ポッポマン・フルフォース

 火星の平均気温は約-55℃で、最高気温も27℃と全体的に地球よりもかなり寒い。


 そんな火星に生息する生物をベースに作られたダコンは、ポッポマンたちとは逆に高熱への耐性が全くなかった。


 もちろん、持ち前の冷却能力のおかげで地球の真夏日程度の熱ならどうにでもなる。


 しかし、1000度越えの熱を伴う兵器が近くで爆発した後となると、話は別である。




[……これじゃ当分、群体化は解除できないか]


 ダコンの身体は、カツオノエボシのように無数の小型生物が役割分担をしつつ1箇所に集まることで作られている。


 こうすることで、単体では耐えられない1000度程度の熱ですら耐えられるようになるのだ。


[さてと、直接叩くか]


 ダコンは、地上の各所に転がる息絶えた眷属の肉を次々と喰らうサナギめがけて急降下し始めた。


 バシュ!

[なんだ……この糸は?]

 

しかし、彼の身体は空中で粘着性の糸に絡まり、身動きが取れないまま落下していった。


『変身中は攻撃しないのが、人間社会のルールだ』


 糸を放ったのは、海上に墜落した戦闘機の中から出てきたワイヤーであった。


 なお、寒さは自分の糸で縫い上げたもこもこセーターで完全に防いでいる。


 ガシガシガシ……

[そんなもの、食いちぎれば問題ない]


 ダコンは身体の各所を構成する虫が持つ牙を活かして、全身の糸を食べてほどいこうとするが。


『今だあああああああああ!さっさとくたばれぇ!ぽっと出のティンティン野郎!』

 バシュバシュバシュバシュ!


 ワイヤーと同じ服装をしたリキッドが凄まじい勢いで涙を固めた突起物を次々と撃ち放っていく。 


[……以外と慕われているんだな]


 リキッドの突起物で身体を構成する虫が3%ほど死滅していくなか、ダコンはうわごとのようにそう呟き完全に糸を食い尽くした。


[……飛べないまま、息絶えろ]


 再びサナギに近づこうとするダコン。


 しかし、その脚を力尽きたように横たわっていたモブ2が掴み、止めようとする。


「力をくれた恩……いま、返さないと……」


[生きていたのか。紛らわしい……どけ]


 ガッ!


 ダコンの蹴りで空へと浮かび上がるモブ2。


 しかし、その隙を狙って再び糸が彼へと放たれる。


[くっ……あの爆発さえなければ]


 先ほどのオーリン軍による爆発によってダコンの身体は熱をため込んでしまい、それを冷やすためにしばらく分裂が不可能な状態になっている。


[だが、あと数分しのげば勝機が]


『あると……思っているのか?』


 食事を終えたサナギの口が、流ちょうにしゃべり始める。


『思っているんだな!でももう遅い!俺は死んだ眷属どもを喰らい、体力満タンどろこか限界突破!もうオマエみたいな害虫には負けない!』


 バリッ!バリッ!


 サナギが一部破られ、そこから左右の腕が飛び出してくる。


『ヴァアアアアアアアアアアアアア!!』


 衝撃波を伴ったような絶叫が、サナギの口からダコンに向けて放たれる。


[それは、さっきオマエが食べていた眷属の能力……]


『そうだよ!捕食して継承したのさ!イェエエエエエエエエイ!!』


 再び、衝撃波がダコンの身体を襲う。


 バリッバリバリッ!バリバリッ!


 そして、ついにその衝撃でサナギは完全に壊れ、中から今まで見たことのない形態に変化したポッポマンが現れた。


 新しい彼は、肌色が少し明るくなっている上に全身に血管のような線が走り、頭部には冠のようなパーツを追加で装着している。


『いくよダン君……まずはそこの、邪魔な羽虫からぶっ壊そう』


 これまでは目を閉じていた胸の顔が目を見開き、喋り出す。


『分かっているよ、ポガステア。13体の眷属を食べ、持てる力全てが出せる今ならば……ヤツを確実に葬ることができる!』


[あー……結局変身してしまったか。名前を教えてくれ]




『……俺の名は……いや、俺たちの名はポッポマン・フルフォースだ!』


 ポッポマンの逆襲が、始まろうとしていた。

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