ナチュラルボーン・バケモノVS後天性のバケモノ3人組

『ポッポマン……あなたはなぜ、壊すのですか?殺すのですか?』


 4本の脚と4本の腕を持つ異形のボーンロイド『ヤエザクラ』を通じ、人類最高峰のスペックを持つAI『ヘイアン』が上陸したてのポッポマンに話しかける。


 なお、ヘイアンはヤエザクラ以外にも、その周囲でポッポマンたちを取り囲んでいる強化量産型ボーンロイド約40体も同時に操作している。


『……弱者は夢を見たり夢に向かって動いちゃ、いけねえのかよぉ!』


 ドゴッ!


 ブチギレながらヤエザクラへと放たれたポッポマンの拳は、むなしく地面へと突き刺さる。

 

『なんで!なんで当たらないんだ!』


 ドゴッ!ドンッ!ドッ!


『卒業式襲撃事件、大板での乱入、厚山市再上陸……そこで倒されていったボーンロイドたちのデータが、私に力をくれるのです』


『ようするに……過去の事例から僕たちの動きを予測して回避しているってことなんだね!』


 ズトトトト……


 リキッドがヘイアンの発言の意をくみつつ、涙を固めた弾丸で強化量産型ボーンロイドを攻撃する。


『おっと、彼らも私の身体なのですよ。そして、あなたの攻撃も私のデータの中にあります』


 しかし、ボーンロイドたちはすさまじい身のこなしで弾丸を避けていく。


 ヒュッ……!ヒュッ……!ヒュッ……


『なんという予測……バケモノである我ら以上にバケモノではないか』


 ワイヤーが拘束用に放つ糸を無駄にしていくなか、悪態を吐く


『まあ、そうですね。アナタたちは生まれた時点ではまだ一般的な人類でしたが、私は生まれた時から人ならざる存在なんですよ……』


 そう言った次の瞬間、全ボーンロイドが今までポッポマンたちが見たことのない形状の銃を取り出し、一斉に乱射する。


 ズドドドドドドッドドッドドドッドドッド!


 通常のガトリングよりも数倍の量の弾がひっきりなしにポッポマンに当たる。


『……おいおい、なんだこの弾は。この局面でネタ武器かよ。俺をナメているのか……!』

 

 地面に落ちた銃の弾は、オモチャの銃の弾として使われるビービービー玉と呼ばれる重さも大きさもない球体であった。


 おそらく、人間相手でもそこまで効果がでないであろう新兵器を顔色一つ変えずに放つボーンロイドたち。


『グッ……なんだこの作戦は……時間稼ぎか?ってか避けるな!立ち止まってスクラップになれよ!』


 いつも通り彼らをスクラップにしようと3人が攻撃するも、ボーンロイドたちは攻撃を続けつつ当たる気配すらない。


『2人とも!こうなれば、彼らは無視して目的地まで行くのみです!』


 テレパシーを通じたワイヤーの提案にポッポマンはただうなずき、3人は西へ西へと移動し始める。


 国立研究所の中にある108メートルの観測用鉄塔を目印に市街地を走り抜けるポッポマンたち。


 しかし、ボーンロイド軍団は的確な起動で先回りや挟み撃ちを駆使し、何度も何度も彼らの行く手を阻む。


 それでもポッポマンは鉄塔目指しひたすらに駆け抜けていった。


 だが、研究所まで残り20キロにまで迫ったとき、リキッドの身体に異変が起き始めた。




『……えっ、ウソでしょ』


 逃走中、リキッドが今まで変身中に感じたことのない違和感に気付く。


『ハア、ハア……なんで、何かが強く当たった感覚が……僕たちは無敵のはずなのに……』


 ポッポマンとその眷属が持つ無敵の力は、一般的な回避行動と同様に1回行うごとに体力を少しずつ消耗する。


 そして、一般的な回避行動と同様に、体力を消耗しすぎるとその回避は鈍くなってくるのだ。


『まさか、ビービービー弾を使った新兵器のせいで無敵の力を無駄に使ってしまったから……!』


 無敵の力は、本人の意思に関わらず、あらゆる攻撃に対しオートで発動する。


 たとえ、それが仮に当たってもかすり傷程度のものであっても。


 先ほどの銃は、ポッポマン達を倒すべくヘイアンたちが導き出したポッポマン特攻武器だったのだ。


『ついに、当たるようになったのですね……悔い、改めますか?』


 横の通路から、ヤエザクラが現れたのち、そのスピーカーを使ってヘイアンが降伏を促す。


『……するわけないでしょ。まだ、僕の夢はかなっていないんだから。』






 リキッドこと海老名テンスケは、人生と夢の実現に対し、諦めを抱いていた。

 

 学校の友達にや先生に見下されてイジめられ、やっとできた初めての恋人は同級生に寝取られ、親にも粗末に扱われていた。


 彼の夢は『誰かに心の底から愛してもらうこと』であった。


 しかし、多くの人々と心や身体の関係を持っても、夢が叶うことはなかった。


 この世は弱肉強食なのかと絶望し、諦めのなかで生きていたある日、彼はテレビ越しにポッポマンを目撃し、その暴力性に救いを見出した。


 誰かを魅了する容姿も、言葉も、実績も、資産もないのなら、もはや暴力で愛をつかむのみ。


 ポッポマンの仲間になること夢見た翌日、ポッポマンが彼が住む福奥市にケムリをばらまいた。


『力が……欲しいか?』


「はい!欲しいです」


 夢の中でポッポマンに似た人影を見たテンスケは二つ返事で力を受け取り、ポッポマンの眷属になったのであった。



 ガチャ……


『人々を苦しめる夢や理想など、悪夢以下です……消えてください』


 ヤエザクラが4本の腕に格納していたブレードを展開し、リキッドにおそいかかる。


 ビシャビシャビシャッ!ビシャビシャッ!ザシシュッ!


『うっ……痛い……助けて……』


 リキッドは涙を材料にゼリー状の鎧を身体にまとって防ごうとするも、あまりの猛攻に鎧が切れ、ついで素肌も切れ始める。


 リキッドは、バケモノになってから初めて、命の危機を感じた。


『た、た、助けてえええええええええ!死にたくないイイイイ!怖いよオオオオ!』

 

 ビシャッ!ザシュzツ!

 

 リキッドは、全力の大声で助けを求めるが、ヤエザクラは動きを止めない。


『原形が残らないくらい潰した両親、ずっと大嫌いで殺してから食った弟、お腹がすいて食べてしまったおじさん、ごめんなさい!ごめんなさい!』


 恐怖のあまり、今まで自分が殺した人々への懺悔を述べ始めるが、ヤエザクラの動きに代わりはない。


『……さらばです、後天性のバケモノよ』


 ヤエザクラがとどめを刺そうとしたその時であった。


『ポッポ・コネクション!』


 リキッドの叫びを聞いて全速力で駆け付けたポッポマンが、リキッドの身体を胸の口の中に入れた。


 まだAIたちが見たことのない増結合ポッポ・コネクションが、始まろうとしていた。

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