西オーリン蹂躙編

100体の眷属

「箱根サン、どうか、わが国の軍人たち100名をあなたの眷属にしてください」


 3月5日早朝、東オーリンの港町にある高級ホテル内にて、ヒンヘン首相はダンに頭を下げ、ひざまずくように懇願した。


「ああ、いいぞ」


 高級なイスに座るダンは、一国の首相相手とは思えないようなフランクな態度で彼の懇願を受け入れる。


 ガッ


「ただし、二つだけ条件がある」


 ダンはイスから立ち、ヒンヘンをわざと見下しながら条件を提示し始める。


「1つは、眷属にする軍人はなるべく負の感情が強い人間にすること。どうやら、負の感情が強い人間ほど強い眷属になれるようでね。頼むよ」


「二つ目はいったい……なんデスか?」


 ヒンヘンが会話を進めようとすると、ダンはしゃがんでヒンヘンと目を合わせる。


「首相、あなたも僕の眷属になってください」


「……無敵の力、欲しかったんデス。喜んで眷属になります」


「んじゃ、早速失礼」


 ダンがヒンヘンの手を両手で握り、自らに宿るポッポ細胞を株分けして彼へと渡していく。


「さあて、これでもうあなたは僕の眷属だ。変身してくれ」


 ダンが手をかざすと、ヒンヘンの身体は本人の意にそぐわず立ち上がり、サナギへと変化し、バケモノの姿へと変化していく。


 ヒンヘンが変身したバケモノは、両腕がワニの口のようになっていった。

 

 そして、その中にあった舌はムチのような材質であった。


「か、身体が勝手に……なんでデス?」


「首相、あなたはもう僕の眷属です。あなたの身体は、私の身体の一部なんです……交渉を続けようか」


 ヒンヘンの変身が解かれたあとは、何事もなかったかのように交渉が進んでいった。




 それから2日が経った。


 その間に、ポッポマンを襲う国はなかった。


 正体不明のバケモノが大人しく1つの国に滞在している今、攻撃するのは自国にとってリスキーだと判断した国が大半であった。


 できれば一生東オーリンで大人しくしてほしい。


 あらゆる国の人々がそう願った。


 しかし、彼らは動こうとしていた。


「さてと……これで100体目かな」


 あの話し合いの後から、ダンは高級ホテルの中でずっと眷属を作り続けていた。


 東オーリン中の軍事基地から精神面に闇があると判断された老若男女たちが、10分に一回ペースで連れ込まれてきた。


 そのたびにダンは許可を取った上で彼らを眷属にしていった。


 なお、許可を取っているのは優しさなどではなく、相手が眷属になることを受けいれていないと眷属化が発動しないからである。


『これで100体目でございます』


 彼の近くにいた通訳用AIが搭載された東オーリンの人型ロボット『骨格人機こっかくじんき』が瑞穂語で応える。 


「んで、次はどうすればいいんだ?」


 ダンの質問は、骨格人機のオーリン語通訳を通じて、ヒンヘン首相に届いた。


 ヒンヘン首相も、骨格人機の通訳を介することでダンに回答した。

 

『今夜20時くらいまでに作戦を練り上げ、西オーリンに奇襲をしかけます。まだ西オーリンが攻撃をためらっているうちに潰します』




 西オーリンの最期が、徐々に迫りつつあった。

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