丸山リン・イン・ザ・国立研究所

「ポッポマン様、お会いできて大変光栄でございます!」


 拘置所の中で、元国家公務員の綾瀬ノリオが20にも満たぬ少年にひざまずいた。




 3月13日、ポッポマンとの接触を求めて『ポッポマン大好き倶楽部クラブ』と名乗る団体が瑞穂からオーリンへとやってきた。


 10人にも満たない少人数で構成された団体ではあるが、自国の人間であることや自ら接触しようとした積極性がダンの興味を惹きつけた。


 ダンは彼らと会うべく、倶楽部のメンバー捕らえられている港街へと向かい、拘置所にて謁見が実現した。


「どうして、俺と接触しようと思ったんだ。誰か殺してほしい相手でもいるのか?」


「いえ、あなた様にとても有益な情報を伝えるべく、この地へ赴きました。あなた様の想い人がいる場所を、我々は突き止めました!」


「……俺に関する情報、すでにそこまで知られていたのか」


「いえ、あなたの素性まではま大々的には報道されておりません。しかし、私は前職が国家公務員ですので、友人からのつてで、情報を入手したのですよ」


「……そうか」


 ダンは目を一瞬閉じ、それからガッと見開く。


「教えろ……!丸山リンの居場所!今すぐに……!」


「わ、わかりました!教えます!対価無しで教えますので!」


 ダンが放つ狂気的な雰囲気に恐怖したノリオは、この後の交渉プランを全部放棄し、いきなり教えることを約束する。


「国立研究所!チクバ特区にある国立研究所の中に丸山リンがいます!」


「国立研究所だと……!何か非道な実験でもされているのか?!」


「いえ、なんか特別な力があるみたいで、その解析を行っているみたいです!」


「そうか……情報ありがとう。お礼に俺の眷属にでもなるか?」


「……え?いいんですか!私も、私の仲間も、あなた様の眷属になりたかった人ばかりなんですよ!お願いします!」


「そうか……じゃ、今回もちょくでいくか。手、差し出して」


 ノリオが差し出した手を、ポッポマンが両手で握る。


 こうして、ポッポマンの眷属が、また増えようとしていた。




■□■□■□■




「まさか……リンちゃんがポッポマンと同じ力を秘めていて、しかも無意識のうちに眷属まで作っていたなんてね……」


 一方そのころ、瑞穂国の国立研究所にあるカフェテリアにて、丸山リンと鎌倉ネリが向かい合って雑談と食事を行っていた。


 3月4日に警察に身柄を確保された後、リンはチクバ特区にある国立研究所へと運び込まれ、取り調べと異能力の調査を行っていた。


 その過程で、リンが精神世界のポガステアから教えてもらったことを喋ることで、ポッポマンに関する詳細がだんだんと把握されていった。


 ポッポマン以外のバケモノは彼の『眷属』で、肉体の主導権をポッポマンに握られることもあることも。


 ポッポマンは、眷属になることに同意している対象に煙を吸わせるか、両手で相手の手を握ることで眷属を作っていることも。


 ポッポマンのパワーソースが『ポガステア』という謎の存在から渡された力であることも。


 全部、ぜんぶ人類に把握されることとなった。


 そして、調査の過程でリンも意図せずに眷属を1人だけ作っていたことが判明。


 眷属になっていた人間も、国立研究所に運ばれることになった。




「ネリちゃん……勝手に眷属にしちゃって、ごめんね」


「大丈夫。そんなに気にしていないし、この力のおかげで死なずに済んだわけだし……ありがとね、リンちゃん」


 リンがネリの手を両手で握ったあの日、本来ならネリの命は尽きるはずだった。


 しかし、『ネリを死なせたくない』という純粋な祈りによって意図せず眷属化の能力が発動。


 眷属になることによって生命力が増加したネリの容態はそのまま回復し、今では卒業式に追った傷も完治していた。


 なお、主であるリンがまだ変身できないため、ネリも変身することはできない。




「それに……こんなバトル漫画みたいなカッコいい能力も貰えたんだし、結果オーライすぎるよ」


 バチバチッ!


 ネリの手元を中心に、超小規模な電流が一瞬だけ走る。


 ネリもまた、能力に目覚めつつあった。

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