この世で一番おぞましいプロポーズ
「丸山リン、僕は今からキミに伝えたいことがある」
3月22日の午後、ポッポベース内にある玉座の間にて、いつもよりも少し甘い声で箱根ダンが撮影カメラへと語り掛ける。
彼の後ろには、赤い布で隠された何かがすでに用意されていた。
「ずっと前からあなたのことが好きだった。これからは共に人生を歩もう」
この世で一番おぞましいプロポーズの生中継が、始まろうとしていた。
「僕とキミが出会ったのは、小1の入学式だったかな。僕もキミも電車好きだったから、おしゃべりがとても盛り上がったんだっけ」
「それから小3まではずっと仲が良かったね……両親が死んで引っ越さなきゃいけなくなったときは、悲しくて涙が止まらなくて……眠れなかったよ」
(オマエ……そんな人間らしい側面や思考もあったんだ)
普段は滅多に見せない人間的な側面に、照明係を務める脇田ヤクマルは驚きを隠せなかった。
「……そこからは地獄だった。叔父夫婦は僕に先天的ハンデがあることを認めないし、学校ではいじめられるし……俺を支えるのはたった1つの希望だったんだ」
そう言い終えると、ダンの目から涙がこぼれ始めた。
「憧憬高校で会おうという約束……守れなくてごめんね……うっ、うぐっ、ううっ……」
これまでは決して部下の前では見せなかった泣き顔を、カメラの前で存分に見せる箱根ダン。
すべては丸山リンの心を、突き動かすためである。
(オマエの涙って、悔し涙以外の種類もあったんだな)
ヤクマルが引き続き、ダンの新たな側面に心の中で感想を漏らす。
「……ぐすっ、高校進学後、キミと縁を取り戻せたときは、とっても嬉しかった……でも、キミは親のせいで俺と絶縁することになったんだよね……」
ダンの顔つきから人間らしさが消えていき、おぞましさだけが残っていく。
「……キミの両親の命はね、僕の手のひらの上にあるんだよ。」
そう言うと、ダンは自分の後ろにある赤い布をぬぐい取り、隠していた物をカメラに見せつけた。
「んーーーーーん!ぐううううううう!!」
「んぐう!んぐうう!んぐう!!」
隠していたのは、リンの両親が口を猿ぐつわでふさがれた状態で入っていたオリであった。
「大丈夫、命に別状はないよ……今はね」
(やっぱコイツバケモノだった!)
ヤクマルの中で変わりつつあった箱根ダンへの印象が、元に戻った。
「『娘が幸せなら、俺達はどうなっても構わない』ってうるさかったから、黙らせたよ……まあ、キミが首を横に振ったとき、彼ら以外も犠牲になるけどね」
そう言うと、ポッポマンは流れるようにサナギからポッポマンへと変わっていき
『ングィイイイイイイイイイイイイイイイ!!』
カメラの向こうで見ているであろう視聴者たちに、己の威信を示すかのように威嚇した。
『俺に高熱もニュークリアも効かない。低温にはちょっと弱かったよ……この間まではね!』
ポッポマンは再びサナギになり、ポッポマン・フルフォースへと変わる。
『この姿になってからは、寒さすら怖くなくなったよ。おかげで、邪悪なモスカー連邦からオトナリア公国を守ることもできた!!』
『リンちゃん、ポッポマンに従った方が、キミのためにもみんなのためにもなるよ』
ポッポマンが、胸のポガステアが、次々としゃべる。
『俺がその気になればね……厚山市くらいの街なら一瞬で更地にできるんだ……いったい何人の人間が死んじゃうのかな……!』
『ポッポマンに従わなかったら、何千何万という人々が命を落とすよ!』
『ポガステア……それはちょっと違うかな。俺はね、リンちゃんを手に入れるためなら、リンちゃんと眷属以外の人間は全員殺してもいいと思っているんだよねぇ!』
ポッポマンが、邪悪極まりない笑顔で、全人類を人質にとる。
『みんなが助かる方法はただ1つ……オーリンにおける3月25日の日没までにリンちゃんが僕の街に来てくれることだ。そしたら、誰も死なずにすむよ』
『もしもその時に戦闘機とかで攻撃してきたら……リンちゃんのお父さんとお母さんはポッポマンたちの晩飯になるよっ!』
ポガステアがさらっと、えぐいことを言う。
『リンちゃん……僕の人生には、キミが必要なんだ。……待ってるからね』
その一言で、この世で一番おぞましいプロポーズは幕を閉じた。
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