第3話 チートタイムの法則

 スマホの時刻表示は22時22分。画面にアイコンが現れた。天使の翼と輪っかを組み合わせたデザインは、昨夜そして今日の昼間に見たのと同じものだ。


「来たッ!」


 待ってましたとアイコンをタップする。アプリの起動とともに、画面には俺の個人データがずらりと並ぶ。


(【硬筆6級】……【被服3級】……【レタリング4級】……取ったこと忘れてるのまであるな)


 初めから持っていない資格や資産は表示されないようだ。

 その一方で、


(頭囲、座高、股下……こんな所の明確な数字まで……ッ!)


 身体情報に関しては、体幹から手足の指先に至るまで細かく数値が示されている。身体は俺の持ち物だからということか。


 有給日数が変えられたのだ。ほかの数字だって変えられるはず。


(こっそり1cmぐらい盛っても――……なっ!?)


 またもや強制的にログアウトされてしまった。やはりアプリのアイコンは画面から消えている。

 現在時刻は22時23分。


(1分間しかログインできないってことか……いや)


 今までの3回、アプリが出現していた時間帯はいつだったか。


(……分かったぞ。次の勝負は――1時間半後だ!)




 そして午前0時ちょうど。


「よし来た!」


 アプリは現れ、1分後には消えた。


(次は1時間10分後だ)


 俺の予想通り、1時11分にも、2時22分にもアプリは現れる。

 おそらく、次は3時33分にも。

 アプリにアクセス可能なタイミングとは「表示がゾロ目になる時刻」に間違いない。


(もう充分だ。試すのは明日にしよう)


 慌ただしい一日の終わり。俺はすっきりとした気分で眠りに就くことができた。



  *



 翌日。遅めの朝食を済ませた俺は、スマホを手に洗面所の鏡の前で11時11分を待つ。


(そろそろ髪も伸びてきたし、試してみるか)


 美容院の予約も億劫おっくうだ。現れたアプリを起動し、事前に目星をつけておいた【髪の長さ】の項目に指先を合わせる。


(上手くいってくれよ)


 数値を2cm減らし、確定。結果、俺の髪は全体的に少しずつ縮んでいき、ちょうどいい長さに調整された。


(フッ……我ながらイケてるな。ただもう少し、こう……どうせなら鼻の高さとか微調整してみるのもいいか?)


 あれこれ考えている間に、アプリは再び消えてしまう。チャンスこそ日に何度もあるが、与えられた時間は1分と短いのが難点だ。


(次の機会は今夜か……よかろう)


 すでに目標は定まっている。あとは実行に移すのみだ。


(待っていてくれ、百合谷ゆりやさん……!)


 俺はここに「ひまロウ・モテモテ大作戦」の始動を宣言する――!

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