大掃除
『さあ、このビンの中にあるケムリを吸ってごらん。そしたらすぐに眠くなって、誰かに問いかけられる夢を見る。そこで力を、貰うんだ』
リキッドがポッポマンのケムリを詰めたビンをロクノに渡す。
ロクノはすぐさまビンを開け、ケムリを吸い、夢を見る。
そして目を開け、
「変身」
サナギになり、バケモノになる。
「完全……いいじゃん」
ロクノが変身したバケモノは、鉛筆のような指の右手と消しゴムのような指の左手を持つ、完全な眷属であった。
『まずは……アンタからや』
バケモノと化したロクノは気を失っている実父を握り、憎しみを愉悦の笑みを浮かべる。
グギギギギギ……!
「あぐっアアッ!アッ!」
そして、ゆっくりゆっくりと握力を強めていく。
痛みで意識が戻るのロクノの父。
「離せ……!離せロクノ!」
『へえ……!こんな姿になってもウチがわかるんやなぁ!』
「あたり前だ……俺はオマエの親父なんだぞ!こんなことして、許されるとおもっとんのかぁ!ウグッ!」
ロクノの握力がまた一段と強まる。
『それ以上わめくなよ、ゴミクズ人間』
「誰がゴミクズだぁ!ゴミクズなのは家族に手をかけるオマエだ!」
『そういえばさぁ……今日ってたしか生ゴミの日だよね……』
「それが……どう……した……!」
『大掃除の……始まりだアアアアアア!!!』
ブチィイイイイイイイ!!!
グッシャアアアアアアアアアアアアン!!
父親は、爆ぜた。
『まだまだ……始末すべきゴミはいっぱいあるねぇ』
「あっああああっあっあっ……ああっ!」
五乃輔がリキッドの涙で拘束されたまま、上と下から体液を漏らす。
『大丈夫だよ。五乃輔は最後から2番目だから』
グシャアアアアアアアアアアアアアア!
「に、二乃輔ぇええええええええれえええええええ!!」
隣にいた二乃輔が一瞬でミンチになり、震えあがる五乃輔。
『一乃、なんでさっき、アンタがウチを蹴りつけたのか、今ならわかるんや』
「えっええ?うっ」
ドッシャアアアアアアアアアア!!
一乃の身体は強く蹴りつけられ、ボロアパートの壁を壊し、隣の部屋にまで転がっていく。
なお、隣の部屋には誰も住んでいないため、この惨状の目撃者が増えることはなかった。
『憎しみを抱いた状態で、自分より弱い人を見るとな……いたぶりたくて
ドゴンシャアアアアアアアアア!!
三乃が断末魔を叫ぶ間もなくロクノの拳で圧縮されていく。
『これで残るは……母という名のクソアマババアと五乃輔、そして四乃輔か……四乃輔は、どこや?』
『窓から逃げようとした、コイツのことかな?』
リキッドが青年を左手に掴み、ロクノに確認する。
『ああそうや。四乃輔は昔から鬼ごっことかくれんぼが上手だからなぁ……大人しく死ねや』
「あっああっ……許して……許して……これからは一生ロクノの奴隷でいいから……」
バケモノからバケモノの手へと、渡されていく四乃輔。
『ええ提案やな。でもなぁ……ウチはこれまでの人生を全てきれいさっぱりにしたいねん』
「ど、どういゆことなん……?!」
『バカなアバズレババアのお腹から生まれ、兄や姉たちにいじめられてきたこれまでの人生を、なかったことにしたいねん……!』
「そんなの……ワイも同じや!ワイもこんな人生、望んでいなかった!ロクノ、どうかワイにチャンスを!」
『……わかった。じゃあこれからアンタは、生まれながらのウチの奴隷や』
シャアアアアア……!
ロクノが左の五指すべてを四乃輔の頭に当て、続いて右の五指すべてを当てる。
「……ワイはロクノ様の奴隷です。あなたの命令なら、なんでも応じます」
四乃輔は、記憶を書き換えられた。
(マジか……!やった!やったじゃん!一発目からダンが求めていた大当たりじゃん!)
求めていた能力の発現に、喜ぶリキッド。
『奴隷四号、五乃輔を殺してくれんか?』
「わかりました」
四乃輔改め奴隷4号は、異父兄弟の弟の首を迷いなく締める。
五乃輔は固形化した涙のせいで抵抗できず、やがて気を失う。
それでもなお、四乃輔は首絞めを辞めない。
『じゃあ、最後の総仕上げや!アンタを殺して、ウチはクソ汚い過去と、おさらばするんや!』
「ああ、ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
目の前で子供が3人死に、残る2人が殺し合っている惨状を見て、狼狽するロクノの母。
しかし、その程度の謝罪ではもう、ロクノは止まれなかった。
『簡単に男に身体を許し、豚のごとく何人も子供を産み落としたアバズレめ……死ねえええ!死ねッ!死ねっ!死ねえええええ!』
ドシャアッ!ドスャア!ドシュ!ドンッ!
両の拳で何度も叩き潰されるロクノの母。
最初の一撃でもう死んでいるのに、何度も何度も拳は振り下ろされる。
『ウチは生まれたいなんて一度も言っていない!気付いたら、クッソ汚い家にいて、クッソ汚い兄や姉に虐げられてきた!ウチは、何にも悪くないんやああああ!!』
たとえ母の身体がもう叩けないほどにミンチになろうとも、気にせず床を殴るロクノ。
『ハア……ハア……大掃除、完了や……!』
「ワイの方も、五乃輔の始末がちょうど終わりました」
母の命が失われてから数分後、ついにロクノの大掃除が終わりを迎えた。
『……よし。じゃあ、さっそく僕たちがこれから住む場所に向かおうか。もし持っていきたいものがあったら、今のうちに手で持っておいて』
『わかった。じゃあ四号、アンタも同行や』
リキッドがスマホでヤクマルに事態の顛末を軽く報告すると、数秒の間もなく彼らの身体は奴隷四号ごと野良県の山奥へと転送されていった。
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