サイ王族、惨たらしく散る
『ンギイイイイイイイイイイイイン!』
「ギャアアアアアア!ジョルプ!ジョルプガ!(助けて!助けてぇ!)」
グシャア!
その日、西オーリンを支配するサイ王族が住む王宮が、血と叫び声に満ち溢れることになった。
西オーリンは、半世紀ほど前に活動家サイ・ヤッカが『理想の国家』を目標に建国した国家である。
『格差のないすばらしい国』が当初の目的であったが、その実態はサイ・ヤッカとその一族を中心にした前時代的な封建制国家であった。
サイ・ヤッカの死後、公正な選挙(自称)が行われ、結果として彼の息子であるサイ・ナンカが二代目の国家元首になった。
しかし、ナンカは数年後に病死(西オーリンいわく)し、彼の弟であるサイ・ナンギが3代目の国家元首に就任。
そして、10年前からはナンギの子であるサイ・カコンが4代目の国家元首の座についているのである。
そんな彼らの傲慢じみた栄華は、むごたらしく終わろうとしていた。
「オカア!オカア!(お母さん!お母さん!)」
先ほどポッポマンが潰した女性の遺体に、少しふくよかな子供が歩み寄る。
彼の名はサイ・カレツ。
現国家元首であるサイ・カコンの息子で次期国家元首の最有力候補である。
『邪悪な血筋は!ここで潰れろ!』
ガッ!
カレツの身体と命が、がポッポマンの左手に握られる。
ポッポマンは変身時に自らのサイズを1.8mから3.6メートルの範囲内なら自由に選べるのだが、今の彼は最大サイズであった。
子供の命など、手のひらの上といったところか。
『カイホ、キホウシュ!(その手を放せ!)』
ドドドドドドドドドドドドッ!
王宮の護衛兵がポッポマンに向かって機関銃をぶっ放すがポッポマンは意に介さない。
グシュッ!
命は握りしめられ、潰れていった。
『ヴァアアアアアアアアアアアア、カレツザマ!ギョウガモ!(カレツ様!私も行きます!)』
護衛兵は悲しみのあまり、無駄だとわかっていながらポッポマンに体当たりをしかける。
『邪魔だっ!』
ドゴッ!ドンッ!ボゴッ!
「あぐうっ!」「ギャア!」「ぐえっ!」
護衛兵の身体はボールのごとく次々と遠くで怯える王族に投げつけられていく。
『ヴェア、ダ、サイカコン……?(サイカコンはどこだ……?)』
まだ無傷だった壮年の王族を掴み、尋問のために昨日覚えたばかりのオーリン語で問いかける。
ポッポマンはより効率的に楽しく西オーリンを蹂躙するために、この数日間は眷属を作る合間にオーリン語の会話文をいくつか覚えていたのだ。
「ああっ……あっ……シニタクナイ……」
その王族は教養があったためか、ポッポマンの母国語が瑞穂語であることを察し、瑞穂語で彼に命乞いをする。
『じゃあ、教えろ。教えなければ……サツキホウ(オマエを殺す)』
ダンがオーリン語まじりで脅迫を行う。
「地下、地下3階!地下3階!案内スル!シニタクナイ!」
ダンは王族を掴みつつ、彼の案内に従って下へと行く。
王宮の地下三階は、巨大な地下空間であった。
そして、そこには半年後に控えたサイ・カコン生誕40周年に備えて作られた新型巨大ロボット兵器『
『ヴェア、ダ、サイカコン……?』
再びポッポマンにカコンの居場所を聞かれた王族は、静かに黄燐覇王を指さす。
『……他国から脅し取った支援金で、こんな子供じみたもの作るとか……愚かだな!サイ王族!サイ・カコン!』
黄燐覇王は全長が6メートルほどあるずんぐりむっくりした特撮ロボのような外見をしていた。
その中には、紛れもない本物であるサイ・カコンがパイロットとして乗り込んでおり、その様子は外からでもわずかに見えていた。
『ダァ、セーギ!(正義の鉄槌を下す!)』
ポッポマンがオーリン語で挑発を行うと、黄燐覇王が肩から小型ミサイルを飛ばしてくる。
ポッポマンはそれを、ここまで道案内してくれた王族を投げることで相殺した。
『……オマエモ、同ジ穴ノ、ムジナダロ?』
カコンも、コックピットの中から瑞穂のことわざを引用してポッポマンに挑発を行う。
なお、同じ穴のムジナとは『一見違うように見えて実は同類であること』という意味を持っている。
なぜ彼がそんな言葉を吐いたのかは、わからない。
なぜなら
『急行拳!』
ガッシャアアアアアアアアン!
次の瞬間、カコンは黄燐覇王ごと殴り倒されて永遠の眠りについてしまったからである。
残念ながら、黄燐覇王に使われている金属はマテリウムのような特別硬いものではなく、国内にて劣悪な環境のもと作った一般的な合金であった。
そのため、ポッポマンのパンチ1つでみごとに大破してしまったのだ。
ガシャッ!
『死ね!死ねぇ!死ねぇえ!みんなに迷惑をかけた極悪人め!オマエなんかいなきゃよかったんだぁ!』
ポッポマンが自分にも当てはまりそうな罵倒をしながら、カコンの遺体をミンチにしていく。
だが、その直後に轟音が鳴り響いたことで、ポッポマンは死体蹴りをやめることになる
『ドゴオオオオオオオン!!!!』
『なんだ……この音は?』
その音は、首都キャクサに人類最悪の兵器であるニュークリア爆弾が落ちた音であった。
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