バケモノVSバケモノ

ヴォサアアアアアアア……

[奥義・弩頼氷ドライアイス……どうだ?]


 ダコンが技名と共に指向性の冷気をポッポマンに向けて放つ。


 しかし、ポッポマンは何一つ効いたそぶりを見せない。


[マイナス100度以上の冷気をぶつけてもビクともしないとは……変わったのは見た目だけじゃないな]


『ああ、そうだよ!俺は生物としてより強くなった、超恒温動物といったところだ!』


『特急行拳!』

 ドゴォ!


 特に何の捻りもなく、ポッポマンがダコンの頭を殴る。


[なんだこの熱い拳は……確実に100度は超えている。生物がなって良い体温ではない……かくなる上は……]


 その1撃で身体の5%が死滅したダコンが、冷静に特急行拳について考察し、全身からトゲトゲを生やし始める。


[箱根ダン、おまえの無敵は不随意運動みたいなものだ。こうすれば、殴られることはないのだろう?]


 ダコンの予想通り、ポッポマンが触れるとダメージを受ける相手を殴った場合、拳が相手に到達するよりも先に無敵判定が行われ、攻撃ができない。


 ポッポマンたちからの防衛策として、これ以上にない作戦である。


 これまでのポッポマンなら。


『ンギッ!盲点!でも問題なんてねぇ!』


 スウウウウウウウ……!


 ポッポマンが周囲の空気を思いっきり吸い始める。


『ヴァアアアアアアアアア!!』


 ダコンに向けて、凄まじい衝撃波が絶叫と共に放たれる。


[吐息まで60度近くあるのかよ……厄介だ]


 ダコンの身体には、先ほどまでではないにしてもダメージが確実に蓄積されていく。


『俺たちの有り余る生命力が、高すぎる体温を実現させた!』


[こうなれば……あの技を出すしかない]


 ポッポマンの発言を無視しつつ、ダコンが左腕の形になっている虫の大群を切り離し、ポッポマンへと投げつける。


[非常奥義……弩頼哀救どらいあいすく理無りむ!]


 ダコンの左腕だった虫たちが一斉に爆ぜ、ポッポマンの周囲の気温をマイナス273度……絶対零度まで一気に下げる。


[これで……おわってくれ]


 ダコンは願った。


 ポッポマンの命は、ここでくたばって欲しいと。




 ダコンはアレスカ政府主導のもと、タマゴ越しの状態で地球や人類に関する授業を受けた。


 時々、政府の役人に連れ出されて色んな観光地に行ったりもした。


 ダコンは、自分たちとは違うルーツを持つ相手にも対しても優しく接してくれた人類を、好きになった。


 のちに、彼らのやさしさが兵器である自分に媚びを売るための言動だと知っても、その気持ちは変わらなかった。


 だからこそ、ダコンはポッポマンは許すことができなかった。


 自分の命や生活を脅かしたわけでもない無関係の人々を殺し、迷惑をかけているバケモノ。


 同じ人ならざるバケモノとして、許せなかった。


 そして今、ダコンはポッポマン以上に、その中にいる異星人が許せなくなっていた。


 暴力での解決という最後の手段にするべきことを全面肯定し、愚かな選択と覇道に協力しようとしている彼が。


 同じ異星から来たバケモノとして、許せなかった。


『ギャアアアアアアアアアアアアアッ!』


[あっ……]


 そんな彼の期待は、ポッポマンの絶叫衝撃波によってかき消されてしまった。


 


[よけたのか……あの攻撃を]


 不意打ちの絶叫でかなり消耗したダコンが、さっきまで後ろにいたポッポマンに問いかける。


 フルフォースとなったポッポマンは体力消耗の激しさと引き換えに、通常時よりも180キロ分速い時速500キロで動けるようになっていた。

 

 これは、リニアモーターカーとおなじ速度であり、ダコンがギリギリ目で追えない速度であった。


 [……悔しいがここまでか]


 ダコンが今まで自分をかわいがってくれた人々の顔を思い浮かべた次の瞬間


 バシュッ!ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ダコンの身体が無数の虫に変わり、一斉に空を目指して全速力で羽ばたき始める。


 ダコンは、この戦いに勝ち目はないと感じ、撤退を選んだ。


『待て待て待て待て待てぇ!』


 ドンッ!


 ポッポマンが勢いよく地面を蹴り、空へと飛びあがる。


 そして


『ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


 思いっきり叫び、すさまじい衝撃波をダコンを形成していた虫たちに浴びせる。


(なんだ……と……)


 分裂したことで熱と圧力への耐性が格段に下がったダコン。


 彼を形成していた、虫が次々と命を終えていく。


(ごめん……大統領、無理だった……帰れない……)


 他の個体より頑丈だった脳をつかさどる虫たちでさえも、熱と衝撃波で次々と散っていく。


(たまご……頼んだ……)


 最後に生き残った個体も、人類に託した小さな卵たちのことを考えながら、息絶えていった。


 


 ダコンは、完全に死んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る