変身

「……やあ、久しぶりだね。いや、この前も会ったから、この言葉はふさわしくないかな。


 正午前、国立研究所の入口で、箱根ダンは丸山リンと視線を合わせる。


「にしても……自分から出てきてくれてありがたいよ。おかげで、無駄な犠牲を出さずに済んだ。さあ、僕の彼女になってくれ。拒否は許さないからね」


 少し甘っぽさも感じる声で、箱根ダンが歪な告白をする。


 この状況が出来上がったのは、理由がある。




■□■□■□■




「どうすれば……私も変身できるのかな」


 真っ二つになった公園を模した精神世界の中で、私はポガステアに問いかける。


 外は今、警報が鳴り響いている。


 私を含めた施設にいた人々は、すでに私の能力によって3つある裏世界のうちの1つ『X界』へと非難させている。


 それでも、きっとまた犠牲者がまた出てしまうのだろう。


 ポッポマンの八つ当たりで、この辺は再起不能になってしまうかもしれない。


 そうなる前に止める力があったなら。


 そう思っていたら、私は精神世界に来ていた。


 


『ポッポマンが負の感情で強さを増しているように、キミは正の感情で力を強くすることができる。そこから先は、キミ次第かな』


「アドバイス曖昧すぎない?」


『……丸山リン。キミは小さい頃、何になりたいと思っていたのかな?』


「……漫画家だね。今でも少しだけ、憧れているけど」


 私は漫画を読むのも、書くのも大好きだ。


 現実では味わえないような興奮とか、激情とか、そういったものが冊子にギュギュっと詰め込まれている。


 紛れもなく、私の好きなものだ。


『その憧れの気持ちを、もっと広げるんだ。今の自分では届かないことを成し遂げるために、こんな自分になりたい。変わることを、強くつよく願うんだ』


「私の……なりたい自分」


 その時、私の脳内にポッポマンを圧倒する変身後の自分の姿が明確に見えた。


 姿だけでなく、変身シークエンスや名前までもが明確に見えてきた。


 私は、変身できる。


 確実に、確信した。


「ありがとう、ポガステア。私、行ってくる」


『気を付けてね、丸山リン……ダンを、頼んだ』


 そして、私の意識はX界に戻った。




■□■□■□■




「……ごめんね。私はキミの告白は、やっぱり受け取れない。それでも、キミの愚行はここで、止めさせてもらうよ」


 リンが車掌のように、右手でダンを指さす。


 あたり一面に、重苦しい空気が漂う。


 リンはそのまま、左手を握りしめ、マイクを握った車掌のように口元にまで持っていき


「変身!」


 変身ポーズを決めた。


 ヴォン!


 次の瞬間、リンの身体はこの世界から消えた。


 裏世界の1つであるY界の中で、リンはサナギになり、ポッポマンと対をなすバケモノへと変わっていく。


 ヴォン!


 そして、変身が終わった状態で、もとの世界へと帰っていく。


「リン……キミも、変身できるようになってしまったんだね……」


 そこにいたのは、ポッポマンに似たバケモノであった。


 機関車を模したようなデザイン、胸にある半分が内部むき出しになっている顔、図体。


 しかし、ポッポマンと違う点も多かった。


 頭部の顔は覆面レスラーのような仮面で覆われており、胸の顔のむき出しの部分は逆になっており、どちらの顔も穏やかな笑顔を浮かべていた。


 総じて、正義のポッポマンとでもいうべき風貌であった。


「……変身」


 続いて、ダンも悲しみと焦りが入り混じった声で変身を宣言し、実行した。




『……俺の名はポッポマン!圧倒的な無敵の力で、理想の人生を叶える人ならざるバケモノだ!』


『私の名前はシュポガール!常識を超えたこの力で、みんなを助けてキミを止める存在になってみせる!』


 同じ存在から力を貰った2体のバケモノが、名乗りを上げ、ぶつかり合おうとしていた。

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