度考え直す。モテたいといっても、相手が誰でもいいわけではないのだ。

 真っ先に俺の脳裏に浮かんだのは、受付の百合谷ゆりやさんの笑顔だった。


(こないだの花見会でも『彼氏はいません』なんて言ってたが……グズグズしてたらどこぞの馬の骨に先を越されてしまう!)


 この神アプリを手にした今、アピールの手段にこだわるなど時間の無駄だ。

 俺は覚悟を決めた。



  *



 22時22分。ログインした俺は迷わず【身長173cm】の項目に指を乗せる。

 髪の長さだって変えられたのだ。きっと身長も上手い具合に調整されるはず。


(ここは180……いや、思い切って185cmまで伸ばす!!)


 イケメンとくれば高身長は必須。中途半端な背丈とも今日限りでオサラバだ。

 +ボタンを連打し、確定。夢の高身長ライフがすぐそこで俺を待っている!


「…………ん? な、何かちょっ、い、痛……いでででででで……っ!!」


 脚と言わず腕と言わず、俺の全身を激しい痛みが襲い始めた。


「ま、待って! いでっ!! これって、もしかして……!?」


 思い当たったのは成長痛だ。育ち盛りの時期に何ヵ月もかけて徐々に起こる変化。それが一度にやって来たらどうなるか。


(ショック死……!? や、ヤバい……早くキャンセルしないと……!!)


 俺は激痛に耐えながら、画面の-ボタンに指を伸ばす。


「ぬぅおおおおおおぉぉぉ…………ッ!!」

「おい、うるせーぞ!!」


 隣の部屋から怒号と壁ドンの急襲。だが、こちらは文字通り必死である。


「じゃかぁしぃあああァッ!! こちとら命かかっとんじゃあ、ボゲェええ!!」

「さ、サーセン……」


 俺が怒鳴り返すと、お隣さんは大人しくなってしまった。すまない。悪いがそれどころじゃないんだ!


「ぶぃゃぁぐだだぢぅざんぜんぢぃやぁぁあ――――ッ!!(訳:173cm)」


 数値を元に戻し、再確定――と同時にタイムアウト。

 未だ残る痛みの余韻に、俺の意識は朦朧もうろうとしていた。


(うぅ……もう痛いのヤダぁ……今日はお薬飲んで寝ゆぅ……)


 俺は部屋を這い回り、鎮痛剤を飲み終えると、その夜は枕を涙で濡らしながら眠りに落ちた。


(一体、誰が……こんなアプリを……俺なんかに…………――――)




 ちなみに、お隣さんには後日菓子折りを持って謝りに行った。仲良くなった。

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