最高峰の人工知能、出撃

 現在の瑞穂国において、もっとも厳重な警備を受けている人物は風見総理ではない。


 ボーンロイドのフレーム部分を開発した四木村漆しきむらななと、ボーンロイドを動かすことができる高性能なAIを開発した四木村啓助しきむらけいすけである。


 2人は首都近郊にあるタカセ区で幼少期に知り合い、大学卒業後に結婚したいわゆる幼馴染夫婦である。


 彼らが作ったボーンロイドは、少子化に苦しむ瑞穂国を見事に救い出した。


 AIで動かしても良し、遠隔操作で動かしても良し。


 製造費も1台10万円程度とリーズナブル。


 まさしく、夢の機械であった。


 彼らのおかげで、瑞穂国は長年続いた不況をようやく抜け出そうとしている。


 彼らは、総理よりも厳重に守られて当然なほどに瑞穂という国に貢献しているのだ。


 


『緊急事態発生!オーリンの戦闘機2機がチクバ特別区へと向かっています!念のため、職員は全員シェルターへ避難してください!』


 3月15日10時半、国立研究所に合成音声によるアナウンスが鳴り響く。


『ついに来やがったか……!』


 四木村啓助が、国立研究所のガレージにあるボーンロイド越しに焦燥を感じる声を発する。


『……こうなったら、ベストを尽くすしかないね。みんな、準備はいいかな?』


 旦那と同じボーンロイドを通じて、四木村漆がガレージ内にいる異形のボーンロイド2機とそれを操作する2体のAIに呼びかける。


『OKです。我らに仇なす怪物を、新兵器と私の頭脳で討ち取って魅せます』

『わかりました!全力で抵抗いたします!』


 2体のAIの名はヘイアンとタイラ。


 2体は四木村啓助が最初に創り上げたAIで、今現在この国のボーンロイドを動かしているAIの始祖にあたる存在である。


 度重なるバージョンアップとサーバー拡張によって、現在の2体は異能に等しい予測能力を兼ね備えている。


 その聡明さゆえ、近年では国の政策や方針を決める際にも協力している。

 

 なお、2体の本体も四木村夫妻の身元と同様にチクバ特区ではないどこかに隠されている。


『ヤエザクラ、出撃します』

『サフラン、出撃します!』


 ヘイアンの操作によってヤエザクラが、タイラの手によってサフランがガレージの外へと飛び出していく。




■□■□■□■




「全ク、なんでよりにもよってターゲッドどもはチクバ特別区にいるんだヨ……厄介なマネしやがっテ」


 Bグループが乗っている戦闘機の中で、モブ29ことジンドーが愚痴る。


「なんで、チクバ特別区は厄介なんでしょうか」


 サイコこと松田セイサクが彼の発言の理由を探る。


「あそこにはナ、瑞穂のなかでも特に警備システムが強いとされている場所なんダ。ボーンロイドもそれを操作するAIも桁違いだとされていル」


「まっさかぁ~『チクバ特別区には四木村夫妻が作り上げた最強のAIとボーンロイドが配備されている』なんて陰謀論、瑞穂人は誰も信じてないですよ」


 サイコがジンドーの懸念を否定した時、スラッシュこと鎌倉ゴウタが目を見開き、他2人に危機を知らせる。


「おい!なんか遠くから2発飛んでくるぞ!回避しろ!」

 

 そう言った次の瞬間


 ドゴオオオオオオオオン!


 1つのミサイルがBグループが乗っていた戦闘機を思いっきり貫き、ついでに爆発した。


 戦闘機は残骸となり墜落し、乗っていた3人は反射的に変身を開始したことでサナギのまま海へと落下していった。


 ズサアアアアアア!


 少し遅れ、もうひとつの轟音も鳴り響いた。 


 Aグループの戦闘機は、Bと違ってAIによる緊急回避が作動したおかげで翼の一部が削れる程度で済んだ。


『当機、右翼部分が破損しました。予定を変更し、浜辺に不時着いたします』


 しかし、国立研究所まで飛行できないと判断した機内AIによって、国立研究所まで飛び続けるという当初の案は遂行できなくなった。


「……んぎぎ、思い通りにならない……ムカつく!誰なんだよ!あんな狙い撃ちなミサイル放ったの!」


 ダンは少し傾きつつある機内で、歯ぎしりと共に怒りをあらわにした。

 

 ミサイルは、人類最高峰のAIであるタイラの専用機『サフラン』から放たれたものであった。

 



 数分後、機体はチクバ特別区付近の浜辺に予定通り不時着した。


 瑞穂の地を再び降り立ったポッポマンを待っていたのは、人類最高峰のAIが操るボーンロイド軍団による手荒い歓迎であった。

 

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