恐怖の支配者はポッポマンの恐怖に苛まれ……

 3月22日、モスカー連邦のオトナリア公国侵略戦争に大きな動きがあった。


 紛争地に突然、ポッポマンとその一味が現れた上に、モスカー連邦軍相手に蹂躙し始めたのだ。


 


「……まじか!来たんか!アイツらが!!」


 モスカー連邦のとある洞窟内にある隠し官邸にて、連邦の国家元首であるジャークン委員長は、老齢ながら、狼狽していた。


 ジャークンは強権的な指針のもと、20年以上にわたり己の地位を維持してきたいわゆる独裁者である。


 近年では国の誇りを理由に、起こす必要のない戦争を起こし、オトナリア公国の全てを脅かしている箱根ダンに負けず劣らずの悪人である。


「怖い、怖いよ!……ポッポマン、怖いよっ!」


 しかし、その本性は極度のビビリであった。


 幼少期よりあらゆるモノを極度に恐れていた彼は、この国で一番安全な住居に住める国家元首の座にあこがれ、政治家になった。


 しかし、彼のビビリは国家元首になった後も治らなかった。


 筋肉を付けても、地位を確固たるものにしても、自分の住まいを首都から洞窟に移しても、彼には常に恐怖が付きまとっていた。


 オトナリア公国を侵攻したのも、『オトナリア公国が自分に暗殺者を差し向けるのではないか』という根拠のない被害妄想が原因である。


「大丈夫です……大丈夫。おそらく彼らはオトナリア公国に頼まれて味方をやっているはずです。公国にニュークリア爆弾を打ちましょう」


 委員長の側近が、その場しのぎのことを言って彼をなだめようとする。


「そうだ……!そうだニュークリア!ニュークリア爆弾いっぱい打てば、全部どうにかなる!なるんだ!撃て!撃ってくれ!」


 ジャークン将軍が血迷ったその時、ニュークリア爆弾保管所から緊急連絡が入る。


『こちらモスカー第3保管所!爆弾内のニュークリア物質がなぜか全て無くなっています!これでは撃てません!』

『こちらモスカー第5保管所!第3保管所と同じ状態です!』

『うちも、全部使えなくなりました!』


「な、なにが……なにが、起きているんだ!」


 ポッポマンがオトナリア公国に助太刀する少し前、モスカー公国の複数個所にある爆弾保管所すべてに、ニュークリア物質を無効化する蝶が飛来した。


 蝶はステルスを付与された状態で1日かけてオーリンからモスカーまで渡り、連邦のニュークリア爆弾をすべて使えない状態にしたのだ。


「いったい何なんだ……これも全部ポッポマンの仕業なのか……なあ、なんなんだよ……ポッポマンってなんなんだよ、怖いよ……怖いよぉ!」


 突如起こった謎の超常現象とニュークリア爆弾という後ろ盾を失ったショックが重なり、ジャークン委員長の心にどんどんとヒビが入っていく。


「ああ、あっ、アアッ、あっぁうあああっああっ!ああ!」


 そして、ポッポマンへの恐怖を空気として風船はどんどんと膨らんでいき


「あがああああああああああ!!!!ヴァあアアあああああああっあああ!あがああああっあああっ!アアアアッ!」


 ついに弾けてしまった。


 ガチャっ!


「あああああああっ!来るなぁ!来るなアアアア!!来るなポッポマン!来るなあああ!」


 ドンッ!ドンッ!ドンドン! 


 半狂乱になり、彼にしか見えないポッポマンを撃退すべく、小型銃をもってそこら中で弾丸を放つジャークン委員長68歳。


「あああああっあがっあああがっ!見つけたぞっ!邪悪で非道なポッポマンは、俺の中にいるぅ!!倒さないとオオオオオオオオ!」


 バンッ!


 ジャークン委員長が放った銃弾が、ジャークン委員長に当たった。


「あっがあっ……倒した……俺の中の……ワルモノ……」

 

 そう言い残し、ジャークンは息絶えた。


 


 数時間後、モスカー連邦のオトナリア侵攻戦争は終わった。


 ジャークンの身勝手な戦争に飽き飽きしていた上層部が、早々に撤退を決めたのだ。


 


 この件以降、世界中にわずかながらにいたポッポマンの崇拝者は、目に見えて増え始めた。

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