謁見&遭遇

「ダン、いい報告があるよ」


 4月3日夕方、ポッポベースの執務室にて、ヤクマルのワープで帰ってきたテンスケが吉報を持ち帰る。


「……え、マジ?!もう記憶改変できる眷属手に入ったの!?」


 都市計画に関する書類を書く手を止め、驚くダン。


「まあ、正確にはちょっと違うんだけどね……ロクノ、入ってきていいよ」


 執務室にロクノが入ってくる。


「どうも……相模原ロクノといいます……よろしく。」


 初対面の相手と対峙した緊張といまだに残る家族を惨殺した興奮で震えるロクノ。


「……んで、『ちょっと違う』っていうのはどういうことだ?」


「あの……ウチは変身しないと記憶改変ができないんです……『能力』ってのは変身前でも使えるヤツですよね……」


「ああ……そういうパターンか」




 ポッポマンの眷属において、完全に細胞が馴染んだ眷属は『能力』と各々で違う姿を持つ。


 そして、眷属が持つ身体的特徴の中には実質的な第二の能力と言えるものも多々ある。


 スラッシュは刀のような尻尾を、ワイヤーは糸を出せる腕を、リキッドは際限なく意図的に涙を出せる目を。


 それぞれが持ち、変身前でも使える『能力』とは別に所持している。


「んじゃ、ちょっと変身させてもらうね」


 サッ!


 ダンがロクノに手をかざすと、強制的に変身シークエンスが始まり、ロクノは蛹に、そしてバケモノになる。


「左手の消しゴムみたいな五指で触れた相手の記憶を消して、右手の鉛筆みたいな五指で触れた相手の記憶を捏造するんだって」


 テンスケが能力の補足説明をする。


「にわかには信じがたいな……証拠はあるか?」


『あるで。奴隷四号、入ってきて』


「かしこまりました」


 執務室の外の廊下で待機していた奴隷四号が入ってくる。


『ウチの異父兄から今までの記憶を消し去った後、無条件で自分に従属するように記憶を捏造して生まれた存在、奴隷四号や』


「ワイは死ぬまでロクノ様の奴隷でございます。これはワイの絶対的な宿命でございます」


「マジか……マジもんじゃん。いいね……ここまで強くて繊細な洗脳ができるとは」


 奴隷四号の仕上がり具合に、ポッポマンは絶賛する。


「そういえばなんだけど、『能力』の方はどんな感じなんだ?」


『せやなぁ……なんか眷属になってから変身前後かかわらず、考え事をする速度が少しだけ速くなったんよな……それって眷属のデフォルトなんか?』


「いや、そんなデフォルト仕様は僕たち眷属にないから、それがきっとキミの『能力』だと思うよ。言うならば、『常時思考加速』って感じかな」


「んじゃ、鉄道名ポッポネームはどうする?あっ、鉄道名ってのは変身後の名前だね。徳に希望がなかったらこっちで勝手に決めるけど」


『ノンレガシーがええ。ウチはこの力で過去を無かったことにした。だから、ウチの名は無遺産ノンレガシーなんや!』


「いいなあ。よし、それで決まり!」


 こうして、また新しい眷属が産まれていった。


「そういえば、さっきキミを送り届けたであろうヤクマルはどこにいるんだ?」


「なんか、サイコの目撃情報について調べるとかなんとかいって瑞穂に残っているようです」


「そ、そうか……」


■□■□■□■





「サイコさん。いや、松田セイサクさん……お久しぶりっス」


 一方そのころ、ヤクマルはサイコの目撃情報があった場所を中心に一心不乱に野良県の山奥を走り回った末、ついに遭遇した。


「脇田さん、お久しぶりですね……始末に来たのでしょうか?」


 松田セイサクは髪と服を潜伏生活で汚しながらも、その気品と決意に満ちた目はそのままでヤクマルのもとにあらわれた。


「いえいえ!そんなことないっス!むしろ逃げてきたんッス!」


 その発言をきき、聡明なセイサクは全てを察した。


「そうでしたか……じゃあ、今の俺のアジトに入ってください」


 


 箱根ダンに反感を抱く2体の眷属が、手を組もうとしていた。

 

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