イビツで素晴らしい救世主
「なるほどね……けっこういい候補、揃ってるじゃん。野良県在住の人しかいないのがちょっと気になるけど」
4月3日、テンスケは野良県の山奥に建てられたポッポマン大好き倶楽部臨時拠点にて、ヤクマルが作った資料に目を通していた。
資料に乗っているのは、いずれも現状に苦しんでおりSNS内で『ポッポマンでもいいから助けてほしい』という趣旨の投稿をした女子である。
大好き倶楽部の特定能力により、すでに本名のみならず住所や年齢までだいたい把握されており、資料にも記載されている。
「送り迎えのみならず資料まで作ってくれるなんて、気が利きすぎなんじゃないの?」
「いえいえ、こういうのは助け合いっスから」
(バレてないよな……俺の計画……よかった)
その資料を作った目的が『野良県で活動するための理由を作るため』であることも知らないまま、テンスケは近くで地図を見ているヤクマルを褒める。
「さてさて……じゃあ、記憶改変できる眷属にもなれそうなこの子から接触してみようかな」
そう言ってテンスケは、資料の中にあった『相模原ロクノ』という名前を、蛍光ペンで囲った。
■□■□■□■
「神でも仏でも、バケモノでもいいから……ウチを助けてくれる人いないんかなぁ……」
姉2人と共有している狭い部屋の中で、相模原ロクノが救済を求める独り言をつぶやく。
相模原ロクノは、6人兄弟の末っ子である。
母親が離婚と再婚を繰り返したことにより、兄弟姉妹のうち4人が異父兄弟である。
ロクノの家には、『自分より年上の家族は無条件で敬わなければいけない』というルールが存在していた。
それゆえ、ロクノは母や兄、姉からシンデレラのごとく家事を押し付けられていた。
それだけではない。
ドンッ!
「いでっ!なんで蹴るん!?」
ロクノの背中を彼女より10歳年上である異父姉「一乃」が蹴りつける。
「……邪魔だったから」
ロクノは、末っ子ゆえに姉や兄たちからストレスのはけ口にされていた。
すでに近くにいたもう一人の姉「三乃」も黙って身内同士の暴力を静観している。
「おい、娘たち。今月分の給料……くれ」
そんな中、ロクノの実父でありロクノの母の現旦那である男が、娘たちに給料をせびる。
ロクノの実父はロクデナシであった。
血のつながらぬ子供4人が働いて得た給料と血のつながった子供2人がバイトで得た給料をすべて預かり、賭博につかっている。
「……なんで、先に産まれただけでそんなに偉ぶっているん?」
震えながらも、ロクノはこの家で横行している理不尽に疑問をぶつける。
「なんで……そんな恥知らずなことして……そんなに偉ぶって」
「ロクノ!!」
バシイイイイイ!
しかし、彼女の涙ながらの訴えは実父の全力ビンタで中断された。
「痛い!!」
「当然だっ!家族は自分より年上の家族のために尽くす!それが道理ってヤツだ!その考えが、人類を発展させてきた!滅びたいのか?!」
頬の痛みに泣く娘に対し、全力でまくし立てる父。
「わかったか?!返事はハイ!それ以外ならもう1回ブツぞ!」
『ハイハイ……わかったよ』
「あっ?!……って誰の声だ?」
ロクノの実父が聞いたことのない声を聞き困惑した次の瞬間。
ガシャッン!
家の玄関の扉が壊れる音がした。
『辛かったよね……怖かったよね……助けて欲しかったんだよね……助けにきたよ』
海老名テンスケは壊れた玄関を固形化した涙で塞ぎ、リキッドに変身した状態で家の中へと入っていく。
「バッバババッバッババケモン!バケモンよ!」
ドスッ!
ロクノたちの母が、衝撃の事態に驚きを隠せず失神する。
なお、実父の方はすでに視界に収めたときに恐怖で気絶している。
「人生辛いよね……でも、もう大丈夫!僕の彼女になれば、学校にも通わなくていいし、労働もしなくていい理想郷へ連れて行ってあげるよ」
変身を解き、笑顔でロクノに向けて口説き文句を解くテンスケ。
「おいオマエ!うちの
殴りかかろうとするロクノの兄、二乃輔。
しかし、彼の拳は無敵の力を持つゴウタの前では無意味であった。
「助けに……来たの?」
「ああ、そうだよ。僕は、キミの助けになりたいりし、キミの助けが欲しいんだ」
「ロクノから離れろ!ソイツがいないと家事が全部俺に回ってくるんだよ!」
ドンッ!
ロクノと唯一両親が同じ兄弟である五乃輔がテンスケにイスをぶん投げるが、イスは空しく床に激突する。
「うるさいなぁ……ちょっと動かないでくれる?』
バシュッ、ガキガキッ!
さすがに妨害されすぎてイラついたテンスケはリキッドに再度変身し、涙を飛ばして固形にすることで視界に映っていた一家を拘束した。
『僕ならキミを虐げた家族を皆殺しにできるし、キミに家族を皆殺しにできるだけの力も与えられる……僕の彼女になれば、対価なしでやってあげるよ』
リキッドがロクノに取引を持ち掛ける。
「じゃあ……ウチは……」
「家族を皆殺しにできるだけの力が……欲しいです」
一家大虐殺が、始まろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます