バケモノの足止め
『やあやあ、そこのアナタ!バナナいりませんか?』
『……なんだオマエは』
県病院へと一目散に向かうポッポマンを、一般ボーンロイドが呼び止める。
ボーンロイドのそばには、バナナがいくつか置かれていた机があった。
『まあ、最近はヒトカスの肉しか食べていなかったから助かるな』
ポッポマンになったことで、ダンの身体は餓死とは無縁の体質になっていた。
しかし、たくさん動けば疲れることや食事や睡眠をとらないと疲れが取れないことは依然そのままであった。
ポッポマンは所業に反して、まだまだ人間としての側面が残っているのだ。
『いただきます!』
ムッシャア!
ポッポマンは毒のリスクとか罠のリスクとか全く考えずに机にあったバナナをすべて平らげた。
『在庫もまだまだありますよ!』
ボーンロイドが段ボール箱から更にバナナを取り出してくる。
『そっちは仲間用に貰っとくわ』
ガポガポガポォ……
今度は飲み込んだものをそのままの状態で保持する性質がある胸の顔についている口の方にバナナを入れるポッポマン。
『今ならイチゴが美味しいですよ!』
更にイチゴを箱ごと差し出すボーンロイドに対し、ポッポマンは何も言わずに半分食べて、もう半分は胸の口に入れた。
『ミックスジュースもありますよ!』
『まじで!俺ミックスジュース好きなんだよ!』
2リットルのペットボトルに入れらたジュースは、ポッポマンによってあっという間に飲み干される。
『ああ……久しぶりの甘い食事……最高!』
ポッポマンは知らなかった。
これが、県病院にいる人々の避難の時間を確保するための作戦であることを。
ボーンロイド隊員でカウンセラーでもある雲鳥ナホは、ここ数日のポッポマン達の動向を分析した。
その結果、その場しのぎで力を使っており、策略を練ることがあまりないことを突き止めた。
そして、思ったよりも人間性が残存していることにも気づき、前述のようなギャグじみた足止めを提案するに至ったのであった。
なお、店員役のボーンロイドを動かしているのは接客用のAIである
そして、他のメンバーもこの策略に引っかかりつつあった。
『なんだい?この音楽は?』
スラッシュのもとに、スピーカーを搭載したドローンがEDMを流しながら向かってくる。
スラッシュは眷属になる前は音をかなり頼りにして生活していたため、人一倍音には敏感だったのだ。
『なんだか……もう少し聞きたくなってきたな……』
スラッシュは周囲に伏兵がいないことを確認してから、音楽を聴き始めた。
一方、他7体のバケモノはダンの指示に従い、県病院を目指しつつあった。
そのうちの1体であるモブ3の前に、灰原オサムが操作する彼専用のボーンロイド『ハイビスカス』が立ちはだかった。
『ぐぬぬ……なんか強そうなボーンロイドいるぅ……』
ハイビスカスは、鈴鹿ハナの専用機であるベルフラワー同様、マテリウムで構築されている。
全身を炭素繊維によるフードで覆うことで、機動性の高さと耐久力を両立している脅威的な機体である。
中の人である灰原オサムはボーンロイド隊最強のパイロットと呼ばれるだけの実力を持っていることもあり、ハイビスカスは最強の機体と言っても過言ではない。
『……みんな、集中砲火して』
オサムが配下のボーンロイドたちに指示を出し、モブ3に大量のマシンガンを浴びせる。
『ぐっ、やばぁい……にげろっ!』
モブ3は薄井情雅等の散っていった不完全な眷属6体のことを思いだし、全力で逃げ始めた。
しかし、その最中にも集中砲火を浴びて体力を消耗することになった。
攻撃が当たり始めるようになったころ、逃げ遅れた還暦前後の男性を見つけ、左手で鷲掴みにしてハイビスカスに見せつけた。
『これを見ろぉ!俺への攻撃をやめなかったら、コイツを頭から食ってやる!武器を下せぇ!』
「ああ、あっあああ……あがっ!痛い痛い痛い痛い!」
人質は強く握られたせいで何カ所か骨折してしまい、絶叫を上げる。
『みんな……武器を下ろしてくれ。市民の命より大事な物はない』
オサムの指示で、まわりのボーンロイドも武器を下す。
『ヴァハハハハハッ!警察がぁ!ポリカスがぁ!俺の思い通りになったぁ!』
次の瞬間、モブ3の左腕は地に落ちた。
ハイビスカスが、モブ3が視認できない速度で動いて切り落としたのだ。
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!助けてええええええええ!この卑怯者ォオオオオオオ「!』
痛みのあまり、凄まじい声で泣き叫ぶモブ3。
『市民を回収しろ!』
「あっ、ありがとうございます……イテテ」
一方、人質になっていた男の方はオサムの指示でボーンロイドに回収されていく。
『……許してくれ』
そして、オサムは二次被害を防ぐべく、ハイビスカスが持つビームサーベルをモブ3の心臓に突き立てた。
グサァ!
モブ3もとい
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