バケモノの手も借りたい
『こんにちは。私は東オーリン国の首相、オウ・ヒンヘンといいマス。箱根サン、ワタシはアナタの力を借りたいデス』
ヘリコプターから降りてきたボーンロイドとは別製品の人型ロボット越しに、東オーリン国の首相であるオウ・ヒンヘンが語りかける。
オーリン国の公用語はオーリン語であるが、ヒンヘンは博学であったためカタコトながら瑞穂国の公用語である瑞穂語も話せるのだ。
『具体的に……俺にどんなことをさせたいんだ?』
『単刀直入に言います。西オーリンを、滅ぼしてくだサイ』
ヒンヘンが東オーリン存続のために立てた計画。
それは、ポッポマンの力を借りることで西オーリンを滅ぼすことであった。
あらゆる攻撃を無効化する無敵の力をもった眷属を作れるだけでも、ポッポマンの軍事的価値は高い。
その上、一部眷属には特殊な器官や能力が付随するとなれば、もはやその価値はとどまることを知らない。
もしも彼と協力関係になれば、地理的不利を覆して西オーリンを滅ぼせる。
ヒンヘンはそう結論付けたのだ。
もしも、西オーリンを滅ぼして領土を併合できたなら、東オーリンは持ち直すだろう。
西オーリンが持っていた手つかずの資源は外貨をもたらし、人口も西オーリンにいた人々の分で1.5倍に増える。
何より、隣国が攻めてくるリスクがなくなるため、今よりも軍事費を削減できるし徴兵制も廃止できるのだ。
『東オーリンの首相、ひとつだけ質問してもいいか』
『いいですヨ。どんなことでもかまいまセン』
『なあ、あんたはこの世界には暴力でしか解決できない問題が確かにあると思うか?……俺は、あると思ってる』
この世界には暴力でしか解決しない問題がある。
これはポッポマンというバケモノを形作る重要な思想であった。
『俺は人間だったころ、頭も弱かったし身体も小さくて弱かったし、外見も子供じみていた。自分の願望を叶えられるような身体ではなかった』
ポッポマンは箱根ダンに戻り、人型ロボットのカメラに変身前の自分を見せつける。
『実力のある者しか楽しめない資本主義社会において、僕は自分の人生が苦痛で苦痛でたまらなかったんだ……!』
そう言うと、ダンはカメラの前で再びポッポマンに戻る。
『でも、今はすっごく楽しいんだ!だって、あらゆる存在を圧倒できる力のおかげで、嫌いなヤツを壊せるし、願いだって叶うかもしれないんだからぁ!』
『もしよければ、貴方の願いを教えてくだサイ。私たちが全力で成就をお手伝いしますノデ』
『ああ!いいよ!初恋の人と共に、ストレスのない街で理想の人生を歩むこと!』
『なるホド……』
ヒンヘンは内心思った。
よかった、彼の精神性はまだ人間の範疇から出ていないんだと。
『さっきの質問の答えですが……ワタシもあなたと同じ意見デス。ワタシも、暴力は願いをかなえるために仕方のないことだと、思っていマス』
オウ・ヒンヘンの前職は、外交官であった。
西オーリンをはじめとした各国の人々を何度も話し合ってきた。
瑞穂語が喋れるのも、これが理由である。
外交官になった当初は『西オーリンとの問題は話し合いで解決できる』とヒンヘンは思っていた。
しかし、西オーリンとの話し合いを進めていけばいくほど、西オーリンとの平和的和解は無理だと彼は感じるようになった。
そして、いつしか西オーリンを滅ぼせる方法を無意識のうちに探し始めるようになった。
そして、その足掛かりとして前首相の不正を暴いて失脚させたあと、選挙で勝利することで国家元首の地位を手に入れていたのだ。
オウ・ヒンヘンは、この世界と人類に絶望していた。
『そうか……よしっ!同じ考えを持つ者どうし、一緒に気に入らない国を滅ぼそう!』
ヒンヘンの本音を聞いて大満足したポッポマンは即座に彼の提案を了承した。
『では、我々のヘリコプターにお乗りくだサイ。何人でもいいデス』
「わかった!みんないるね!じゃあ早速乗ろう!」
いつの間にか、サイコやディスコ、モブ2体も県病院の敷地内に着いていたのを確認したポッポマンは、みんなに搭乗を促した。
こうして、ポッポマン一味は海外進出を果たすことになったのであった。
(いやー、ラッキーだな!まさか自分から国際問題に絡む手間が省けるとは)
どんどんと高度上昇していくヘリの中で、ポッポマンは己の幸運を内心で喜んでいた。
(これで西オーリンを滅ぼせば、東オーリンとその国民たちを味方につけることができる。そうすれば、瑞穂の連中も簡単に手を出せなくなるだろう)
彼が国際問題に絡もうと思っていた理由。
それは、自分の命を狙う者を減らすためでった。
国やそこに住む住人が自分たちの味方や後ろ盾になれば、絶対悪として割り切ることができなくなり、敵対者も躊躇せざるおえない。
更に、国が持っている既存のインフラが手に入れば、人肉以外の食材も安定して手に入ることになる。
自分や眷属の生活の質も特段に上がるだろう。
とにかく、ポッポマンは幸運であった。
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