すべては歴史に名を残すため

「なるほど……そんなことがああったのですね。結論から言いましょう。俺はポッポマンの支配を無効化できる能力を持っています」


 松田セイサクは自分の拠点でもある洞窟の中でヤクマルの話を聞いた後、誰にも言ったことがない秘密を打ち明けた。


「でも、セイサクさんの能力って、たしか風を起こすヤツだったと思うんスけど」


「ああ、あれはブラフです。正確には、俺の変身形態であるサイコの手のひらが風を起こせるだけで、変身前はできません。スラッシュの刀みたいなものですね」


「なるほど……身体的特徴で自分の能力を隠し通したんスね。俺もやればよかったなぁ……」


「いや、脇田さんの能力はむしろ公表して正解でしたよ。でなければ、俺にも接触できなかったでしょうし」


 そう言いつつ、セイサクは力を込め、耳の穴から黒いガスを出し始めた。


「俺の能力は、『他の能力を無効化するガスを、身体中の穴から出す』というものです。俺はそれを、『リベラガス』と呼んでいます」


「なんで、他の能力を無効化することがポッポマンの支配から逃れることにつながるんスか?」


「いい質問ですね。簡単に言えば、ポッポマンの眷属を無条件で操る力は彼が持つ『眷属を作る能力』に由来しているからですね」


「なるほど……たしかに、ダンのままでも両手で握る動作で眷属作っていたなぁ……ちなみに、1度吸ったら効果は永続なんスよね?」


「いや、過去の戦闘でどさくさ紛れに味方に使った時は、10秒前後で解除されていました。俺は常に全身にガスがあるので常時発動していますが」


「じゃあ、俺は支配から逃げられないじゃないスかぁ~」


「いえ、方法はあります。これを見てください」


 そう言うとセイサクは、奥から真っ黒な結晶を取り出した。


「これは、リベラガスを固形化したものです。これを体内に取り込めば、あなたも常時ガスの効果が発動した状態になると思いますよ」


「おお……応用すごいっスね」


「ははは、俺は昔から創意工夫とか創作活動は大好きだったので、離反して以降はずっと能力の研究をしていたんです」


「へえ……」


 そういいつつ、ヤクマルは洞窟内に描かれた壁画を見る。


 そこには、セイサクが知る限りのポッポマンの所業が1つ1つ液体化したリベラガスを用いて描かれていた。


「そういえば……どうしてセイサクさんは離反したんスか?……もしかして、最初から離反する気だったとか」


「脇田さん、正解です。俺はもともと、ポッポマンに従う気は全くありませんでした」


「じゃあ、どうして眷属なんかに」


「歴史に名を残すためです」

 

 セイサクが真摯な瞳でヤクマルを見つめ、己の目的を告げる。




 松田セイサクは、創作活動が趣味の一般的な20代男性であった。


 深い人付き合いには興味を持たず、恋人も妻もいなかった。


 しかし、それとは別に『自分が生きた証を残したい』という意思もきちんと持っていた。


 周りの同級生がどんどん結婚したり子供が生まれたりしていく中、セイサクは『自分は何をこの世界に残せるのだろうか』と自問自答していくようになった。


 そんなある日、ポッポマンが暴れる様子をテレビ越しに見た。


 セイサクはバケモノの存在に怒りを抱いた。


 それと同時に、『もしこのバケモノを倒すことができれば、歴史に名を残せるだろう』とも思った。


 数日後、セイサクは夢の中でポッポマンから力を貰った。


 それと同時に、彼の反骨精神に由来する能力『リベラガス』も目覚めることになったのだ。


「脇田さん、あなたの能力はポッポマン討伐においてあまりにも有用です。俺と共に、歴史に名を残しませんか?」


 松田セイサクが、箱根ダン並みのカリスマを発揮しつつ、ヤクマルを自陣営に引き込もうとする。




「……わかったっス!俺、セイサクさんについていくっス!」


「よろしくお願いいたします、ヤクマルさん」


 松田セイサクが、ヤクマルを始めて下の名前で呼んだ。

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