僕を安心させ続けてほしい

「なあゴウタ……どうして人間って醜いのだろうな……つける必要のない優劣を付けて、憎んで、争って……」


 4月1日、ポッポマンが活動開始してからちょうど一か月が経った頃、ダンがゴウタに普段の横暴さがウソのように思える繊細な質問を投げかける。


「アンタ……本当は争いとか嫌いだもんねぇ。」


「ハハハ……その返しができるのはこの世界だとキミかリンちゃんくらいだよ」


 ポッポベースのベランダにて、ダンが少し儚く寂しげな笑みを浮かべる。




「まあ、強いて言うなら、俺達が生物だからなんだろうな。DNAの指示のもと、限りあるリソースを奪い続ける、醜い存在。それが生物の本質さ」


 ゴウタは、長年の不遇によってダンに負けず劣らずの歪んだ思想を持っていた。


「……そうか、じゃあ僕の暴力も仕方なかったってヤツか。このままじゃ僕、負け犬のままだっただろうし」


「後悔……していたのかい?」


「後悔なんて、していないよ。ただ、誰にも否定されず、人生ってものをたのしみたかっただけだよ」


「……今日もまた、3つの国がポッポマン様と不干渉条約を結びたいと媚びを売り始めていますよ」


 2人の会話にさりげなく入り、業務連絡をする綾瀬ノリオ。


「ああよかった。また……僕を否定する者が減っていく……僕はね、きっと怖がりなんだよ」


 そう言うとダンは、3月以降で一番か弱い顔をして、側近の2人にお願いをする。




「だからお願い、僕を安心させ続けて。もう不安なのは……嫌なんだ」


「ああ、わかったよ。俺達は友達だ。地獄の果てまで安心させてやる」


「かしこまりました。ポッポマン様へと向かう刃は、すべて我々ポッポマン大好き倶楽部の手でへし折ってみせましょう」


 2人が、それぞれの特色が出た返事で主君のお願いに応える。


 ポッポマンの呪縛から逃げ出そうとする、身の程知らずで一生懸命な眷属たちのことも知らずに。




■□■□■□■




「ああ、なんだか人恋しくなって不安になってきたな……恋人、そろそろ3人くらい欲しくなってきたなぁ」


 一方そのころ、外壁工事が一通り終わってポッポベースの自室でくつろぐ海老名テンスケが、願望を口にする。


「『彼女にならないと殺す』ってのはダンと丸被りだし、『彼女になったらポッポマンの眷属になれるよ』は魅力に欠けるし……」


 口説き文句を考えながら、テンスケは髪をといて男性用の化粧セットを使って自らを彩っていく。


「圧倒的暴力を利用しつつ、相手が心を差し出してくれるような口説き文句ってないのかな……」


 化粧が終わり、鉄道将軍の正装ではなくオーリンにおける流行ファッションに身を包むテンスケ。


「……あ、この口説き文句いいじゃん!もしも人間時代の僕だったらそうやって口説かれたなら……一発で了承しちゃうだろうね」


 とびっきりの口説き文句を思いつけたテンスケは、鏡に自分の姿を映し、決めポーズをして告白の練習をする。


「人生辛いよね……でも、もう大丈夫!僕の彼女になれば、学校にも通わなくていいし、労働もしなくていい理想郷へ連れて行ってあげるよ」




 バケモノのモテ活が、始まろうとしていた。 

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